第106回

106PM050|第106回 助産師国家試験 過去問

次の文を読み48~50の問いに答えよ。A病院の産科病棟は5階に位置している。平均分娩数は40件/月で、母児同室としている。発災3日、Bさん(28歳、初産、産後40日)から産科へ相談があった。児は出生体重3,200 gで、発災前日の体重は4,500 g、授乳回数は1日に10回で母乳のみであった。昨日は排便5回/日、排尿回数は不明だが、量は減っていない。発災後の授乳回数は変わらず、1回20 mLの人工乳を夕方と夜に補足している。自宅には被害がなく、ライフラインは復旧している。Bさんは「地震後、母乳が出にくくなった気がして心配です。授乳以外にも余震のたびに目が覚めてしまいます。大丈夫でしょうか」と話した。助産師のBさんへの説明で適切なのはどれか。

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正解3

正答

3.「今までどおり吸わせていけば母乳で充分ですよ」

この問題のポイント

災害後に「母乳が出にくくなった気がする」と話す褥婦に対して、母乳が足りているかを判断する問題です。判断には、児の体重増加・排泄・授乳回数という客観的な指標を使います。母親が感じる主観的な不足感と実際の哺乳量を分けて考えること、ストレスが射乳反射に与える影響、頻回授乳で分泌が保たれるしくみを理解しているかが問われます。あわせて、余震で目が覚めることを発災直後の正常なストレス反応として捉えられるかも鍵になります。

解説

事例から読み取る手がかり

Bさんの訴えは「母乳が出にくくなった気がする」という主観的な感覚です。まず、児の状態を示す客観的な情報を整理します。

  • 体重:出生時は3,200 g、発災前日(生後5週あまり)は4,500 gで、約1,300 g増えています。1日あたり約35 gで、生後3か月ごろまでの目安とされる1日25〜30 g程度を上回ります。この数字には生後数日の生理的体重減少の期間も含まれるため、実際の増加ペースはさらに良好です。
  • 授乳:母乳のみで1日10回です。発災後も回数は変わっていません。
  • 排泄:前日(発災後)の排便は5回です。排尿回数は不明ですが、量は減っていません。
  • 生活環境:自宅に被害はなく、ライフラインも復旧しています。

母乳が足りているかを何で判断するか

母乳は飲んだ量を直接測りにくいため、足りているかどうかは児の側の指標で判断します。主な指標は次のとおりです。

  • 体重が順調に増えている
  • 排尿が1日6回以上ある
  • 生後早期には排便が1日数回ある
  • 授乳が1日8回以上ある
  • 授乳後に満足した様子で、活気がある

Bさんの児は、体重増加(1日約35 g)、授乳回数(1日10回)、排便(1日5回)が目安を満たしています。体重は発災前の値ですが、排便5回は発災後の前日の記録です。授乳回数も尿量も、発災後に減っていません。排尿回数や授乳後の様子、活気は事例からは分かりません。それでも、確認できる指標はいずれも良好で、哺乳不足や脱水を疑わせる所見はありません。したがって人工乳を足す必要はなく、今の授乳を続ければよいと判断できます。実際の支援では、不明な排尿回数や児の様子もあわせて確認し、評価を確かなものにしていきます。

「出にくい気がする」理由と説明の仕方

乳汁の分泌には2つのホルモンがかかわります。どちらも児の吸啜刺激によって分泌が促されます。

  • プロラクチン:下垂体前葉から分泌され、乳汁をつくる働きを担います。
  • オキシトシン:下垂体後葉から分泌されます。乳腺の腺房を取り巻く筋上皮細胞を収縮させて、乳汁を押し出す働き(射乳反射)を担います。

強い不安や緊張、疲労があると、カテコールアミンの作用などでオキシトシンの分泌が一時的に抑えられ、射乳反射が起こりにくくなります。そのため母親は「出にくい」と感じやすくなります。しかし乳汁の産生は、児が頻回に吸啜し、乳房から乳汁が取り除かれることで維持されます。

注意したいのは、母乳不足感から人工乳の補足を続けたり増やしたりすると、児が乳房を吸う回数や時間が減ることです。その結果、かえって分泌量が落ちるという悪循環につながります。Bさんは夕方と夜に補足しています。プロラクチンは夜間に分泌されやすく、夜の授乳は分泌の維持に役立ちます。補足によって夜間の吸啜が減らないようにすることも大切です。

今の補足は1回20 mLと少量です。この段階で、体重や排泄の事実を示しながら「これまでどおり吸わせれば足りている」と伝えます。そうすることで、Bさんの不安が和らぎ、母乳育児を守ることにつながります。授乳時にリラックスできる環境、児との肌の触れ合い、家族の支援なども射乳を助けます。

