第109回

109AM022|第109回 保健師国家試験 過去問

地球温暖化によって発生が増加するおそれがある感染症はどれか。

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正解3

正答

3.マラリア

この問題のポイント

地球温暖化(気候変動)が健康に及ぼす影響のうち、感染症への影響を問う問題です。手がかりは「温暖化によって発生が増加するおそれがある」という条件です。気温や降水量に左右される蚊やダニなどの媒介動物(ベクター)を介して広がる感染症を選べるかが鍵になります。選択肢のうち節足動物が媒介するのはマラリアだけです。

解説

温暖化が感染症に影響する仕組み

気候の影響を特に受けやすいのは、蚊やダニなどの媒介動物を介して広がる感染症です。蚊やダニは変温動物なので、発育や活動が気温に左右されます。気温の上昇や降水パターンの変化によって、次のような影響が生じます。

  • 生息できる地域が高緯度・高標高へ広がる
  • 活動できる期間(季節)が長くなる
  • 発育や繁殖が速まり、個体数が増えやすくなる
  • 媒介動物の体内で病原体が発育する期間(外因性潜伏期間)が短くなり、感染を広げやすくなる

豪雨や洪水は、蚊の発生源となる水たまりも増やします。水や食品を介して広がる感染症も、気候の影響を受けます。高温では水中や食品中で細菌が増えやすくなります。洪水で上下水道が被害を受ければ、水系感染症のリスクが高まります。

マラリアの基本

マラリアはマラリア原虫(プラスモジウム属)による原虫感染症で、ハマダラカ属の雌の蚊が吸血するときに感染します。ヒトに感染する主な原虫は、熱帯熱、三日熱、四日熱、卵形の各マラリア原虫です。なかでも熱帯熱マラリアは脳マラリアなどの重症化を起こしやすく、発熱した渡航帰国者では早期診断が重要です。診断は、血液塗抹標本(ギムザ染色)で原虫を確認するのが基本です。感染症法では4類感染症に分類され、診断した医師は直ちに届け出ます。

世界では、アフリカなど熱帯・亜熱帯地域を中心に流行しています。原虫の発育も蚊の生息も気温に強く依存します。そのため、温暖化によって流行地域が広がることや、これまで流行が抑えられていた高地へ拡大することが懸念されています。日本でも、かつては三日熱マラリアの国内流行がありました。現在の届出はほぼすべて海外で感染した輸入例ですが、国内にも媒介しうるハマダラカが生息しています。輸入例を起点とした国内伝播への警戒が必要です。

温暖化で増加が懸念される他の感染症

  • 蚊媒介感染症:デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症(ヤブカ属)、日本脳炎(コガタアカイエカ)、ウエストナイル熱(イエカ属など)
  • ダニ媒介感染症:重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、日本紅斑熱など
  • 水系・食品媒介感染症:コレラなどの下痢症、海水温の上昇で増えやすい腸炎ビブリオによる食中毒など

国内では、デング熱などを媒介するヒトスジシマカの分布が北上し、東北地方まで広がっています。2014年には、東京都内の公園を中心に約70年ぶりとなるデング熱の国内感染例が相次ぎました。

温室効果ガスの排出を減らす取り組みを「緩和策」といいます。これに対し、気候変動の影響による被害を回避・軽減する取り組みを「適応策」といいます。保健師の活動では、次のような取り組みが感染症分野の適応策にあたります。

  • 雨水のたまる容器を除去するなどの蚊の発生源対策
  • 虫よけの使用や肌の露出を減らす防蚊対策の普及啓発
  • 輸入感染症の早期探知と積極的疫学調査

気候変動適応法(2018年制定)に基づく取り組みでも、健康分野では熱中症と並んで感染症が重要な項目とされています。

他の選択肢との違い

残りの選択肢はいずれも、蚊やダニなどの媒介動物を介さずにヒトからヒトへ伝播する感染症です(性的接触・血液、糞口、飛沫・接触、空気など)。流行を左右するのは、予防行動、ワクチン接種、衛生・居住環境、宿主の免疫状態です。温暖化で蚊やダニが増えても、それによってこれらの感染が広がることはありません。「媒介動物がいるか」という視点で絞り込めば、ハマダラカが媒介するマラリアを選べます。

