第105回

105AM055|第105回 助産師国家試験 過去問

次の文を読み53〜55の問いに答えよ。Aさん(39歳、アルバイト)は、3年前からパートナーと同居しはじめたが入籍はしていない。2年半前に流産し、その後、避妊をせずに性交を行っているが、妊娠しない状況が続いている。Aさんは、そのうち子どもができるだろうと考えていたが、40歳の誕生日が近づき年齢を意識するようになってから、焦りのような不安な気持ちになった。Aさんは、市の不妊専門相談センターを訪問し、助産師に「流産した後、妊娠しません。子どもが欲しいと思っているのですが、私の年齢で自然な妊娠は無理なのかと心配です」と話した。Aさんは妊娠中期に妊娠糖尿病と診断されたが、食事療法で血糖コントロールはできている。妊娠36週の妊婦健康診査時、Aさんが「実は、妊娠が分かったころに、彼(パートナー)は仕事を解雇されてしまい、ふさぎ込んで実家に帰ってしまいました。今、私は1人で生活しています。これから生活していけるのか心配です。妊娠しなければよかった」と話す。担当した助産師は、保健センターと連携した方が良いと判断し、Aさんに保健センターに情報提供することについて同意を求めたが拒否された。このときの助産師の対応で適切なのはどれか。

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正解4

正答

4.地区担当保健師に情報提供する。

この問題のポイント

妊娠36週のAさんは、パートナーが実家に帰って1人で生活しています。そこに経済的な不安と「妊娠しなければよかった」という妊娠を否定する発言が重なっており、出産後の養育に支援が必要な特定妊婦と判断できるかが1つ目の鍵です。もう1つの鍵は、本人が情報提供を拒否しても、児童福祉法の規定に基づいて市町村(地区担当保健師)へ情報提供できると理解しているかです。

解説

問題文から読み取る情報

  • 年齢と産歴:不妊相談の時点で39歳です。問54の経過(40歳の誕生日に不妊治療の開始を決め、その約半年後に顕微授精で妊娠が成立)から、妊娠36週の時点では41歳前後です。流産歴があり、分娩歴の記載はありません。初産であれば、35歳以上の初産婦である高年初産婦にあたります。
  • 身体面:妊娠糖尿病は食事療法で血糖コントロールができています。この場面で優先して対応すべき医学的な問題は示されていません。
  • 社会面:パートナー(相談時点で未入籍)は、妊娠が分かったころに解雇され、ふさぎ込んで実家に帰りました。Aさんは現在1人で生活しており、「これから生活していけるのか」と経済面・生活面の不安を訴えています。
  • 心理面:子どもを望んで不妊相談に訪れ、不妊治療を経て妊娠したにもかかわらず、「妊娠しなければよかった」と妊娠を否定する発言が出ています。
  • 時期:36週は正期産(37週0日から)の直前で、いつ分娩が始まってもおかしくない時期です。産前に支援体制を整えるための時間は限られています。

特定妊婦とは

児童福祉法は、「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」を特定妊婦と定めています。代表的なリスク要因は次のとおりです。

  • 経済的困窮
  • 身近な支援者がいないこと
  • 望まない妊娠や妊娠への否定的感情
  • 若年、未婚・ひとり親
  • 精神疾患
  • 妊婦健康診査の未受診

Aさんには、支援者の不在、経済的不安、妊娠への否定的感情が同時にそろっています。このまま出産を迎えると、産後の孤立、産後うつ、養育困難、さらには虐待につながるおそれがあります。特定妊婦は、要保護児童・要支援児童とともに要保護児童対策地域協議会の支援対象です。妊娠中から地域の関係機関が情報を共有して支えます。

同意が得られないときの情報提供

助産師には守秘義務があります。根拠は、助産師が刑法の秘密漏示罪、保健師・看護師・准看護師が保健師助産師看護師法です。

一方で児童福祉法は、病院・診療所などの機関や、医師・保健師・助産師・看護師などに対し、要支援児童等(特定妊婦を含む)と思われる者を把握したら、その情報を市町村に提供するよう努めることを求めています。あわせて、この情報提供は刑法の秘密漏示罪その他の守秘義務に関する規定に妨げられないことも明記されています。個人情報保護法でも、次のような場合は本人の同意なく第三者に提供できる例外とされています。

  • 法令に基づく場合
  • 児童の健全な育成の推進のために特に必要で、本人の同意を得ることが困難な場合

したがって、本人の同意を得る努力をするのが原則ですが、拒否されても支援の必要性が高いと判断すれば、市町村へ情報提供できます。本問では、助産師自身が保健センターとの連携が必要と判断しています。正期産を目前にして残された時間も短いため、拒否されたまま連携を見送らず、地区担当保健師へ情報をつなぐのが適切です。

実践での考え方

市町村保健センターの地区担当保健師は、妊娠の届出と母子健康手帳の交付を起点に妊婦と関わります。妊娠中の家庭訪問、産後の新生児訪問・乳児家庭全戸訪問、養育支援訪問事業、産後ケア事業などを通して、産前から産後まで継続的に支援できます。生活保護(福祉事務所)やひとり親支援などの福祉制度につなぐ窓口にもなります。

情報提供したあとも、担当の助産師はAさんとの関係を切らさないことが大切です。保健師は「監視する人」ではなく「一緒に準備を整える支援者」であると伝えます。健診の場で顔合わせをするなど、Aさんが受け入れやすい形で連携を進めます。

