第105回
105AM049|第105回 助産師国家試験 過去問
次の文を読み47〜49の問いに答えよ。Aさん(40歳、初産婦)は産婦人科病院で妊婦健康診査を受けていた。妊娠32週までの妊娠経過に異常はなかった。妊娠36週以降に血圧の上昇傾向があり、妊娠37週から尿蛋白が確認されたため、妊娠38週2日に入院して分娩誘発の予定となった。妊娠34週から妊娠38週の妊婦健康診査のデータを表に示す。【表】 妊娠週日|血圧/(mmHg)|尿蛋白/(試験紙)|子宮口の状態|胎児推定体重/(g)|羊水量 34週2日|130/78|-|子宮口:閉鎖/展退度:30%未満|2,150|正常 36週3日|137/89|±|子宮口:閉鎖/展退度:30%未満|2,380|正常 37週2日|135/87|+|子宮口:1.5 cm開大/展退度:40%|2,450|少ない 38週1日|143/91|+|子宮口:2cm開大/展退度:40%|2,580|少ない 【表ここまで】 胎児心拍数の低下への対応を行ったが改善することはなく、助産師はAさんの状態を確認するために声をかけた。そのとき、Aさんは突然両手を小刻みに震わせており意識レベルが低下していることに助産師は気が付いた。助産師の連絡で産婦人科医が駆け付けた。このときに行われることで適切なのはどれか。2つ選べ。

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正解2・4
正答
2.抗痙攣薬の投与
4.硫酸マグネシウムの投与
この問題のポイント
妊娠36週以降に血圧が上がり、37週から尿蛋白が陽性になった産婦の場面です。入院後、胎児心拍数の低下が続くなかで、突然両手を小刻みに震わせ、意識レベルが低下しました。妊娠高血圧腎症がある人に起きた痙攣と意識障害なので、まず子癇発作を考えます。発作時は気道確保と酸素投与を行いながら、抗痙攣薬で痙攣を止めることが最優先で、その第一選択薬が硫酸マグネシウムです。急速遂娩や麻酔は、母体の状態が安定してから検討します。
解説
表から読み取る妊娠経過
Aさんは40歳の初産婦で、35歳以上の初産婦である高年初産婦にあたります。初産と高年妊娠は、どちらも妊娠高血圧症候群のリスク因子です。表の経過は次のとおりです。
- 血圧:34週2日130/78 mmHg、36週3日137/89 mmHg、37週2日135/87 mmHg、38週1日143/91 mmHgと上昇傾向にあります。38週1日に高血圧の基準(収縮期140 mmHg以上または拡張期90 mmHg以上)を満たしました。
- 尿蛋白(試験紙):「-」「±」「+」「+」と推移し、37週2日から陽性が続いています。
- 羊水量:36週3日までは「正常」でしたが、37週2日以降は「少ない」です。
- 胎児推定体重:2,150 gから2,580 gへと増え続けています。
- 子宮口:36週3日までは閉鎖、37週2日に1.5 cm開大・展退度40%、38週1日に2 cm開大・展退度40%でした。
妊娠20週以降に初めて高血圧が現れ、蛋白尿を伴っているので妊娠高血圧腎症と判断できます。妊娠34週以降の発症なので遅発型です。羊水の減少は、胎盤機能が落ちて胎児の腎血流と尿量が減っていることを疑わせる所見です。妊娠高血圧症候群の根本的な治療は妊娠の終了(胎児と胎盤の娩出)です。このため、正期産に達したAさんは入院して分娩誘発を行う方針になりました。
発作をどう判断するか
胎児心拍数が低下したときは、体位変換、酸素投与、子宮収縮薬の減量・中止、輸液などで改善を図ります。Aさんは対応後も改善せず、胎児機能不全が続いている状態です。そこへ、突然の両手の小刻みな震えと意識レベルの低下が加わりました。妊娠高血圧腎症のある産婦に起きた痙攣と意識障害は、子癇発作の始まりと判断します。