なお、「ヒトからヒトへうつる」ことと「直接伝播」は同じ意味ではありません。疫学の感染経路の分類は次のとおりです。

  • 直接伝播:直接接触(性的接触を含む)、飛沫感染など
  • 間接伝播:空気感染(飛沫核感染)、媒介物感染(水・食品・血液製剤・器具など)、媒介動物感染

結核の空気感染や、汚染された水・食品を介する感染は、ヒトからヒトへ広がる場合でも間接伝播にあたります。

選択肢の確認

1.後天性免疫不全症候群〈AIDS〉:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による疾患で、感染経路は性的接触、血液(注射器の共用など)、母子感染(胎内・産道・母乳)です。蚊などの虫に刺されて感染することはありません。流行を左右するのはコンドームの使用や検査・早期治療などの予防行動であり、温暖化による増加が懸念される感染症ではありません。感染症法では5類感染症(全数把握)です。

2.ポリオ〈急性灰白髄炎〉:ポリオウイルスはヒトだけを病原巣とし、環境中では増殖しません。主に糞口感染でヒトからヒトへ広がり、感染者の一部で脊髄前角の運動神経細胞が侵されて弛緩性麻痺を起こします。流行を決めるのはワクチン接種率と上下水道などの衛生環境であり、温暖化による増加が懸念される感染症ではありません。日本では野生株による患者は1980年を最後に発生していません。2012年には、生ワクチンから不活化ワクチンへ切り替えられました。感染症法では2類感染症です。

3.マラリア:正答。本症は原虫による感染症で、雌のハマダラカの吸血によって媒介されます。蚊の生息域、活動期間、蚊の体内での原虫の発育のいずれも気温に左右されます。そのため、温暖化によって流行地域が広がり、発生が増加するおそれがあります。熱帯熱型は重症化しやすく、流行地から帰国した人が発熱した場合は常に疑う必要があります。感染症法では4類感染症です。

4.痘そう:天然痘ウイルスによる感染症で、宿主はヒトのみです。種痘の普及と、患者の早期発見・封じ込めによって、WHOが1980年に根絶を宣言しました。自然界に病原体が存在しないため、気候が変化しても発生が増えることはありません。現在はバイオテロへの備えが課題とされています。感染症法では1類感染症です。

5.結核:抗酸菌の一種(Mycobacterium tuberculosis)による感染症で、飛沫核を吸い込む空気感染で広がります。感染や発病には、密集した居住環境、高齢、糖尿病、HIV感染、免疫抑制薬の使用、低栄養などが関係します。気温の上昇が発生を増やす要因とはされておらず、温暖化による増加が懸念される感染症には当たりません。日本では罹患率(人口10万対)が2021年に10を下回り、低まん延国となりました(結核登録者情報調査)。感染症法では2類感染症です。

覚えるポイント

  • 温暖化で増加が懸念される感染症の代表は、蚊・ダニなどの媒介動物による感染症です(マラリア、デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症、日本脳炎、ウエストナイル熱、SFTSなど)。
  • 気温が上昇すると、媒介動物の生息域の拡大、活動期間の延長、体内での病原体の発育促進(外因性潜伏期間の短縮)が起こります。高温や豪雨・洪水は、水系・食品媒介感染症(下痢症、腸炎ビブリオ食中毒など)のリスクも高めます。
  • 媒介蚊の組み合わせ:マラリアはハマダラカ、デング熱・ジカウイルス感染症・チクングニア熱はヤブカ属(ヒトスジシマカ、ネッタイシマカ)、日本脳炎はコガタアカイエカです。
  • 感染経路の分類:直接伝播は直接接触・飛沫感染など、間接伝播は空気感染(飛沫核感染)・媒介物感染・媒介動物感染です。ヒトからヒトへうつる感染症でも、空気感染は間接伝播です。
  • 感染症法の類型:痘そうは1類、ポリオ・結核は2類、マラリア・デング熱・日本脳炎は4類、AIDSは5類(全数把握)です。
  • 痘そうは1980年にWHOが根絶を宣言しました。宿主がヒトのみであること、有効なワクチン(種痘)があったことなどが、根絶できた理由です。

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