出題当時、妊娠期からの切れ目ない支援の拠点は、子育て世代包括支援センター(母子保健法上の母子健康包括支援センター)でした。現在は、改正児童福祉法により2024年4月から、子育て世代包括支援センターと子ども家庭総合支援拠点を一体化したこども家庭センターの設置が市町村の努力義務となっています。母子保健と児童福祉が一体的に対応する体制です。

選択肢の確認

1.パートナーと児の養育について話し合うよう勧める。:パートナーは解雇後にふさぎ込んで実家に帰っており、すぐに話し合いが成り立つとは限りません。心理的に追い詰められているAさんに、問題の解決を1人で背負わせる助言にもなります。パートナーとの関係や養育の分担はいずれ整理が必要になりえます。しかし正期産を目前にした今優先すべきなのは産後の生活基盤と支援者の確保であり、この助言だけではそこにつながりません。なお、入籍しないまま出産した場合、パートナーが法律上の父となるには認知が必要です。妊娠中の胎児認知もでき、その場合は母の承諾が必要です。養育費の問題も含め、専門職の支援のもとで整理していく課題です。

2.次回の妊婦健康診査まで経過をみる。:36週以降の妊婦健康診査は1週間ごとが標準ですが、正期産を目前にしているため、次回の健診を待つ間に分娩が始まることもありえます。単身で経済的不安と妊娠への否定的感情を抱えたまま出産を迎えれば、産後の孤立や養育困難のリスクが高まります。ここで様子をみるのは、リスクを把握していながら支援につなぐ時期を遅らせる対応です。同意が得られなかった場合も、次回の健診であらためて説得するまで待つ必要はなく、同意なしで情報提供できます。経過観察が適するのは、本問の妊娠糖尿病のように差し迫ったリスクがなく状態が安定している場合であり、養育環境の問題はそれにあたりません。

3.出産扶助が利用できることを伝える。:出産扶助は生活保護法の8種類の扶助(生活・教育・住宅・医療・介護・出産・生業・葬祭)の1つで、範囲は分娩の介助、分娩前後の処置、衛生材料です(第16条)。保護は、保護を必要とする状態にある人(要保護者)などの申請によって開始されるのが原則です(申請保護の原則、第7条)。すでに保護を受けている人(被保護者)に限られず、困窮のため最低限度の生活を維持できない人が申請して要件を満たせば、出産扶助だけを受ける単給もありえます。ただし保護は、資産や能力などを活用してもなお生活できない場合に行われ、他の制度の活用が優先されます(補足性の原理、第4条)。優先される制度には、医療保険の出産育児一時金(出題当時は原則42万円、2023年4月から原則50万円)があります。児童福祉法の助産制度も同様で、これは保健上必要があるのに経済的理由で入院助産を受けられない妊産婦が、申込みにより助産施設で出産できる制度です。問題文からはAさんの収入や資産、医療保険の加入状況が分からず、保護の要件を満たすかどうかは判断できません。そのため「利用できる」と断定して伝えるのは不正確です。さらに、Aさんの不安は出産費用だけでなく、産後の生活全体と支援者のいない孤立にあります。制度を1つ紹介するだけでは解決せず、保健師を通じて福祉事務所などと連携しながら整えるべき課題です。

4.地区担当保健師に情報提供する。:正答。Aさんには支援者の不在、経済的不安、妊娠への否定的感情が重なり、特定妊婦に該当すると考えられます。児童福祉法は、医療機関や助産師などが要支援児童等(特定妊婦を含む)と思われる者を把握したら、市町村へ情報提供するよう努めることを定めています。守秘義務に関する規定はこの情報提供を妨げないとも明記しているため、本人の同意が得られなくても情報提供できます。地区担当保健師は、家庭訪問や養育支援訪問事業、要保護児童対策地域協議会、福祉部門との連携を通して、産前から産後まで継続して支援できます。情報提供後も支援の目的をAさんに丁寧に説明し、信頼関係を保つ努力を続けます。

覚えるポイント

  • 特定妊婦は、児童福祉法で「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」と定義されます。経済的困窮、支援者不在、妊娠への否定的発言、若年、未婚、精神疾患、健診未受診などが手がかりです。
  • 医療機関や助産師などは、特定妊婦を含む要支援児童等を把握したら市町村へ情報提供するよう努めます。この情報提供は守秘義務の規定に妨げられません。同意を得る努力は大切ですが、本人の同意がなくても提供できます。
  • 守秘義務の根拠は、助産師が刑法の秘密漏示罪、保健師・看護師・准看護師が保健師助産師看護師法です。
  • 出産扶助は生活保護の8種類の扶助の1つです。対象はすでに保護を受けている被保護者に限らず、困窮して要件を満たす要保護者が申請により受けられます(単給も可)。出産費用は、出産扶助よりも出産育児一時金(出題当時は原則42万円、2023年4月から原則50万円)や助産制度(助産施設)の活用が優先されます。
  • 妊婦健康診査の標準的な間隔は、23週まで4週ごと、24〜35週は2週ごと、36週以降は1週ごとです。36週は、産前に支援体制を整える残り時間が少ない時期です。
  • 妊娠期からの切れ目ない支援の拠点は、出題当時は子育て世代包括支援センターでした。2024年4月からはこども家庭センターが担っています。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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