第106回

106AM047|第106回 助産師国家試験 過去問

次の文を読み47~49の問いに答えよ。Aさん(38歳、1回経産婦)は妊娠経過中、特に異常の指摘はなかった。妊娠37週2日、妊婦健康診査時の胎児心拍数陣痛図で胎児の遷延性徐脈を認めたため緊急帝王切開術でBちゃん(女児)を出産した。帝王切開の手術中、羊水混濁は認めなかった。Bちゃんは出生時、自発呼吸がなく筋緊張も低下していた。すぐに蘇生の初期処置を行ったが自発呼吸は出現せず、聴診で心拍数40/分のため出生後1分からバッグマスク換気にて人工呼吸を開始した。その後、有効な換気ができていることを確認しつつバッグマスク換気を継続したが児の心拍数上昇が認められず、胸骨圧迫を行うことにした。胸骨圧迫の手技で正しいのはどれか。

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正解2

正答

2.両母指法

この問題のポイント

新生児蘇生法(NCPR)の流れに沿って、胸骨圧迫が必要になる条件とそのときの手技を問う問題です。手がかりは「出生直後の新生児」「有効な人工呼吸を続けても心拍数が上がらない(心拍数40/分)」という状況です。新生児の胸骨圧迫では、胸郭を両手で包み込む両母指法が推奨されます。小児や成人の手技と区別できるかが問われています。

解説

Aさんは妊娠経過に異常のない38歳の1回経産婦です。妊娠37週2日の正期産で、胎児心拍数陣痛図に遷延性徐脈を認めて緊急帝王切開となりました。子宮内で低酸素が進んでいた可能性が高く、Bちゃんは出生時に自発呼吸がなく、筋緊張も低下していました。羊水混濁はないため、胎便の吸引に関する配慮はこの場面では問題になりません。

新生児蘇生の流れと胸骨圧迫の適応

日本の新生児蘇生法は、JRC蘇生ガイドライン2020(出題当時の最新版)に基づき、次の順に進めます。

  • 出生直後に「早産児か」「弱い呼吸・啼泣か」「筋緊張低下か」を評価します。1つでも当てはまれば初期処置(保温、体位保持、気道開通、皮膚乾燥と刺激)を行います。
  • 初期処置後も無呼吸・あえぎ呼吸がある、または心拍数が100/分未満の場合は、人工呼吸(バッグマスク換気)を開始します。開始は出生後60秒以内を目標とします。
  • 胸の上がりで換気が有効であることを確かめます。有効な人工呼吸を30秒行っても心拍数が60/分未満であれば、胸骨圧迫を加えます。
  • 胸骨圧迫と人工呼吸を続けても心拍数60/分未満が続く場合は、アドレナリン投与などを検討します。

Bちゃんは、初期処置後も自発呼吸がなく心拍数40/分でした。そのため出生後1分から人工呼吸を始め、有効な換気を続けても心拍数が上昇しなかったので、胸骨圧迫の適応となります。新生児の徐脈や心停止の多くは、呼吸の問題、つまり低酸素から起こります。そのため、まず換気を確立することが最優先で、胸骨圧迫は有効な換気のうえに追加するという順番が大切です。

新生児の胸骨圧迫の手技

  • 方法:両母指法(胸郭包み込み両母指圧迫法)で行います。両手で児の胸郭を包み込み、両方の母指を胸骨上に置きます(小さな児では母指を重ねます)。残りの指で背部を支えながら圧迫します。
  • 部位:胸骨の下1/3で、両乳頭を結ぶ線のすぐ下にあたります。剣状突起は圧迫しません。
  • 深さ:胸郭の前後径の約1/3まで沈めます。
  • 比率とテンポ:胸骨圧迫3回に人工呼吸1回(3:1)を組み合わせ、1サイクルを約2秒で行います。1分間では胸骨圧迫90回と人工呼吸30回、合計120回の動作になります。圧迫者と換気者は「1、2、3、バッグ」と声を合わせてリズムを保ちます。
  • 解除:圧迫のたびに胸郭が十分に戻るようにしますが、母指は胸から離しません。

