112PM115|第112回 看護師国家試験 過去問

次の文を読み115〜117の問いに答えよ。Aさん(50歳、男性、自営業)は妻(48歳)、長男(23歳、会社員)と3人で暮らしている。3年前から歩行時のふらつきを自覚していたが、日常生活動作〈ADL〉は自立していた。最近、転倒が多くなり医療機関を受診して頭部CT検査を受けたところ、小脳と脳幹に萎縮を認め、遺伝性の脊髄小脳変性症 spinocerebellar degeneration と診断された。Aさんは「母も同じ疾患で亡くなりました。妹が同じ敷地内に1人で暮らしていますが、妹も転ぶことが多くなり、医師の勧めで遺伝子診断を受ける予定です。明日、保健所に難病の医療費助成の申請に行くのですが、保健師に伝えた方がよいことはありますか」と看護師に質問した。Aさんから保健師に伝える内容で優先度が高いのはどれか。

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正解: 2

正答

2.Aさんの経済状況

この問題のポイント

遺伝性の脊髄小脳変性症と診断されたAさんは、翌日に保健所で難病の医療費助成を申請します。その際に保健師へ伝える情報のうち、優先度が高いものを選ぶ問題です。判断の手がかりは、「難病の医療費助成の申請」という来所の目的と、「自営業」という生活背景です。指定難病の医療費助成では世帯の所得によって自己負担上限額が決まること、そして家族の遺伝情報は本人の同意なく第三者に伝えないことを押さえていれば解けます。

解説

状況の整理

  • Aさんは50歳の男性で、自営業です。3年前から歩行時にふらつきがあり、最近は転倒が増えています。頭部CTで小脳と脳幹の萎縮を認め、遺伝性の脊髄小脳変性症と診断されました。ADLはこれまで自立していました。
  • 家族は妻(48歳)と会社員の長男(23歳)です。母親は同じ疾患で亡くなっており、同じ敷地内に住む妹も転倒が増えて、遺伝子診断を受ける予定です。
  • Aさんの質問は「医療費助成の申請で、保健師に何を伝えるとよいか」です。看護師は、申請と申請後の支援に役立つ情報を助言する立場にあります。

難病の医療費助成の仕組み

医療費助成の根拠は**難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)**です。脊髄小脳変性症は指定難病に含まれます。申請先は都道府県(指定都市)で、窓口は保健所であることが多いです。申請には、難病指定医が作成する臨床調査個人票(診断書)のほか、健康保険証の写しや市町村民税の課税状況がわかる書類などが必要です。認定されると、次のように負担が軽くなります。

  • 医療費の自己負担割合は、3割の人でも2割に下がります(もともと2割以下の人はそのままです)。
  • 1か月の自己負担上限額は、医療保険上の世帯の市町村民税の課税状況に応じた所得区分で決まります。生活保護受給者は負担がなく、所得が高いほど上限額が高くなります。高額な医療が長く続く人や、人工呼吸器などを装着している人には、さらに軽い上限額が設けられています。
  • 上限額は、指定医療機関(病院・診療所、薬局、訪問看護など)で支払った額を合算して管理します。
  • 原則として重症度分類の基準を満たす人が対象です。軽症でも、医療費が一定額を超える月が一定回数以上ある場合は対象になります(軽症高額該当)。
  • 認定の有効期間は原則1年で、更新のたびに所得区分も見直されます。

このように、Aさんの収入や世帯の課税状況は、申請手続きと自己負担額の決定に直接かかわる情報です。

自営業と進行性疾患という背景

脊髄小脳変性症は、小脳性運動失調(歩行時のふらつき、構音障害など)が徐々に進む疾患です。脳幹の障害が加わると、嚥下障害なども起こりえます。自営業のAさんは一般に国民健康保険に加入しています。国民健康保険の傷病手当金は保険者が任意で行う給付で、実施している保険者はほとんどありません。そのため、病気が進んで働けなくなると、収入の減少がそのまま家計に響きます。

