112PM118|第112回 看護師国家試験 過去問

次の文を読み118〜120の問いに答えよ。午前10時、A県内で大規模災害が発生した。A県内の救命救急センターに、家屋等の倒壊現場から救助された傷病者の受け入れ要請があり病院に搬送された。直ちにトリアージが行われた。搬送されてきたBさん(45歳、男性)には頻呼吸が認められ、胸部と背部の痛みを訴え、吸気時に胸郭が陥没し、呼気時には膨隆している。Bさんに考えられる状態はどれか。

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正解: 4

正答

4.フレイルチェスト〈胸壁動揺〉 flail chest

この問題のポイント

災害で受傷した人の呼吸の様子から、胸部外傷の病態を判断する問題です。決め手は「吸気時に胸郭が陥没し、呼気時に膨隆する」という、正常とは逆向きの胸壁の動き(奇異呼吸)です。家屋倒壊による受傷、頻呼吸、胸背部痛とあわせると、多発肋骨骨折によるフレイルチェストと判断できます。

解説

まず問題文の手がかりを整理します。

  • 受傷機転:家屋等の倒壊現場から救助された(胸部に強い外力が加わった可能性が高い)
  • 呼吸:頻呼吸
  • 疼痛:胸部と背部の痛み(肋骨は後方で胸椎と関節をつくり、前方は肋軟骨を介して胸骨側につながるため、肋骨骨折では胸部から背部にかけて痛みます)
  • 視診:吸気時に胸郭が陥没し、呼気時に膨隆する

このうち決め手は最後の所見です。

正常な呼吸では、吸気時に横隔膜と外肋間筋が収縮して胸郭が広がり、胸腔内の陰圧が強まって肺に空気が入ります。つまり正常では「吸気で胸郭が膨らみ、呼気でしぼむ」動きになります。

フレイルチェストは、連続する複数の肋骨(一般に3本以上)がそれぞれ2か所以上で骨折し、胸壁の一部が周囲の骨格から切り離された状態です。胸骨骨折と肋軟骨部の骨折の組み合わせで起こることもあります。切り離された部分(動揺部)は、呼吸筋の力で広がることができず、胸腔内圧の変化に受け身で動きます。そのため吸気時には強まった陰圧に引き込まれて陥没し、呼気時には胸腔内圧が上がって外へ押し出され膨隆します。周囲の胸壁と逆向きに動くこの現象を奇異呼吸といい、Bさんの所見そのものです。

フレイルチェストで呼吸不全が起こる理由として、奇異運動による換気効率の低下に加えて、次の2点が重要です。

  • 動揺部の下の肺に肺挫傷が生じやすく、ガス交換が障害される(低酸素血症の主な原因)
  • 強い疼痛のため深呼吸や咳嗽ができず、浅く速い呼吸となり、痰の貯留、無気肺、肺炎につながる

さらに、骨折端が胸膜や肺を傷つけて気胸・血胸を合併することもあります。フレイルチェストは、心タンポナーデ、気道閉塞、開放性気胸、緊張性気胸、大量血胸とともに、外傷初期診療で見逃してはならない致死的胸部外傷の一つです(頭文字からTAF3Xと呼ばれます)。

治療の基本は、酸素投与と十分な鎮痛(オピオイド、硬膜外鎮痛、肋間神経ブロックなど)です。呼吸不全が進む場合は、気管挿管して陽圧換気を行い、胸郭を内側から支えて動揺を抑えます(内固定)。動揺範囲が広い場合などには、手術による肋骨固定が行われることもあります。陽圧換気を始めると、合併していた小さな気胸が緊張性気胸へ進むことがあります。このため、胸腔ドレナージの準備を含めた観察が欠かせません。

看護の中心は、悪化の徴候を早くとらえることです。呼吸数、SpO2、胸郭の動きと左右差、呼吸音、皮下気腫、頸静脈怒張、気管偏位、血圧低下を繰り返し観察します。鎮痛を図ったうえで、骨折部を手や枕で押さえながら咳嗽や深呼吸を促す支援は、無気肺や肺炎の予防につながります。

