112PM048|第112回 看護師国家試験 過去問
Aさん(43歳、男性)は胆道狭窄のため内視鏡的逆行性胆管膵管造影〈ERCP〉検査を受けた。検査後に心窩部痛が出現したため血液検査を行い、禁食、抗菌薬および蛋白分解酵素阻害薬による治療を行うことになった。血液検査の項目でAさんに生じた合併症を判断できるのはどれか。
解答・解説を見る
正解: 1
正答
1.アミラーゼ〈AMY〉
この問題のポイント
ERCP後に最も多い合併症である**急性膵炎(ERCP後膵炎)**を思い浮かべ、その診断に使う血液検査項目を選ぶ問題です。手がかりは「ERCP後」「心窩部痛」と、「禁食」「蛋白分解酵素阻害薬」という急性膵炎に特徴的な治療内容です。膵から血中へ逸脱する酵素、つまり血清アミラーゼ(とリパーゼ)の上昇が判断の根拠になります。
解説
問題文の手がかり
- 胆道狭窄のためにERCPを受けた直後の出来事です。
- 検査後に心窩部痛が出ています。膵臓は心窩部から左上腹部の後腹膜にあるため、膵炎の痛みはこの部位に出ます。
- 血液検査の後に選ばれた治療は、禁食、抗菌薬、蛋白分解酵素阻害薬です。蛋白分解酵素阻害薬は膵酵素の活性を抑える薬で、急性膵炎の治療に用いられます。治療内容から、医師が急性膵炎と判断したことが読み取れます。
ERCPとはどのような検査か
ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)では、側視鏡を口から十二指腸下行部まで進め、**十二指腸乳頭(ファーター乳頭)**からカテーテルを胆管や膵管に挿入し、造影剤を注入してX線で撮影します。胆汁や膵液が流れる向きと逆の方向に造影剤を入れるので「逆行性」と呼ばれます。診断だけでなく、内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)、結石の除去、狭窄部へのステント留置などの治療にもつながる手技です。Aさんのような胆道狭窄は、ERCPの代表的な適応です。
なぜ膵炎が起こるのか
カテーテル操作で乳頭がむくんだり、造影剤の注入で膵管内の圧が上がったりすると、膵液の流れが妨げられます。その結果、本来は十二指腸で活性化されるはずのトリプシンなどの膵酵素が膵臓の中で活性化され、膵臓自体を消化してしまいます(自己消化)。これがERCP後膵炎で、ERCPの合併症の中で最も頻度が高いものです。
急性膵炎の診断と膵酵素
急性膵炎は、次の3項目のうち2項目以上を満たせば診断されます(厚生労働省の急性膵炎診断基準)。
- 上腹部の急性の腹痛と圧痛がある
- 血中または尿中の膵酵素が上昇している
- 超音波、CT、MRIで急性膵炎に伴う異常所見がある
膵酵素のうち日常的に測定されるのはアミラーゼとリパーゼです。アミラーゼは発症から数時間で上昇し、数日で正常化しやすいという特徴があります。唾液腺にも含まれるため、耳下腺炎などでも上がります。膵型アミラーゼやリパーゼは膵臓に由来する割合が高く、膵炎への特異性がより高い項目です。ERCP後には、症状を伴わない一過性の高アミラーゼ血症もしばしばみられます。そのため、腹痛などの症状とあわせて膵炎かどうかを判断します。なお、アミラーゼがどれだけ高いかは重症度とは相関しません。重症度は、血清カルシウムの低下、LDH・BUN・クレアチニン・CRPの上昇、血小板数の減少、画像所見などで評価します。
治療の意味と看護
- 禁食:食事は膵外分泌を刺激するため、禁食にして膵臓を安静に保ちます。
- 蛋白分解酵素阻害薬:活性化した膵酵素の働きを抑えます(ガベキサートメシル酸塩、ナファモスタットメシル酸塩など)。
