第108回
108AM054|第108回 保健師国家試験 過去問
次の文を読み53、54の問いに答えよ。A君(中学3年生)は中学1年生のときに筋委縮性側索硬化症〈ALS〉を発症した。病状の進行によって、自力での呼吸が難しくなったため入院し、気管切開をして人工呼吸器を装着した。退院後に復学する予定である。A君の退院が決まった。A君の学校生活のために養護教諭が行うことで最も優先度が高いのはどれか。
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正解3
正答
3.教職員に対してA君の状態を説明する。
この問題のポイント
気管切開をして人工呼吸器を使う生徒が復学するときに、養護教諭が最初に取り組むべきことを問う問題です。手がかりは2つあります。1つは「退院が決まった」という受け入れ準備の段階であること、もう1つは「学校生活のために」という学校生活全体を対象にした問いかけです。急変はいつ、どこで、誰の前で起こるかわかりません。そのため全教職員がA君の状態と緊急時の対応を共通理解することが、安全確保とその後のすべての調整の土台になります。
解説
問題文から読み取る状況
- A君は中学3年生です。ALSの進行により、気管切開と人工呼吸器が必要になりました。人工呼吸器の管理や気管カニューレ内の喀痰吸引など、日常的に医療的ケアを欠かせない医療的ケア児にあたります。
- 設問の時点は「退院が決まった」段階で、まだ復学前です。問われているのは、受け入れ体制づくりの最初の一手です。
- 対象は特定の場面ではなく、登校から下校までの学校生活全体です。
教職員が知っておくべきA君の状態
ALSは、上位と下位の運動ニューロンが障害され、全身の筋力低下と筋萎縮が進む神経難病です。一方で、感覚、眼球運動、膀胱直腸機能は比較的保たれ、知的機能も多くの場合保たれます。したがってA君は、意思を伝える手段を工夫すれば授業に参加して学ぶことができます。気管切開をして人工呼吸器を使っている間は通常、声を出すことが難しくなります。そのため、文字盤や意思伝達装置など、A君の意思をくみ取る方法を周囲が知っておく必要があります。
同時に、生命に直結するリスクもあります。
- 痰によるカニューレの閉塞
- カニューレの事故抜去
- 呼吸器の回路外れや故障
- 停電やバッテリー切れ
- 呼吸器感染症
これらは教室、移動中、授業中など、看護師がそばにいない場面でも起こりえます。次のような点を全教職員が知っていなければ、A君の安全は守れません。担任や教科担当だけでなく、部活動顧問、管理職、事務職員も含みます。
- アラームが鳴ったら誰に知らせるか
- 蘇生バッグ(用手換気)をどこに置き、誰が使うか
- 救急要請と、保護者・主治医への連絡の手順
養護教諭の役割と優先順位
養護教諭は学校保健の中心となる職員です。児童生徒の健康状態を把握し、保護者・主治医・看護師・教職員をつなぐ調整役を担います。医療的ケアが必要な生徒の受け入れ体制は、校長の責任のもとで整えられます。その出発点として養護教諭がまず行うのは、保護者や主治医からの情報をもとに、次の内容を教職員に説明して共通理解をつくることです。
- 病状
- 必要な医療的ケア
- 学校生活上の配慮
- 緊急時の対応
健康情報の共有は、本人と保護者の同意を得たうえで、学校生活に必要な範囲で行います。
この共通理解があって初めて、学校全体で次の取り組みを具体化できます。
- 看護師との役割分担(選択肢4)
- 個別の避難計画を含む避難訓練(選択肢2)
- 学校行事への参加方法の検討(選択肢1)
いずれも必要な取り組みですが、順序としては教職員の共通理解が先に来ます。この「関係者全員の共通理解から始める」考え方は、保健師が地域で医療的ケア児を支えるために関係機関と連携する場面にも共通します。
制度的な背景
医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(医療的ケア児支援法)は、2021年6月に成立し、同年9月に施行されました。出題当時はすでに施行されています。この法律で学校の設置者は、在籍する医療的ケア児が保護者の付添いがなくても適切な医療的ケアなどの支援を受けられるよう、看護師等の配置などの必要な措置を講ずることとされています。