災害時、母乳は清潔な水や燃料、調乳器具を必要とせず、感染防御因子も含みます。そのため、児にとって最も安全な栄養といえます。災害をきっかけに母乳育児が中断しないよう支えることは、助産師の重要な役割です。

余震で目が覚めることへの対応

発災から数日の時期には、物音や揺れで目が覚める、眠りが浅いといった反応が多くの人に起こります。これは、異常な出来事に対する正常なストレス反応です。まずは話をよく聴き、自然な反応であることを伝えます。そのうえで、児が眠っている間に休む、家族に夜間の手伝いを頼むなど、休息のとり方を一緒に考えます。不眠や不安が長引く場合や、気分の落ち込み、育児への意欲低下がみられる場合は、産後うつ病やPTSDも視野に入れます。専門職につなげられるよう、継続して見守ります。

選択肢の確認

1.「ミルクを湯ざましに変更しましょう」:湯ざましはエネルギーも栄養素も含まないため、人工乳の代わりにはなりません。生後6か月未満で母乳が足りている児には、白湯や湯ざましによる水分補給は通常不要です。胃が水分で満たされると、母乳を飲む量や吸啜回数が減り、分泌の維持にも不利になります。月齢の低い乳児に多量の水を与えると、低ナトリウム血症(水中毒)を起こすおそれもあります。WHOとユニセフの「母乳育児成功のための10カ条」も、医学的な必要がない限り、母乳で育てている新生児に母乳以外の飲食物を与えないことを掲げています。体重増加不良や尿量の減少があって補足が必要な場合も、まず授乳の回数や姿勢、吸着(乳房のくわえ方)を見直します。そのうえで補うときは、できるだけ母親自身の搾母乳を用い、足りない分を人工乳で補います。水や白湯、糖水で補うことはしません。

2.「医師に睡眠導入薬について相談してみましょう」:余震のたびに目が覚めるのは、発災3日という急性期の正常なストレス反応と考えられます。まず必要なのは、傾聴、自然な反応であることの説明、休息のとり方の工夫です。授乳中の母親では、薬剤が母乳へ移行することや、夜間授乳のときに眠気やふらつきが残ることにも配慮が必要です。不眠が長く続いて日常生活や育児に支障が出る場合や、抑うつ症状を伴う場合であれば、医師への相談を勧めることが適切になります。

3.「今までどおり吸わせていけば母乳で充分ですよ」:正答。発災前日までに約1,300 g(1日あたり約35 g)増えた体重、1日10回の授乳、1日5回の排便、減っていない排尿量という客観的な指標から、母乳は足りていると判断できます。出にくいという感覚は、ストレスによる一時的な射乳反射の低下で説明できます。頻回の吸啜を続ければ、分泌は保たれます。根拠を示して安心を与え、不要な補足を減らす方向に導く説明です。

4.「安全な福祉避難所への移動を検討してみましょう」:福祉避難所は、一般の避難所での生活に特別な配慮を要する人(要配慮者:高齢者、障害者、妊産婦、乳幼児など)を受け入れるための避難所です。Bさん宅は被害がなくライフラインも復旧しているため、住み慣れた自宅で過ごすほうが安全です。移動や集団生活は、かえってストレスや感染の機会を増やします。自宅が損壊した場合や、水や電気が使えず授乳や育児を続けられない場合であれば、検討すべき選択肢になります。

覚えるポイント

  • 母乳が足りているかは、児の客観的指標で評価します。目安は、体重増加(生後3か月ごろまで1日25〜30 g程度)、排尿1日6回以上、授乳1日8回以上、授乳後の満足と活気です。母親の「出ない気がする」という感覚だけで補足を決めません。不明な指標があっても、確認できる指標が良好なら哺乳は足りていると判断できます。
  • プロラクチン(下垂体前葉)は乳汁の産生、オキシトシン(下垂体後葉)は射乳を担い、どちらも吸啜刺激で分泌が促されます。ストレス・不安・疲労は主にオキシトシンを抑え、射乳反射を一時的に低下させます。
  • 分泌は、頻回の吸啜と乳汁の排出で維持されます。プロラクチンが出やすい夜間の授乳も大切です。不要な人工乳や白湯は吸啜を減らし、分泌低下の悪循環を招きます。生後6か月未満で母乳が足りている児に白湯は不要です。
  • 補足が必要な場合も、まず授乳の回数や姿勢、吸着を見直します。補うときは母親自身の搾母乳を第一とし、不足分を人工乳で補います。水・白湯・糖水では補いません。
  • 発災直後の不眠や過覚醒は正常なストレス反応です。まず傾聴と説明、休息の工夫を行い、長引く不眠や抑うつ症状があれば専門職へつなぎます。
  • 福祉避難所は、一般の避難所での生活が難しい要配慮者(高齢者、障害者、妊産婦、乳幼児など)のための避難所です。自宅が安全ならそこで過ごし、災害時こそ母乳育児の継続を支援します。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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