子癇とは、妊娠20週以降に初めて起こる痙攣発作のうち、てんかんや他の原因による痙攣が否定されるものです。起きた時期によって妊娠子癇・分娩子癇・産褥子癇に分けます。脳血管の自己調節が破綻して起こる、脳の血管原性浮腫が関わると考えられています。
- 前駆症状:頭痛、眼華閃発などの視覚異常、心窩部痛、悪心・嘔吐、急な血圧上昇がみられることがあります。血圧が重症域でなくても子癇は起こりうるので、血圧の値だけでなく症状の観察が大切です。
- 発作の経過:意識消失や眼球上転に始まり、全身の強直性痙攣、間代性痙攣を経て昏睡に移ることが多いです。痙攣中は呼吸が止まりやすく、低酸素に陥ります。
- 危険:母体の低酸素は胎児の状態をさらに悪化させます。舌咬傷、転落、誤嚥、脳出血、常位胎盤早期剥離などの危険も伴います。
発作時の対応と硫酸マグネシウムの管理
子癇発作では、母体の救命と安全の確保が最優先です。
- 応援を呼んで医師に連絡します。発作の開始時刻、痙攣の様子と持続時間、意識の状態を観察して記録します。
- 無理に押さえつけず、ベッド柵などで転落や外傷を防ぎます。顔を横に向けるか左側臥位にして口腔内の分泌物を吸引し、気道を確保して酸素を投与します。左側臥位は、妊娠子宮による下大静脈の圧迫を防ぎ、子宮胎盤血流の維持にも役立ちます。
- 静脈路を確保し、医師が抗痙攣薬を投与します。第一選択は硫酸マグネシウムです。初回量を時間をかけて静脈内に投与したあと、維持量を持続投与して痙攣を抑え、再発も防ぎます。硫酸マグネシウムで治まらない場合などには、ジアゼパムなど他の抗痙攣薬が用いられることもあります。
- 重症高血圧があれば、ニカルジピンやヒドララジンの静注などで降圧します。急に下げすぎると子宮胎盤血流が減るため、慎重に調節します。
- 母体の血圧・呼吸・SpO2・意識レベルと胎児心拍数を監視し続け、光や音などの刺激を避けます。
- 母体の状態が安定してから、分娩の時期と方法を決めます。本例のように胎児機能不全が続き、すぐに経腟分娩できる状態でなければ、帝王切開による急速遂娩が検討されます。発作後は、脳出血などとの鑑別のため頭部の画像検査も検討されます。
硫酸マグネシウムは腎臓から排泄されるため、尿量が減ると血中濃度が上がり、中毒を起こしやすくなります。中毒は膝蓋腱反射の減弱・消失から始まり、呼吸抑制、さらに心伝導障害・心停止へと進みます。そのため、膝蓋腱反射、呼吸数、尿量、血中マグネシウム濃度を定期的に確認し、拮抗薬のグルコン酸カルシウムを準備しておきます。子宮収縮を抑える作用があるので分娩後の弛緩出血に注意します。胎盤を通過するので、出生児の筋緊張低下や呼吸抑制にも注意します。子癇は分娩後にも起こりうるため、投与は分娩後もしばらく続けます。妊娠高血圧腎症の産婦を受け持つ助産師は、前駆症状と血圧を観察し、吸引器・酸素・救急薬品をすぐ使えるよう準備しておくことが大切です。
選択肢の確認
1.吸引分娩の実施:吸引分娩は、子宮口全開大、破水、児頭の十分な下降、児頭骨盤不均衡がないことなどの条件がそろった分娩第2期に、分娩を急ぐ必要があるときに行う急速遂娩の方法です。問題文には子宮口全開大や児頭の十分な下降を示す情報がありません。何より痙攣と意識障害が起きている今は、気道確保と痙攣を止めることが先です。胎児機能不全に対し、分娩第2期で条件がそろっていれば選ばれることのある方法ですが、それも母体の状態が安定していることが前提です。