- 抗菌薬:膵周囲の壊死組織の感染や胆管炎などの感染性合併症に備えて使われます。
- 急性膵炎では血管透過性が高まり、循環血液量が減りやすくなります。そのため、十分な輸液による循環管理が治療の基本です。
看護では、次の点を観察します。
- 疼痛の部位と性状、背部への放散の有無
- 悪心・嘔吐、腹部膨満
- 発熱、黄疸
- バイタルサインと尿量(ショックや腎障害の早期発見のため)
痛みは仰臥位で強まり、膝を抱えて前かがみになる姿勢(胸膝位など)で和らぐことが多いので、安楽な体位を工夫します。ERCPの合併症には膵炎のほかに、出血(特にEST後)、消化管穿孔、胆管炎、鎮静薬による呼吸抑制があります。吐血・下血、強い腹痛と腹膜刺激症状、発熱にも注意します。
選択肢の確認
1.アミラーゼ〈AMY〉:正答。膵臓の炎症で膵から血中へ逸脱する酵素で、ERCP後に最も多い合併症である急性膵炎の診断根拠になります。検査後の心窩部痛と、禁食・蛋白分解酵素阻害薬という治療内容とも一致します。唾液腺由来でも上昇するため、膵型アミラーゼやリパーゼをあわせて評価することもあります。
2.アルブミン〈Alb〉:肝臓で合成される血漿蛋白で、栄養状態や肝の合成能、ネフローゼ症候群などによる喪失を反映する項目です。半減期が約3週間と長いため、検査直後に起きた急性の変化をとらえるのには向きません。重症膵炎で血管外への漏出によって低下することはありますが、膵炎の発症そのものを判断する項目ではありません。
3.カリウム〈K〉:細胞内に多く含まれる電解質で、嘔吐や下痢による喪失、腎機能障害、アシドーシスなどで変動する項目です。禁食・輸液中の管理として確認は必要ですが、膵炎に特異的な変化を示すわけではありません。膵炎の重症度に関係する電解質はカルシウム(低下)であり、カリウムと取り違えないようにします。
4.クレアチンキナーゼ〈CK〉:骨格筋・心筋・脳に多く含まれる酵素で、急性心筋梗塞(CK-MB)や横紋筋融解症、筋肉内注射、激しい運動などで上昇する項目です。下壁の心筋梗塞も心窩部痛で発症することがあるため、「心窩部痛」だけに注目すると選びやすい選択肢です。しかし、ERCP直後という経過と、禁食・蛋白分解酵素阻害薬という治療からは、心筋梗塞ではなく急性膵炎が考えられます。
覚えるポイント
- ERCPの最多の合併症は急性膵炎です。そのほか、出血(EST後)、穿孔、胆管炎、鎮静による呼吸抑制に注意します。
- 急性膵炎の診断は「上腹部痛・圧痛」「血中・尿中膵酵素の上昇」「画像所見」の3項目中2項目以上です。膵酵素はアミラーゼとリパーゼで、リパーゼと膵型アミラーゼのほうが膵への特異性が高くなります。
- アミラーゼの値の高さは重症度と相関しません。重症度は、カルシウム低下、LDH・BUN・クレアチニン・CRPの上昇、血小板減少、画像所見などで評価します。
- 急性膵炎の治療の柱は、禁食による膵安静、十分な輸液、疼痛管理、蛋白分解酵素阻害薬です。体位は前かがみの姿勢が安楽です。
- 検査値の対応関係を整理しておきます。CKは筋・心筋の障害、アルブミンは栄養状態と肝の合成能、カリウムは電解質異常、アミラーゼは膵・唾液腺の障害を示します。
- MRCPはMRIで胆管・膵管を描出する非侵襲的な検査で、ERCPのような膵炎の危険はありません。ERCPは治療(ステント留置、結石除去など)もできる点が異なります。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する([email protected])までお知らせください。確認して修正します。