第105回

105PM039|第105回 助産師国家試験 過去問

次の文を読み39〜41の問いに答えよ。Aさん(30歳、初産婦)は無痛分娩を希望している。妊娠39週4日、陣痛発来にて入院した。分娩監視装置が装着され、陣痛間欠6〜8分、陣痛発作30秒、児心音は正常であった。Aさんは「痛みが増してきたので麻酔をして欲しい」と話した。助産師がAさんに自動血圧計を装着し、医師が側臥位のAさんに硬膜外麻酔用カテーテル挿入後に麻酔薬を注入した。麻酔開始30分後に、胎児の一過性徐脈が認められた。Aさんに痛みの訴えはなく、下肢の感覚鈍麻はあるが動きは良好である。このときのAさんへの初期対応で適切なのはどれか。

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正解3

正答

3.血圧を確認する。

この問題のポイント

硬膜外麻酔の開始から30分後に胎児の一過性徐脈が出た場面で、原因を推定し、最初に何を確かめるかを問う問題です。手がかりは「麻酔薬の注入からまもない時期」「事前に自動血圧計を装着している」「痛みの訴えはなく下肢の動きは良好」の3点です。硬膜外麻酔では交感神経が遮断されて母体の血圧が下がり、子宮胎盤血流が減ります。これが最も頻度の高い原因なので、まず母体の血圧を確認します。

解説

状況の整理

  • Aさんは30歳の初産婦で、妊娠39週4日に陣痛発来で入院しました。陣痛間欠6〜8分、発作30秒で、分娩はまだ初期の段階です。
  • 無痛分娩のため、側臥位で硬膜外カテーテルを挿入し、麻酔薬を注入しました。助産師は注入の前に自動血圧計を装着しています。これは、血圧の変動が起こりうる処置であることを示す手がかりです。
  • 注入の30分後に胎児の一過性徐脈が出現しました。
  • 母体は痛みの訴えがなく、下肢の感覚鈍麻はあるものの動きは良好です。鎮痛は効いており、運動神経の遮断は軽く、麻酔が過度に広がった所見はありません。

硬膜外麻酔で母体の血圧が下がるしくみ

硬膜外腔に入った局所麻酔薬は、脊髄神経根で知覚神経、運動神経、交感神経を遮断します。交感神経の線維は細いため、分娩用の低濃度の薬液でも遮断されやすい特徴があります。

交感神経が遮断されると、下半身の血管が拡張して血液がたまり、心臓へ戻る静脈血が減ります。その結果、心拍出量が落ちて血圧が下がります。妊娠末期は、仰臥位になると子宮が下大静脈を圧迫するため、低血圧がさらに強まります。

子宮胎盤血流は自己調節能をもたず、母体の血圧に依存しています。母体の血圧が下がると胎盤への血流が減り、胎児が低酸素になって遅発一過性徐脈や遷延一過性徐脈が現れます。低血圧は麻酔薬の注入後、数十分以内の早い時期に起こりやすいため、「開始30分後」という時期はこの機序によく合います。

初期対応の流れ

  1. 母体の血圧を確認します。自動血圧計はすでに装着されているので、すぐに測定でき、侵襲もありません。脈拍、気分不快、悪心、あくび、顔面蒼白などの症状もあわせて確認します。
  2. 低血圧があれば、左側臥位にするか子宮を左方へ移動させ、下大静脈の圧迫を解除します。同時に医師へ報告します。
  3. 医師の指示のもとで、輸液の速度を上げ、必要に応じて昇圧薬を使用します。母体への酸素投与も行い、胎児心拍は連続して監視します。
  4. 血圧に問題がなければ、ほかの原因を検討します。鎮痛が得られた後に子宮収縮が一時的に過強になり、胎児徐脈を起こすことも知られているため、分娩監視装置の陣痛曲線を確認します。さらに、臍帯の圧迫や分娩の急速な進行も考えます。

