第108回
108AM019|第108回 保健師国家試験 過去問
A小学校の2年生の児童80人と引率の教員が市内の公園に遠足に行き、昼食に学校から配布されたおにぎりを食べた。午後2時ころに帰校すると、2年生の児童と引率した教諭に嘔吐、下痢および腹痛の症状が現れ、半数以上の児童が医療機関を受診した。他学年の児童に症状がある者はなかった。保健所にA小学校から緊急連絡があり、疫学調査の結果、集団食中毒であることが判明した。原因菌として最も疑われるのはどれか。
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正解3
正答
3.黄色ブドウ球菌
この問題のポイント
集団食中毒の原因菌を、潜伏期間、主症状、原因食品の3点から推定する問題です。昼食のおにぎりから午後2時ころの発症までが約2時間と非常に短く、嘔吐が目立つこと、発症者がおにぎりを食べた集団に限られることが手がかりです。手でにぎる米飯を食べて数時間で嘔吐するという組み合わせは、食品の中で作られた耐熱性毒素による黄色ブドウ球菌食中毒の典型です。
解説
問題文から読み取る手がかり
- 時間経過:昼食(正午前後)から、帰校した午後2時ころにはすでに発症しています。潜伏期間は1〜2時間程度と推定できます。
- 症状:嘔吐、下痢、腹痛で、嘔吐が最初に挙がっています。神経症状や発熱の記載はありません。
- 発症者の範囲:遠足に行った2年生と引率教員だけで、他学年には症状がありません。学校全体に共通する給食や飲料水、人から人への感染ではなく、遠足の昼食という1回の共通曝露による集団発生(単一曝露型)と考えられます。
- 原因食品の候補:学校から配布されたおにぎりです。人の手でにぎることが多く、にぎった後は加熱せず、遠足中は常温で数時間持ち歩かれています。
細菌性食中毒の分類と潜伏期間
細菌性食中毒は、発症の仕組みによって潜伏期間が大きく異なります。
- 感染型:食品と一緒に摂取した菌が腸管内で増殖・侵入して発症します。菌が増えるまで時間がかかるため、潜伏期間は半日〜数日と長めです(サルモネラ、腸炎ビブリオ、カンピロバクターなど)。
- 食品内毒素型:食品中で菌が増殖して毒素を作り、その毒素を食べて発症します。体内で菌が増えるのを待たないため潜伏期間が短くなります(黄色ブドウ球菌、セレウス菌嘔吐型など)。ボツリヌス菌もこの型ですが、神経毒が吸収されて神経に作用するまで時間がかかるため、潜伏期間は長めです。
- 生体内毒素型:摂取した菌が腸管内で増殖し、そこで毒素を作ります(ウェルシュ菌、腸管出血性大腸菌など)。
黄色ブドウ球菌食中毒の特徴
黄色ブドウ球菌は、健康な人の鼻腔、咽頭、皮膚にもよくいる菌で、特に手指の化膿した傷には大量に存在します。この菌が付いた食品が室温に置かれると菌が増殖し、エンテロトキシンを産生します。エンテロトキシンは耐熱性で、いったん作られると加熱しても壊れません。潜伏期間はおおむね1〜5時間(平均3時間前後)と短く、吐き気と激しい嘔吐が特徴で、腹痛や下痢を伴います。発熱はないか軽度で、多くは1日程度で回復します。原因食品はおにぎり、弁当、サンドイッチ、菓子など、人の手が直接触れ、その後加熱しない食品が代表的です。
本問は、摂食から約2時間という短さから食品内毒素型を考え、神経症状がないことからボツリヌス菌を外し、手でにぎるおにぎりという食品から黄色ブドウ球菌に絞り込めます。なお、米飯類を食べて数時間で嘔吐する食中毒にはセレウス菌嘔吐型もありますが、選択肢にはありません。
公衆衛生看護での活用
食中毒と診断した医師は、食品衛生法に基づき直ちに保健所長へ届け出ます。保健所は疫学調査として、発症者の症状と発症時刻を調べて潜伏期間を推定し、何を食べたかを調べる喫食調査で、食べた人と食べなかった人の発症率を比べて原因食品を絞り込みます。あわせて、残った食品、吐物や便を検査し、調理した人の手指の傷の有無や健康状態も確認します。予防指導では、手洗いの徹底、手指に傷がある人は調理に関わらないか手袋を使うこと、ラップを使ってにぎること、低温で保管して早めに食べることが要点です。嘔吐が続く子どもは脱水になりやすいため、水分補給と受診の目安を伝えることも大切です。
