第105回
105PM008|第105回 助産師国家試験 過去問
更年期女性の尿失禁で正しいのはどれか。
解答・解説を見る
正解4
正答
4.切迫性尿失禁よりも腹圧性尿失禁の方が多い。
この問題のポイント
更年期女性の尿失禁について、型ごとの頻度・機序・治療の対応を問う問題です。腹圧性尿失禁は「尿道を締め、支える力が弱まる」ことが本態です。切迫性尿失禁は「膀胱が意思と関係なく収縮する」ことが本態で、治療法はこの機序から導けます。中高年女性で最も多い型が腹圧性尿失禁であることが正答の鍵になります。
解説
尿失禁の主な型
尿失禁は原因によって型が分かれ、型ごとに治療が異なります。
- 腹圧性尿失禁:咳、くしゃみ、笑う、重い物を持つ、走るなど、腹圧が急に上がったときに尿意と関係なく漏れます。骨盤底による尿道の支持の低下と、尿道の閉鎖圧の低下が原因です。
- 切迫性尿失禁:急に起こる強い尿意(尿意切迫感)を我慢できずに漏れます。排尿筋が不随意に収縮することが原因で、過活動膀胱の症状の一つです。
- 混合性尿失禁:腹圧性と切迫性が合併したものです。
- 溢流性尿失禁:出しきれずに膀胱にたまった尿(残尿)があふれ、少しずつ漏れます。原因は、排尿筋の収縮力の低下(糖尿病による神経障害、広汎子宮全摘術後など)や尿道の閉塞です。
- 機能性尿失禁:下部尿路の機能は保たれていますが、運動機能の障害や認知機能の低下のために、トイレでの排泄が間に合わずに漏れます。
更年期に腹圧性尿失禁が多い理由
更年期は閉経の前後5年間を合わせた10年間で、日本人女性ではおおむね45〜55歳ごろにあたります。女性の尿道は約3〜4cmと短く、尿道括約筋による閉鎖と、骨盤底筋群や周囲の結合組織による支持によって、腹圧がかかっても漏れないように保たれています。妊娠・経腟分娩で骨盤底が伸ばされたり損傷したりすると、この支持が弱まります。
そこに加齢が加わり、閉経前後にはエストロゲンが低下します。尿道、腟壁、膀胱三角部などにはエストロゲン受容体があります。そのためエストロゲンが低下すると、尿道の粘膜や粘膜下の血管叢が萎縮し、尿道を閉じる力が弱まります。肥満、慢性の咳、便秘によるいきみ、重い物を持つ仕事も、腹圧を繰り返しかける要因です。
こうした背景から、中高年女性では腹圧性尿失禁が最も多い型です。年齢が上がると切迫性や混合性の割合が増えますが、更年期の年代では腹圧性が切迫性を上回ります。なお、男性では前立腺肥大症に伴う過活動膀胱などにより切迫性尿失禁が多く、女性とは傾向が異なります。
治療は機序に合わせて選ぶ
- 腹圧性:第一選択は骨盤底筋訓練です。肛門・腟・尿道を締める運動を繰り返し、尿道の閉鎖と支持を強めます。効果を得るには数か月の継続が必要です。あわせて減量や便秘の予防を指導します。薬物療法では、日本ではβ2刺激薬のクレンブテロールが用いられます。改善しない場合は中部尿道スリング手術(TVT、TOT)が検討されます。
- 切迫性:膀胱訓練(尿意があってもすぐには排尿せず、排尿の間隔を少しずつ延ばす)が中心です。薬物療法では、抗コリン薬で排尿筋の不随意な収縮を抑え、β3受容体作動薬で排尿筋を弛緩させて蓄尿を改善します。骨盤底筋訓練も、尿意をこらえる補助として役立ちます。
- 萎縮性の変化が目立つ場合は、局所(腟)のエストロゲン製剤が用いられることがあります。一方、内服などの全身投与によるホルモン補充療法は、尿失禁をかえって悪化させうると報告されています。そのため、尿失禁の治療を目的としては勧められていません。
型を問わず、排尿日誌に排尿の時刻・量・漏れの状況を記録すると、型の判別や治療効果の判定に役立ちます。
助産師の実践とのつながり
