112PM072|第112回 看護師国家試験 過去問
Aさん(58歳、男性)は外国籍の妻(40歳)と10年前に結婚し、2人で暮らしている。虚血性心疾患 ischemic heart disease と診断され、外来看護師による生活指導を妻と一緒に受けることになった。初回の面談で、Aさんは「10年間で体重が10 kg増えました。妻の母国の習慣で味が濃いおかずや揚げ物とご飯を1日に何度も食べています。最近、2人とも運動をしなくなりました」と話した。このときの外来看護師のAさんと妻への最初の対応で適切なのはどれか。
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正解: 1
正答
1.生活習慣の改善についてAさんと妻に考えを聞く。
この問題のポイント
虚血性心疾患の患者と家族に生活指導を行うとき、初回の面談で最初に何をするかを問う問題です。行動変容を支援する指導は、具体策を示す前に、本人と家族が現状をどう受けとめ、何をどこまで変えたいと考えているかを把握することから始めます。「初回の面談」「最初の対応」「妻の母国の習慣」「2人とも」という言葉が判断の手がかりです。
解説
問題文から読み取ること
- Aさんは58歳の男性で、虚血性心疾患と診断されています。10年で体重が10kg増え、味の濃いおかずや揚げ物とご飯を1日に何度も食べ、運動もしなくなっています。肥満、塩分・脂質の多い食事、運動不足という、修正可能な危険因子が重なっています。
- 食事は妻の母国の習慣に根ざしたもので、家庭の文化や価値観と結びついています。
- 指導は外国籍の妻と一緒に受けます。運動をしなくなったのも「2人とも」であり、生活習慣は夫婦に共通する課題です。
- 初回の面談なので、看護師はまだ2人の受けとめ方、改善への意欲、食事や生活の具体的な状況をほとんど把握していません。
問題点がはっきり見えるため、すぐに具体的な改善策を示したくなります。しかし「最初の対応」を問われているので、ここが誤答の落とし穴です。
生活指導は「聴くこと」から始まる
看護過程は、アセスメントから始まり、看護問題の明確化、計画、実施、評価へと進みます。生活指導でも、情報を集めて相手を理解することが出発点です。生活習慣は長年の積み重ねでできており、本人が必要性を納得し、自分にもできると感じなければ、行動は変わらず続きもしません。
行動変容ステージモデルでは、人の準備状態を5段階に分けます。無関心期(6か月以内に行動を変える気がない)、関心期(6か月以内に変えようと考えている)、準備期(1か月以内に変えるつもりで準備を始めている)、実行期(行動を変えて6か月未満)、維持期(6か月以上続いている)です。段階によって有効な関わりは違います。無関心期なら病気と生活習慣の関係を理解してもらう働きかけ、準備期なら具体的な計画づくりの支援が中心になります。Aさんの発言から事実の自覚はうかがえますが、変えたいのか、何なら変えられそうかはまだ分かりません。段階を見極めるにも、まず本人の考えを聞く必要があります。本人が自分で決めた目標は、「自分にもできる」という感覚(自己効力感)を高め、実行と継続につながりやすくなります。
文化と家族への配慮
食事は家族の文化そのものです。妻の母国の料理を頭から否定すると、妻が自分の生き方まで否定されたと感じ、協力が得られなくなるおそれがあります。誰が調理しているのか、どの料理が2人にとって大切か、味つけや調理法、量のどこなら調整できそうかを聞き、文化を尊重しながら取り入れられる工夫を一緒に探すことが大切です。妻が日本語の説明をどの程度理解できるかも確かめ、平易な言葉を使ったり、必要に応じて通訳や翻訳資料を活用したりします。妻は食事を支える協力者であり、運動不足は妻にも共通する課題なので、2人の生活全体を見て関わります。
正答に至る判断
以上から、初回の最初の対応としては、生活習慣の改善についてAさんと妻の双方に考えを聞くことが適切です。そのうえで、実行できそうな小さな目標から一緒に決めていきます。たとえば揚げ物の回数を減らす、味つけを少し薄くする、主食の量を調整する、短い散歩から始めるといったことです。
周辺知識:虚血性心疾患の生活管理
虚血性心疾患の主な危険因子は、高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、肥満、運動不足、ストレスなどです。食事では減塩(高血圧の食事療法では食塩6g/日未満が目標)、飽和脂肪酸をとりすぎないこと、適正なエネルギー量を意識します。運動療法は、運動負荷試験などで運動耐容能を評価し、それに基づく運動処方に沿って行うのが原則で、心臓リハビリテーションの考え方につながります。
選択肢の確認
1.生活習慣の改善についてAさんと妻に考えを聞く。:正答。改善の必要性をどう受けとめているか、何なら変えられそうか、何が妨げになるかを本人と妻の双方から聞くことは、行動変容ステージの把握と、実行できる計画づくりの出発点になります。文化的背景をもつ食習慣を尊重する姿勢を示すことにもなり、初回の最初の対応として最も適切です。
2.食事は1日3回までにするよう指導する。:1日に何度も食べる習慣は確かに問題ですが、そうなっている理由(生活リズム、習慣、空腹感など)も本人たちの意向も確かめないまま、制限を一方的に指示しています。回数を制限するだけでは、濃い味つけや揚げ物といった食事内容の問題も解決しません。話し合いの結果、2人が納得して選んだ目標であれば、後の段階で取り入れることは考えられます。
3.毎日1時間のウォーキングを提案する。:ウォーキングは有酸素運動として勧められる運動ですが、虚血性心疾患の患者では、運動耐容能を評価し、医師の運動処方に基づいて行うのが原則です。運動をしていなかった人が急に毎日1時間歩くと、負担が大きく狭心症発作などの危険があり、継続も難しくなります。本人の意向を確認してからでなければ、どのような運動提案も一方的です。
4.料理教室に通うことを勧める。:調理法を学ぶ場として、本人たちが希望すれば後に役立つ社会資源になり得ますが、初回の時点ではニーズも調理の担い手も分かっていません。妻の料理を否定する意味に受け取られるおそれがあるほか、言語面の負担も考えられ、最初の対応としては時期尚早です。
覚えるポイント
- 生活指導・保健指導の「最初の対応」は、具体策の提示ではなく、本人と家族の認識・意向・生活状況を把握すること(アセスメント)です。
- 行動変容ステージは、無関心期・関心期・準備期・実行期・維持期の5段階です。期間の目安は、6か月以内に変えるか、1か月以内に変えるか、変えて6か月未満か、6か月以上続いているかで区別します。
- 目標は本人と一緒に、実行できる小さなものから決めます。自分で決めた目標は自己効力感を高め、継続につながります。
- 文化に根ざした食習慣は否定せず、味つけ・調理法・量の調整など取り入れやすい工夫を探します。外国籍の家族には言語面の配慮も行います。
- 虚血性心疾患の運動療法は、運動耐容能の評価と医師の運動処方に基づいて行います。いきなり高負荷の運動を勧めないことが原則です。
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