第108回

108PM053|第108回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み52、53の問いに答えよ。Aさん(45歳、女性、正社員)は店舗で販売の仕事をしている。乳癌の手術後に転移がわかり、3週ごと6クールの予定で化学療法を受けることになった。会社には1年間の休職制度があるが、Aさんは化学療法中も休職せずに働くことを希望している。Aさんは主治医から悪心など体調不良になることはあるが、軽作業可能と説明されていた。上司の店長は、「Aさんの仕事はチームで分担するので、しばらく休職してもらったほうが良いのではないか」と人事部に伝えた。人事部からの連絡を受け、本社の保健師がAさんと店長とそれぞれ面談を行うこととなった。店長は、「生活もあるから働きたい気持ちはわかるし、きちんと仕事をしてもらえるなら働いてもらったほうが良いが、体調が悪くなった時が不安だ。管理者としての責任を問われても困る。主治医から軽作業可能と言われても安心して仕事を任せられない」と保健師に話した。保健師の対応で正しいのはどれか。

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正解3

正答

3.職場で必要な配慮を主治医に確認するようAさんに伝える。

この問題のポイント

治療と仕事の両立支援で、産業保健職が職場と主治医をどうつなぐかを問う問題です。店長の不安は、体調が悪くなったときにどう対応すればよいか、「軽作業可能」と言われても何を任せてよいかが分からない、という情報不足から生じています。主治医の抽象的な意見を、販売の現場で実行できる具体的な配慮に置き換えるための情報を、本人を通じて主治医から得ることが出発点です。

解説

事例の整理

  • Aさん:45歳、正社員、店舗販売。乳癌術後に転移が判明し、3週ごと6クール(計約18週、4か月余り)の化学療法の予定です。
  • 本人の意向:休職せずに働き続けたいと考えています。生活のためでもあります。
  • 主治医の見解:悪心などの体調不良はありうるが、軽作業は可能としています。
  • 職場の状況:1年間の休職制度があります。店長は当初、休職を勧める意見を人事部に伝えましたが、面談では「きちんと仕事をしてもらえるなら働いてもらったほうが良い」と述べており、就労継続そのものには反対していません。不安の中身は、体調悪化時の対応、管理者としての責任、「軽作業可能」だけでは任せられないことの3点です。

本人・主治医・店長のいずれも、就労継続そのものは否定していません。問題は、職場で何に配慮すれば安全に働けるのかという具体的な情報が欠けていることです。

両立支援の基本的な流れ

厚生労働省の「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」では、おおむね次の流れが示されています。

  • 本人が、作業内容・勤務時間・作業環境などの勤務情報を主治医に伝えます。事業者の様式(勤務情報提供書)を使い、作成は事業者や産業保健スタッフが支援します。
  • 主治医が、症状、治療の予定、就業継続の可否、望ましい就業上の措置、治療への配慮について意見を出します。
  • 事業者は、主治医の意見に加えて産業医等の意見を聴き、本人の意向も踏まえて就業上の措置や配慮を決めます。必要に応じて両立支援プランを作成します。
  • 病気の情報は機微な個人情報です。主治医への照会や職場で共有する範囲は、本人の同意を得て決めます。

保健師は、職場の業務内容が主治医に正確に伝わるよう支援し、得られた意見を職場の調整に活かす役割を担います。

この事例で主治医に確認したい内容

販売業務は、立ち仕事、商品の運搬、接客が中心です。化学療法では、投与後数日は悪心や倦怠感が出やすく、投与後1〜2週ごろには好中球が減少して感染しやすい時期があります。そこで、たとえば次の点を確認すると、職場が具体的に動けるようになります。

  • 副作用が強く出やすい時期と、その間の勤務の目安(休暇、短時間勤務、時差出勤など)
  • 立ち仕事の時間、重量物の取り扱い、休憩の取り方
  • 接客に伴う感染への注意点
  • 勤務中に体調が悪化したときの対応と、受診が必要になる症状
  • 通院日の確保

これらが分かれば、店長はチーム内の業務分担や急な欠勤時の交代体制を前もって決められます。「体調が悪くなった時が不安」という懸念に根拠をもって対処でき、管理者として必要な配慮を講じていることにもなるため、責任に関する不安も和らぎます。

両立支援の原則は、本人の意向を尊重しつつ、医学的な情報に基づいて就業上の配慮を決めることです。休職か就労継続かを先に決めつけたり、どちらか一方の立場で相手を説得したりする前に、まず判断材料をそろえることが保健師の最初の役割です。なお、がん対策基本法でも、事業主はがん患者の雇用の継続に配慮するよう努めることとされています。

選択肢の確認

1.Aさんに休職することを提案する。:本人は働き続けることを希望し、主治医も軽作業可能と判断しています。配慮の内容を検討する前に休職を勧めるのは、本人の意向と医学的判断のどちらにも反します。保健師が店長の意見の代弁者となり、Aさんとの信頼関係を損なうおそれもあります。休職を本人と一緒に検討するのは、配慮を講じても就労が難しい場合や、病状の変化により主治医が療養を要すると判断した場合です。

2.就業可能という主治医の意見に従うよう店長に伝える。:主治医の意見は尊重すべきですが、「軽作業可能」だけでは、販売のどの業務を任せられるか、体調不良時にどうすればよいかが分かりません。これでは店長の不安に応えられません。主治医は職場の実際の業務を詳しく知らないことが多く、就業上の措置は、事業者が主治医や産業医等の意見を聴いたうえで決めるものです。保健師が一方的に従わせれば、店長の協力も得にくくなります。

3.職場で必要な配慮を主治医に確認するようAさんに伝える。:正答。店長の不安の原因である情報不足を解消する対応です。業務内容を伝えたうえで主治医から具体的な配慮事項を得れば、職場は根拠をもって業務分担や体調不良時の体制を整えられます。本人の就労継続の希望も尊重できます。健康情報は本人の同意のもとで扱う必要があり、本人が主治医に確認する形は両立支援の基本的な手順に沿っています。

4.体調の悪化に対して管理者の責任がないことを店長に伝える。:労働契約法第5条により、使用者は労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮をする義務(安全配慮義務)を負います。店長は、現場でその配慮を実行する立場にあります。責任がないという説明は事実に反し、必要な配慮が行われなくなるおそれもあります。責任への不安には、具体的な配慮を講じる体制を整えることで応えます。

覚えるポイント

  • 両立支援の流れ:本人の申出 → 勤務情報を主治医へ提供 → 主治医の意見 → 産業医等の意見 → 事業者が就業上の措置・配慮を決定(両立支援プラン)。
  • 主治医の「就業可能」「軽作業可能」は抽象的になりやすいため、職場で実行できる具体的な配慮(時期、作業制限、休憩、通院、体調不良時の対応)に落とし込みます。
  • 健康情報は機微な個人情報です。主治医への照会や職場での共有は、本人の同意のもとで行います。
  • 使用者には安全配慮義務(労働契約法第5条)があり、「管理者に責任はない」とは言えません。責任への不安には、配慮の体制づくりで応えます。
  • 保健師は本人・上司のどちらか一方の立場に立たず、本人の意向を尊重しながら判断材料をそろえ、関係者をつなぐ調整役を担います。
  • 化学療法の副作用は周期的です。投与後数日は悪心・倦怠感、1〜2週ごろは好中球減少による感染リスクが高まるため、勤務調整もこの周期に合わせて考えます。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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