保健所の保健師は、難病患者の療養相談や訪問を行い、地域の支援体制づくりを担う立場です。経済状況がわかれば、次のような制度を見通しをもって紹介できます。

  • 障害年金、身体障害者手帳
  • 障害者総合支援法の障害福祉サービス(難病患者も対象です)
  • 介護保険サービス(脊髄小脳変性症は特定疾病なので、40〜64歳でも第2号被保険者として要介護認定を受けて利用できます)

申請という来所の目的に直結し、今後の支援にも欠かせない情報であることが、経済状況の優先度が高い理由です。

家族の遺伝情報の扱い

遺伝情報は、生涯変わらず、血縁者とも共有される情報です。差別や不利益につながるおそれもあるため、特に慎重な扱いが求められます。妹の遺伝子診断は妹自身の情報なので、妹の同意なくAさんが第三者に伝えることは適切ではありません。看護師は、妹の意思を尊重するよう助言し、必要であれば遺伝カウンセリングなど専門の相談につなぎます。

出題当時と現在

出題当時は、医療費助成の開始日は申請日でした。2023年10月からは、重症度分類を満たすと診断された日までさかのぼれるようになっています(原則として申請日の1か月前まで)。どちらの時点でも、診断後は速やかに申請することが大切です。

選択肢の確認

1.長男の仕事内容:医療費助成の所得区分は、医療保険上の世帯で判定します。会社員の長男は通常、勤務先の健康保険に加入しているため、国民健康保険に加入していると考えられるAさんの所得区分の判定には原則として含まれません。将来、家族の介護力を考える場面では参考になりますが、申請時に優先して伝える情報ではありません。なお、長男は遺伝の可能性がある血縁者です。ただし、その点は遺伝カウンセリングで扱う事柄で、仕事の内容とは関係がありません。

2.Aさんの経済状況:正答。難病法の医療費助成では、世帯の市町村民税の課税状況から所得区分が決まり、それに応じて月額の自己負担上限額が決まります。そのため、収入の状況は申請に直接必要な情報です。加えて、自営業のAさんは進行性の疾患によって収入が減るおそれがあります。保健師が早い段階で把握しておけば、障害年金や介護保険などの利用を見通した支援につなげられます。

3.母親の病状の経過:家族歴として疾患の経過を予測する手がかりにはなりますが、それは医療者が診療のなかで扱う情報です。Aさんの診断はすでに医師が確定しており、申請に必要な医学的情報は難病指定医が臨床調査個人票に記載します。そのため、Aさんが申請の窓口で保健師に優先して伝える内容ではありません。

4.妹の遺伝子診断の予定:これは妹本人の、きわめて慎重に扱うべき遺伝情報で、まだ結果も出ていない段階です。妹の同意なくAさんが保健師に伝えることは、プライバシーの保護という観点から適切ではありません。Aさん自身の申請にも必要ありません。妹が支援を必要とする場合は、妹自身が保健所に相談したり申請したりすることになります。家族の遺伝情報を支援に活用すべきだと取り違えないよう注意しましょう。

覚えるポイント

  • 難病法の医療費助成(特定医療費)は、自己負担割合が2割になり、月額の自己負担上限額は医療保険上の世帯の所得区分で決まります。生活保護受給者は負担がなく、上限額は指定医療機関の支払いを合算します。有効期間は原則1年で、更新ごとに所得区分を見直します。
  • 対象は、原則として重症度分類の基準を満たす人です。軽症でも、医療費が一定額を超える月が続く場合は対象になります(軽症高額該当)。申請窓口は保健所であることが多いです。
  • 脊髄小脳変性症は介護保険の特定疾病です。40〜64歳でも第2号被保険者として介護保険サービスを利用できます。
  • 自営業(国民健康保険)の人は、傷病手当金による所得保障が期待しにくいため、進行性疾患では経済状況の把握と制度の紹介を早めに行います。
  • 日本の遺伝性脊髄小脳変性症の多くは常染色体優性(顕性)遺伝です。血縁者の遺伝情報は本人の同意なく第三者に伝えず、遺伝カウンセリングにつなぎます。
  • 「優先度の高い情報」を選ぶ問題では、相談の目的に直結する本人の情報を、目的と関係の薄い家族の情報や同意のない第三者の情報より優先します。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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