2.抗痙攣薬の投与:正答。痙攣が続くと呼吸が止まり、母体も胎児も低酸素に陥ります。脳出血や誤嚥の危険も高まるため、医師が駆け付けたこの時点で発作を止めることが最優先の治療です。子癇での抗痙攣薬の第一選択は硫酸マグネシウム(選択肢4)で、治まらない場合などにはジアゼパムなども使われます。発作を止める薬物治療と、その第一選択薬の投与は、どちらもこの場面で行う処置なので、選択肢4とともに正答になります。鎮静作用のある薬は呼吸抑制を起こしうるため、呼吸の観察を並行して行います。
3.硬膜外麻酔の準備:硬膜外麻酔は、背中を丸めた姿勢を保ってもらって穿刺する処置です。本人の意識が保たれて協力が得られることと、血小板数や凝固能に問題がないことが前提になります。痙攣と意識障害が起きている今はこの条件を満たさず、優先して準備するものでもありません。妊娠高血圧症候群では、HELLP症候群などで血小板が減少していることもあります。状態の安定した妊娠高血圧症候群の産婦では、痛みによる血圧上昇を抑える利点から硬膜外鎮痛を用いることもあります。一方、意識障害が続くなかで緊急帝王切開を行う場合は、全身麻酔が選ばれることがあります。
4.硫酸マグネシウムの投与:正答。硫酸マグネシウムは、子癇の痙攣を抑え、再発を防ぐための第一選択薬です。ジアゼパムやフェニトインよりも痙攣の再発を減らすことが、大規模な臨床試験で示されています。マグネシウムイオンがカルシウムに拮抗し、神経の過剰な興奮や脳血管の攣縮を抑えると考えられています。重症の妊娠高血圧腎症では、子癇の予防目的で分娩前後に投与されることもあり、投与中は中毒の徴候を監視します。
5.プロスタグランジンF2α の点滴:PGF2α(ジノプロスト)は、点滴静注で陣痛誘発・促進に用いる子宮収縮薬で、痙攣を止める作用はありません。子宮収縮を強めると子宮胎盤血流が減り、改善しない胎児心拍数の低下をさらに悪化させます。このため、胎児機能不全があるときは子宮収縮薬を減量・中止するのが原則です。PGF2αは気管支平滑筋を収縮させるため気管支喘息のある人には禁忌であること、オキシトシンとプロスタグランジン製剤を同時に併用しないことも、あわせて押さえておきましょう。
覚えるポイント
- 妊娠高血圧症候群の高血圧は収縮期140 mmHg以上または拡張期90 mmHg以上、重症は収縮期160 mmHg以上または拡張期110 mmHg以上です。妊娠20週以降に初めて高血圧が現れ、蛋白尿を伴えば妊娠高血圧腎症です。34週未満の発症は早発型、34週以降は遅発型です。
- 子癇は、妊娠20週以降に初めて起こり、てんかんなど他の原因が否定される痙攣発作です。頭痛、眼華閃発、心窩部痛などの前駆症状を見逃さず、血圧が重症域でなくても起こりうると考えます。
- 子癇発作時は、応援要請 → 転落・外傷の防止 → 気道確保・酸素投与 → 硫酸マグネシウム(第一選択)による痙攣の抑制と再発予防 → 降圧 → 母体の安定後に分娩方針の決定、の順で考えます。
- 硫酸マグネシウム中毒は、膝蓋腱反射の消失 → 呼吸抑制 → 心停止と進みます。尿量が減ると蓄積しやすく、拮抗薬はグルコン酸カルシウムです。分娩後の弛緩出血と、新生児の筋緊張低下・呼吸抑制にも注意します。
- 吸引分娩は子宮口全開大・破水・児頭の十分な下降が条件、硬膜外麻酔は意識と協力・凝固能が条件です。胎児機能不全では子宮収縮薬を減量・中止し、PGF2αは気管支喘息で禁忌です。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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