両母指法は二本指法に比べて、高い血圧や冠灌流圧が得られます。圧迫の深さも安定しやすく、術者も疲れにくいとされ、推奨される方法となっています。人工呼吸者が児の頭側に立ち、圧迫者が胸部を担当する、2人以上の体制で行うのが基本です。臍帯静脈カテーテルを挿入する場面では、圧迫者が頭側に回って両母指法を続けることもできます。

胸骨圧迫を始めたら、あわせて次の対応を考慮します。

  • 酸素濃度を上げる。
  • 気管挿管などの確実な気道確保を行う。
  • 心拍数の評価に心電図モニターを用いる。

心拍数が60/分以上に回復したら胸骨圧迫を中止し、人工呼吸は継続します。

年齢による胸骨圧迫の違い

  • 新生児(出生直後の蘇生):両母指法で、胸骨の下1/3を前後径の約1/3の深さまで圧迫します。人工呼吸との比は3:1です。
  • 乳児:救助者が1人なら二本指法、2人以上なら両母指法を用います。胸の厚さの約1/3の深さで、100〜120回/分で圧迫します。
  • 小児:体格に応じて片手または両手で、胸骨の下半分を胸の厚さの約1/3まで圧迫します。
  • 成人:両手の手掌基部を重ね、胸骨の下半分を約5cm(6cmを超えない)の深さで、100〜120回/分で圧迫します。人工呼吸との比は30:2です。

新生児だけ比率が3:1と換気の割合が高いのは、原因の多くが呼吸にあるためです。この理由とあわせて覚えると混同しにくくなります。

選択肢の確認

1.一本指法:指1本では十分な圧迫力が得られず、深さも安定しないため、新生児・乳児のいずれの蘇生法でも示されていない手技です。乳児の一次救命処置で救助者が1人のときに用いる「二本指法」と取り違えやすいので注意が必要です。新生児の蘇生で推奨されるのは選択肢2です。

2.両母指法:正答。両手で胸郭を包み込み、両母指で胸骨の下1/3を胸郭前後径の約1/3の深さまで圧迫し、人工呼吸と3:1で組み合わせます。血圧や冠灌流圧が得られやすく術者の疲労も少ないため、新生児蘇生法で推奨されています。本問のように換気担当と圧迫担当がそろう分娩室・手術室の蘇生に適しています。

3.片手法:片方の手の手掌基部で胸骨を圧迫する方法は、主に小児(1歳から思春期ごろ)で体格に応じて用いる手技です。新生児の胸郭に対しては手が大きすぎ、胸骨の下1/3という狭い部位に正確に力をかけられず、深さも調節しにくいため適しません。

4.両手法:両手の手掌基部を重ねて胸骨の下半分を圧迫する方法は、成人や体格の大きい小児で用いる手技です。新生児に用いると圧迫が過剰になり、肋骨骨折や肝臓などの腹部臓器損傷を起こす危険があるため適しません。

覚えるポイント

  • 初期処置後も無呼吸・あえぎ呼吸、または心拍数100/分未満なら人工呼吸を開始します(出生後60秒以内が目標、40〜60回/分)。
  • 有効な人工呼吸を30秒行っても心拍数60/分未満なら胸骨圧迫を追加します。60/分以上に回復したら胸骨圧迫は中止し、人工呼吸は続けます。
  • 新生児の胸骨圧迫は両母指法で、胸骨の下1/3(乳頭間線のすぐ下)を、胸郭前後径の約1/3の深さまで圧迫します。
  • 胸骨圧迫と人工呼吸は3:1で、2秒で1サイクルです。1分間に圧迫90回と換気30回、計120回の動作になります。
  • 年齢別の手技:乳児は救助者1人なら二本指法、2人以上なら両母指法です。小児は片手または両手、成人は両手で約5cm・30:2です。

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