このように、最も頻度が高く、すぐに確かめられ、すぐに是正できる原因から評価するのが初期対応の基本です。

麻酔の広がりの評価との区別

硬膜外麻酔の重大な合併症には、次の2つがあります。

  • 全脊髄くも膜下麻酔(高位麻酔):カテーテルがくも膜下腔に入った場合に起こります。急激で広範な麻酔となり、上肢のしびれや脱力、呼吸困難、発声困難、急激な血圧低下、意識消失がみられます。
  • 局所麻酔薬中毒:薬液が血管内に入った場合に起こります。口周囲のしびれ、耳鳴り、金属味、多弁、痙攣、不整脈がみられます。

Aさんには上肢や呼吸の異常を示す情報はなく、下肢の運動も保たれているため、これらを第一に疑う状況ではありません。

選択肢の確認

1.内診をする。:内診は子宮口の開大、児頭の下降度、臍帯脱出の有無を評価する手段で、分娩の急速な進行や臍帯の異常が疑われる徐脈では意味があります。しかしこの場面は、麻酔開始との時間的な関係から母体低血圧が最も疑われます。内診では血圧低下を見つけることも是正することもできず、時間もかかり侵襲も伴います。破水の記載もないため、臍帯脱出を第一に疑う根拠は乏しく、血圧を確認して原因を絞った後に必要に応じて行うものです。

2.仰臥位にする。:仰臥位では妊娠子宮が下大静脈と腹部大動脈を圧迫し、静脈還流がさらに減ります。その結果、低血圧と子宮胎盤血流の低下を悪化させるため、避けるべき体位です。適切なのは左側臥位や子宮の左方移動です。内診や処置のときの体位と混同しないようにしましょう。

3.血圧を確認する。:正答。硬膜外麻酔では交感神経遮断による母体低血圧が起こりやすく、注入後の早い時期の胎児徐脈で最も疑うべき原因です。装着済みの自動血圧計ですぐに確認でき、低血圧であれば体位変換、輸液、昇圧薬などの是正につなげられます。

4.上肢の動きを確認する。:上肢の動きの確認は、麻酔が頸髄の高さまで広がる全脊髄くも膜下麻酔(高位麻酔)を疑うときの評価です。Aさんには上肢のしびれ、呼吸困難、意識の変化などを示す情報がなく、下肢の運動も良好なので、麻酔が過度に広がった所見はありません。高位麻酔を疑う場面でも、まず血圧、呼吸、意識といった生命徴候を確認するのが先です。胎児徐脈への初期対応としての優先度は低くなります。

覚えるポイント

  • 硬膜外麻酔の開始後まもなく胎児徐脈が出たら、まず母体の血圧を確認します。交感神経遮断による血管拡張と静脈還流の減少が低血圧の機序です。
  • 子宮胎盤血流は自己調節能をもたず、母体の血圧に依存します。母体の低血圧は、遅発一過性徐脈や遷延一過性徐脈として胎児に現れます。
  • 低血圧への対応は、左側臥位または子宮の左方移動、医師への報告、輸液、昇圧薬(医師の指示)、酸素投与、胎児心拍の連続監視です。仰臥位は低血圧を悪化させるので避けます。
  • 全脊髄くも膜下麻酔は、上肢のしびれや脱力、呼吸困難、急激な血圧低下、意識消失が特徴です。局所麻酔薬中毒は、口周囲のしびれ、耳鳴り、金属味、痙攣、不整脈が特徴です。
  • 分娩痛の神経支配は、第1期の子宮収縮痛がT10〜L1、第2期の会陰部痛がS2〜S4(陰部神経)です。
  • 硬膜外麻酔のそのほかの副作用として、母体の発熱、掻痒感(オピオイド併用時)、尿閉(膀胱充満に注意)、分娩第2期の延長、硬膜穿刺後頭痛も押さえておきましょう。

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