第108回
108AM053|第108回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み53、54の問いに答えよ。A君(中学3年生)は中学1年生のときに筋委縮性側索硬化症〈ALS〉を発症した。病状の進行によって、自力での呼吸が難しくなったため入院し、気管切開をして人工呼吸器を装着した。退院後に復学する予定である。学校における医療的ケアに係る関係者とその役割分担の組合せで正しいのはどれか。
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正解3
正答
3.教育委員会 ― 医療的ケアの指導医の委嘱
この問題のポイント
気管切開をして人工呼吸器を使う生徒が復学する場面で、学校における医療的ケアの関係者がそれぞれ何を担うかを問う問題です。判断の軸は、学校の設置者である教育委員会が、看護師や指導医などの人と全体の体制を整えるという原則です。これを押さえたうえで、学校長による校内の管理、研修を受ける側と開く側の違い、保護者の立場を区別できるかが問われています。
解説
事例の整理
A君は中学1年生でALSを発症し、中学3年生の時点で自力呼吸が難しくなりました。気管切開と人工呼吸器装着を経て、退院後に復学する予定です。学校では、気管カニューレ内の痰の吸引、人工呼吸器の管理、緊急時の対応などの医療的ケアが必要になります。ALSは進行性の疾患なので、ケアの内容は今後も変わっていく可能性があります。問われているのは個々のケアの手技ではなく、学校で医療的ケアを実施する体制を「誰が」「何を」担うかです。
学校での医療的ケアを支える制度
- 2012年(平成24年)4月施行の社会福祉士及び介護福祉士法の改正により、介護職員等は一定の研修を修了し、都道府県知事の認定を受ければ、認定特定行為業務従事者として特定行為を実施できるようになりました。この介護職員等には教員も含まれます。特定行為は、口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部の喀痰吸引、胃ろう・腸ろうによる経管栄養、経鼻経管栄養です。
- 文部科学省は2019年(平成31年)3月に「学校における医療的ケアの今後の対応について」を通知しました。小・中学校を含むすべての学校を対象とし、人工呼吸器の管理のような特定行為以外の医療的ケアも視野に入れて、関係者の役割分担を例示しています。
- 出題当時にはすでに、2021年(令和3年)9月施行の医療的ケア児支援法(医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律)がありました。この法律は、保護者が付き添わなくても学校で適切な医療的ケアを受けられるよう、学校の設置者に看護師等の配置などの措置を講じることを求めています。
関係者の役割分担
- 教育委員会(学校の設置者):医療的ケアの総括的な管理体制を作ります。具体的には、ガイドラインの策定、医療的ケア運営協議会の設置、看護師等の配置(雇用・委嘱)、指導医の委嘱、研修体制の整備、予算や物品の確保、緊急時の体制づくりです。
- 学校長:校内の実施体制を作ります。校内委員会の設置、実施要領の策定、教職員の役割分担の明確化、保護者への説明と同意の確認、緊急時対応の整備などです。
- 看護師:医療的ケアを実施し、教職員に指導・助言します。人工呼吸器の管理のように特定行為に含まれないケアは、看護師が担います。
- 教職員:認定特定行為業務従事者として、特定行為の範囲で看護師と連携して実施します。
- 主治医:一人ひとりの児童生徒について病状を把握し、指示書を出します。
- 指導医:学校医や医療的ケアに知見のある医師が務めます。学校全体の実施体制について指導・助言し、研修にも関わります。
- 保護者:健康状態の報告、緊急時の連絡手段の確保、実施内容への同意などを通して協力します。
公立の中学校であれば設置者は市町村で、学校教育に関する事務は教育委員会が担います。人の雇用や委嘱、予算を伴う決定は設置者が行い、校長は配置された人材を使って校内を運営する、と整理すると選択肢を判別できます。
保健師は、在宅の医療的ケア児とその家族を支援します。就学や復学の際には、教育委員会、学校、主治医、訪問看護、相談支援専門員などとの連絡調整にも関わります。「どの機関に何を相談すればよいか」を知っておくことが、実践で重要になります。
選択肢の確認
1.学校長 ― A君の医療的ケアを担当する看護師の配置の決定:看護師の配置は雇用や委嘱、予算措置を伴うため、学校の設置者である教育委員会が決定します。医療的ケア児支援法でも、看護師等の配置は学校の設置者の責務とされています。学校長は、配置された看護師を含めて校内の実施体制を整え、教職員の役割分担や緊急時対応を定め、日々の実施を管理する立場です。校長が必要性を教育委員会に伝えることはありますが、配置を決めるのは校長ではありません。
2.介護職員 ― 痰の吸引の研修の開催:喀痰吸引等の研修を実施するのは、都道府県または都道府県に登録した登録研修機関です。介護職員はこの研修を受講し、都道府県知事の認定を受けて認定特定行為業務従事者になる側です。学校では教員が同じ仕組みで研修を受け、特定行為を担います。教育委員会が登録研修機関となって教員向けの研修を行うこともあります。「研修を受ける人」と「研修を開く主体」を取り違えやすいので注意します。
3.教育委員会 ― 医療的ケアの指導医の委嘱:正答。指導医は、学校医や医療的ケアに知見のある医師に委嘱されます。主治医とは別の立場から、学校や教育委員会の実施体制について指導・助言し、看護師や教職員の研修にも関わります。この委嘱は総括的な管理体制を作る学校の設置者、すなわち教育委員会の役割です。個々の生徒について指示書を出す主治医と、体制全体を支える指導医の違いも押さえておきます。
4.A君の保護者 ― 個別の教育支援計画の立案:個別の教育支援計画は、障害のある児童生徒への長期的な支援計画です。医療・保健・福祉・労働などの関係機関と連携し、就学前から卒業後まで一貫した支援を行うために作られます。作成するのは学校で、校長の責任のもと、担任や特別支援教育コーディネーターなどが中心になります。作成の際は本人と保護者の意向を踏まえ、関係機関と情報を共有しますが、保護者は立案者ではなく、意向を伝えて計画づくりに参画する立場です。学校内の指導の目標や内容を具体化する「個別の指導計画」と混同しないようにします。
覚えるポイント
- 教育委員会(学校の設置者)は総括的な管理体制を担います。ガイドライン、医療的ケア運営協議会、看護師等の配置、指導医の委嘱、研修、予算・物品です。
- 学校長は校内体制を担います。校内委員会、実施要領、教職員の役割分担、保護者への説明と同意、緊急時対応です。
- 特定行為は、口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部の喀痰吸引、胃ろう・腸ろう・経鼻の経管栄養です。教員も研修と都道府県知事の認定を経て実施できます。研修の実施主体は都道府県または登録研修機関で、人工呼吸器の管理などは看護師が担います。
- 主治医は個々の児童生徒の病状把握と指示書を担い、指導医は学校全体の体制への指導・助言を担います。
- 個別の教育支援計画は、学校が作成する、関係機関と連携した長期的な支援計画です。本人・保護者の意向を踏まえて作ります。
- 医療的ケア児支援法(2021年9月施行)は、保護者の付き添いがなくても学校で支援を受けられることを目指しています。そのために、学校の設置者による看護師等の配置を求めています。
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