選択肢の確認
1.ウェルシュ菌:本菌は耐熱性の芽胞をもつ嫌気性菌で、カレー、シチュー、煮物などを大量に加熱調理した後、室温でゆっくり冷ます間に増殖します。摂取した菌が腸管内で芽胞を作るときに毒素を産生するため、潜伏期間はおよそ6〜18時間(平均10時間前後)です。症状は腹痛と下痢が中心で、嘔吐や発熱は少ないのが特徴です。大量調理を行う給食施設や仕出し弁当で起こりやすく「給食病」とも呼ばれるため、給食の煮込み料理を食べて半日ほど後に下痢が多発した事例であれば正答になります。昼食から約2時間で嘔吐を含む症状が出た本例とは、潜伏期間が合いません。
2.ボツリヌス菌:本菌は土壌などに芽胞として存在する偏性嫌気性菌で、缶詰、瓶詰、真空包装食品、いずし(飯寿司)など酸素のない環境で増殖し、神経毒を産生します。毒素が神経筋接合部でアセチルコリンの放出を妨げるため、潜伏期間はおよそ8〜36時間で、複視、眼瞼下垂、嚥下障害、構音障害などの神経症状が現れ、呼吸筋麻痺で死亡することもあります。毒素は十分な加熱で失活する易熱性で、選択肢3の耐熱性毒素とは対照的です。1歳未満の乳児ははちみつから乳児ボツリヌス症を起こすことがあり、感染症法では四類感染症です。本例には神経症状の記載がなく、発症までの時間も短すぎます。
3.黄色ブドウ球菌:正答。本菌は手指、特に化膿した傷から食品を汚染し、おにぎりのように手で扱い加熱しない食品が常温に置かれると増殖して、耐熱性のエンテロトキシンを産生します。潜伏期間はおおむね1〜5時間と短く、激しい嘔吐を中心に腹痛や下痢を起こします。昼食のおにぎりを食べて約2時間で嘔吐、下痢、腹痛が出たこと、発症者がおにぎりを食べた集団に限られることと、すべてよく一致します。
4.カンピロバクター:本菌は鶏などの家畜の腸管にいる微好気性のらせん菌で、生や加熱不十分な鶏肉(鶏刺し、たたきなど)や、生肉を扱った手指や調理器具を介した二次汚染で感染します。少ない菌量でも発症する感染型で、潜伏期間は2〜7日と長く、下痢、腹痛、発熱が主症状で、血便を伴うこともあります。回復から数週間後にギラン・バレー症候群を起こすことがある点もよく問われます。バーベキューで生焼けの鶏肉を食べ、数日後に発熱と下痢が出たという事例なら正答ですが、当日の数時間後に発症した本例とは合いません。
覚えるポイント
- 潜伏期間の目安:黄色ブドウ球菌 1〜5時間、セレウス菌嘔吐型 30分〜6時間、ウェルシュ菌 6〜18時間、ボツリヌス菌 8〜36時間、ノロウイルス 24〜48時間、カンピロバクター 2〜7日。潜伏期間が数時間なら、まず食品内毒素型を考えます。
- 典型的な組み合わせ:おにぎり・弁当+数時間で嘔吐=黄色ブドウ球菌、大量調理の煮込み料理+半日で下痢=ウェルシュ菌、缶詰・真空包装・いずし+神経症状=ボツリヌス菌、鶏肉+数日後に発熱・下痢=カンピロバクター。
- 熱への強さ:黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンは耐熱性で、再加熱しても防げません。ボツリヌス毒素は加熱で失活しますが、芽胞は耐熱性です。ウェルシュ菌の芽胞も耐熱性のため、加熱調理後に急速に冷やすことが予防になります。
- 集団発生の疫学調査では、発症者の範囲から共通の曝露源を絞り込み、潜伏期間から病原体を推定し、食べた人と食べなかった人の発症率を比べて原因食品を特定します。
- 食中毒と診断した医師は、食品衛生法に基づき直ちに保健所長へ届け出ます。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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