ケアの担い手は次のように分かれます。
- 研修を受けて認定された教職員(認定特定行為業務従事者)も実施できる特定行為:喀痰吸引(口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部)と経管栄養(胃ろう・腸ろう・経鼻)
- それ以外の医療的ケア:人工呼吸器の管理を含め、看護師等が担うのが基本
医療的ケアの実施を看護師等が担うとしても、学校生活の大部分をともに過ごすのは教職員と級友です。だからこそ全教職員の理解が欠かせない、という点が本問の核心です。
選択肢の確認
1.A君に参加したい学校行事を聞く。:本人の意向を尊重する姿勢は大切で、中学3年生であれば修学旅行や卒業式など思い入れのある行事もあるはずです。しかし、行事は学校生活の一部の場面にすぎません。人工呼吸器を使った状態で参加する方法(移動手段、看護師の同行、電源や吸引器の確保など)は、教職員の共通理解と校内体制ができてから具体的に検討できるものです。そのため、復学準備の最初の一手としては優先度が下がります。本人の意思確認そのものは否定されるものではなく、体制づくりの各段階で続けて行います。
2.A君のクラスの避難訓練を計画する。:災害時に備えて、人工呼吸器の電源確保、移動手段、避難経路と避難場所、誰がA君を搬送し誰が呼吸を支えるかを事前に決めておくことは、とても重要です。ただし、これを検討できるのは、教職員がA君の状態と必要な支援を理解した後です。また、避難訓練は学校全体の安全計画(学校保健安全法に基づく危険等発生時対処要領など)の中で、管理職や安全担当と組み立てるものです。養護教諭が単独で1学級分だけ計画するものではありません。
3.教職員に対してA君の状態を説明する。:正答。全教職員が病状、必要な医療的ケア、意思伝達の方法、起こりうるトラブルと緊急時の対応を共有すれば、看護師がいない場面でも異変に気づいて行動できます。これがA君の安全を守る土台であり、役割分担、避難計画、行事参加の検討はすべてこの共通理解のうえに成り立ちます。
4.A君の医療的ケアを担当する看護師と役割分担を相談する。:看護師、養護教諭、担任などの役割を明確にすることは、医療的ケアを安全に実施するために欠かせません。そのため最も取り違えやすい選択肢です。しかし看護師が担うのは主に医療的ケアの実施であり、A君の学校生活の大部分は教職員と過ごします。看護師との二者間の調整だけを先に進めても、担任や教科担当が緊急時に動けない状態は解消されません。役割分担は、教職員全体がA君の状態を理解し、校内体制の枠組みができた中で具体化するものです。
覚えるポイント
- 医療的ケア児の受け入れや復学支援は、まず全教職員の共通理解から始めます。急変はいつどこでも起こるため、情報共有が安全確保の前提です。
- 養護教諭は、保護者・主治医・看護師・教職員をつなぐ調整役です。健康情報の共有は、本人と保護者の同意を得て必要な範囲で行います。
- 医療的ケア児支援法(2021年9月施行)は、保護者の付添いがなくても支援を受けられるよう、学校の設置者に看護師等の配置などの措置を求めています。
- 教職員が研修を受けて実施できる特定行為は、喀痰吸引(口腔内・鼻腔内・気管カニューレ内部)と経管栄養(胃ろう・腸ろう・経鼻)です。人工呼吸器の管理など、それ以外のケアは看護師等が担います。
- ALSは運動ニューロンの障害です。感覚・眼球運動・膀胱直腸機能は比較的保たれ、知的機能も多くの場合保たれます。気管切開と人工呼吸器の装着後は、意思伝達手段の確保が重要です。
- 「最も優先度が高い」を選ぶときは、生命の安全に直結し、ほかの取り組みの前提になるものを選びます。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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