なお、「奇異呼吸」と似た言葉に、上気道閉塞でみられるシーソー呼吸があります。こちらは吸気時に胸部が陥没して腹部が膨らむ、胸と腹の逆向きの動きです。胸壁の一部だけが周囲と逆に動くフレイルチェストとは区別して覚えます。

この場面はトリアージ中です。START法では、呼吸数30回/分以上の頻呼吸は赤(最優先治療群)の判定基準の一つです。二次トリアージのPAT法でも、解剖学的評価の項目にフレイルチェスト(胸郭の動揺)が含まれています。したがって、Bさんは最優先で治療すべき傷病者と判断されます。

選択肢の確認

1.過換気症候群 hyperventilation syndrome:過換気症候群は、不安や心理的ストレスをきっかけに発作的な過呼吸となる状態です。動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が低下して呼吸性アルカローシスとなり、口周囲や手指のしびれ、手足のこわばり(テタニー)、動悸、胸部の圧迫感を伴います。頻呼吸という点はBさんと共通しますが、胸郭の形や動きは正常で、吸気時の陥没・呼気時の膨隆は起こりません。災害時には強い不安から過換気が起こることもあります。しかし、外傷患者の頻呼吸をすぐに心因性と決めつけず、まず気胸・血胸などの器質的な原因を除外するのが原則です。

2.虚血性心疾患 ischemic heart disease:虚血性心疾患は、冠動脈の狭窄や閉塞で心筋への血流が不足する狭心症・心筋梗塞の総称です。前胸部の締めつけられるような痛みが典型で、左肩・左腕・下顎への放散痛や冷汗を伴います。診断には心電図のST変化や心筋トロポニンの上昇を用います。災害のストレスが発症の引き金になることはありますが、心臓の病変で胸壁の奇異運動は生じないため、外傷後の胸郭の視診所見を説明できません。胸背部痛で取り違えやすい疾患として、突然の引き裂かれるような痛みを特徴とする大動脈解離も押さえておきましょう。

3.腰椎圧迫骨折 lumbar compression fracture:腰椎圧迫骨折は、椎体が上下からの力でつぶれて楔状に変形する骨折です。骨粗鬆症のある高齢者が尻もちなどの軽い外力で起こすことが多く、高所からの転落などの強い外力でも生じます。症状は腰背部痛と、起き上がりや寝返りなど体動時の痛みの増強です。骨片が脊柱管に突出する破裂骨折では、下肢の神経症状を伴うこともあります。胸郭は胸椎・肋骨・胸骨で構成され、腰椎は含まれないため、胸郭の奇異運動や頻呼吸は説明できません。

4.フレイルチェスト〈胸壁動揺〉 flail chest:正答。多発肋骨骨折で胸壁の一部が周囲から切り離され、吸気時に陥没し呼気時に膨隆する奇異呼吸を示します。家屋倒壊という強い外力による受傷、胸部と背部の痛み、頻呼吸ともよく合い、Bさんの所見をすべて説明できます。肺挫傷や気胸・血胸を伴いやすい致死的胸部外傷であり、酸素投与と鎮痛、必要に応じた陽圧換気による管理が必要です。

覚えるポイント

  • フレイルチェストは、連続する複数の肋骨(一般に3本以上)がそれぞれ2か所以上で骨折し、胸壁の一部が遊離した状態です。吸気時に陥没し、呼気時に膨隆する奇異呼吸を示します。
  • 呼吸不全の主な原因は、動揺部の下の肺挫傷と、疼痛による換気の低下です。気胸・血胸の合併と、陽圧換気開始後の緊張性気胸への進展に注意します。
  • 対応は、酸素投与、十分な鎮痛、必要に応じた気管挿管・陽圧換気(内固定)です。鎮痛を図ったうえで咳嗽・深呼吸を支援し、無気肺・肺炎を予防します。
  • 致死的胸部外傷(TAF3X)は、心タンポナーデ、気道閉塞、フレイルチェスト、開放性気胸、緊張性気胸、大量血胸です。
  • シーソー呼吸(上気道閉塞)は胸部と腹部が逆向きに動く呼吸で、胸壁の一部だけが逆に動くフレイルチェストとは区別します。
  • 過換気症候群は、PaCO2の低下による呼吸性アルカローシスでしびれやテタニーを起こします。外傷患者の頻呼吸では、器質的な原因の除外を先に行います。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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