妊娠・分娩は骨盤底を損傷する大きな要因です。妊娠中から産褥期にかけて骨盤底筋訓練を指導すると、産後の尿失禁の予防や改善に役立ちます。訓練を生活の中で続ける習慣づくりにもなります。
また、尿失禁は恥ずかしさから相談されにくい症状です。女性のライフサイクルを通じて支援する助産師が自分から尋ねることが大切です。「年齢のせい」と見過ごさずに型を見極め、適切な対処や受診につなぎます。
選択肢の確認
1.腹圧性尿失禁には膀胱訓練の指導を行う。:膀胱訓練は、排尿の間隔を少しずつ延ばして、不随意に収縮しやすい膀胱に尿をためられるようにする方法で、切迫性尿失禁(過活動膀胱)に用います。腹圧性尿失禁の原因は尿道の閉鎖と支持の低下であり、指導の中心は骨盤底筋訓練です。「訓練」という言葉が共通していて混同しやすいため、「支えの問題には骨盤底筋訓練、膀胱の問題には膀胱訓練」と対応させて覚えます。混合性尿失禁では、両方を組み合わせて指導することがあります。
2.低用量の副腎皮質ステロイドが有効である。:副腎皮質ステロイドは、主に抗炎症作用や免疫抑制作用を目的に使う薬です。尿道の閉鎖力を高める作用も、排尿筋の不随意な収縮を抑える作用もなく、尿失禁の治療には用いません。長期に使うと骨粗鬆症や筋力の低下を招くため、閉経後の女性にはむしろ不利です。「低用量」という言葉から、低用量のエストロゲン製剤などの女性ホルモン製剤と取り違えないようにします。副腎皮質ステロイドも副腎皮質ホルモン剤の一つですが、性ホルモンであるエストロゲンとは作用が異なります。更年期の萎縮性の変化に対して用いられることがあるのは、局所(腟)のエストロゲン製剤です。
3.腹圧性尿失禁には抗コリン薬が有効である。:抗コリン薬は、ムスカリン受容体を遮断して排尿筋の不随意な収縮を抑える薬で、切迫性尿失禁や過活動膀胱に用います。尿道の閉鎖力は高めないため、腹圧性尿失禁の治療にはなりません。混合性尿失禁であれば、切迫性の成分に対して用いることがあります。副作用には口渇、便秘、尿閉、高齢者での認知機能の低下などがあり、閉塞隅角緑内障には禁忌です。日本で腹圧性尿失禁に用いられる薬には、β2刺激薬のクレンブテロールがあります。
4.切迫性尿失禁よりも腹圧性尿失禁の方が多い。:正答。妊娠・分娩による骨盤底の損傷に、加齢とエストロゲンの低下による尿道の閉鎖力の低下が重なります。そのため、更年期を含む中高年女性では腹圧性尿失禁が最も多い型です。切迫性や混合性は高齢になるにつれて増えますが、更年期の年代では腹圧性の方が多いといえます。
覚えるポイント
- 中高年女性で最も多いのは腹圧性尿失禁です。高齢になるほど切迫性・混合性の割合が増えます。男性では切迫性が多いのが特徴です。
- 腹圧性は「骨盤底の支持と尿道の閉鎖の低下」が原因で、咳やくしゃみで尿意なく漏れます。第一選択は骨盤底筋訓練、薬はクレンブテロール(β2刺激薬)、手術はTVT・TOTです。
- 切迫性は「排尿筋の不随意収縮」が原因です。強い尿意とともに漏れ、膀胱訓練と抗コリン薬・β3受容体作動薬で治療します。
- 抗コリン薬の副作用は口渇・便秘・尿閉・認知機能の低下で、閉塞隅角緑内障には禁忌です。
- 萎縮性の変化には局所(腟)のエストロゲン製剤が用いられることがあります。副腎皮質ステロイドも副腎皮質ホルモン剤ですが、尿失禁の治療薬ではありません。
- 骨盤底筋訓練は、妊娠中・産褥期からの予防的な指導としても助産師の重要な役割です。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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