第109回

109AM024|第109回 保健師国家試験 過去問

事業継続計画〈BCP:Business Continuity Plan〉に基づいて災害発生後72時間以内においても行う保健師の業務で優先度が高いのはどれか。

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正解5

正答

5.高齢者虐待防止法に基づく立入調査

この問題のポイント

事業継続計画(BCP)の考え方に沿って、発災直後の限られた人員と資源の中でも止めてはならない通常業務を選ぶ問題です。判断の鍵は「72時間以内においても行う」という条件です。中断すると住民の生命や身体に直ちに重大な危険が及ぶかどうかを基準に選択肢を比べます。高齢者虐待防止法の立入調査は、生命または身体に重大な危険が生じているおそれがある場合に行うものであり、延期できない業務の典型です。

解説

大規模災害が起きると、職員自身も被災し、庁舎・通信・電力・交通なども使えなくなります。そのため、平常時と同じ量の業務をこなすことはできません。事業継続計画(地方公共団体では業務継続計画とも呼びます)は、こうした資源の制約を想定した計画です。どの業務を継続し、どの業務を縮小・休止し、休止した業務をいつ再開するかを、平常時のうちに決めておきます。

災害時に行政が優先して行う業務を非常時優先業務と呼び、次の2つで構成されます。

  • 応急対策業務:救護所の設置、避難所での健康管理、要配慮者の安否確認など、災害によって新たに生じる業務
  • 優先度の高い通常業務:平常時から行っている業務のうち、中断すると住民の生命・身体・財産や社会機能に重大な影響が出るため、災害時も継続すべき業務

それ以外の通常業務は、発災直後はいったん休止・延期し、人員を応急対策業務に振り向けます。本問は、保健師の通常業務のうち「優先度の高い通常業務」に当たるものを問うています。

発災後72時間は、倒壊家屋などから救出された人の生存の可能性が大きく下がる目安とされます。人命救助と生命・安全の確保が最優先となる時期です。保健師の災害時活動の段階(フェーズ)でも、おおむね72時間以内は緊急対策期とされ、生命・安全の確保が活動の中心になります。この時期に続ける通常業務は、「今やらなければ命が危ない」ものに絞り込まれます。

高齢者虐待防止法(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)第11条は、立入調査について次のように定めています。

  • 要件:養護者による虐待によって高齢者の生命または身体に重大な危険が生じているおそれがあると、市町村長が認めるとき
  • 内容:地域包括支援センターの職員など、高齢者の福祉に関する事務に従事する職員に、高齢者の住所や居所へ立ち入らせ、必要な調査や質問をさせることができる

必要があれば、警察署長に援助を求めることもできます。このように、立入調査は実施の要件そのものが「生命・身体への重大な危険のおそれ」であり、先送りすると被害が取り返しのつかないものになりかねません。

さらに災害時は、避難生活や介護サービスの中断によって、養護者の介護負担やストレスが増します。虐待や介護放棄(ネグレクト)が起こりやすく、高齢者が孤立しやすい時期でもあります。虐待対応は、災害下でこそ止めてはならない業務です。

残りの選択肢は、健康教育、任意の検査、多職種の協議、計画的な健診です。いずれも住民の健康にとって大切な事業ですが、数日から数週間延期しても直ちに生命の危険にはつながりません。応急対策業務に人手を集める時期には休止の対象となり、状況が落ち着いてから再開します。

同じ考え方で、次のような業務も災害時に継続すべき業務として扱われます。

  • 児童虐待や障害者虐待への対応
  • 精神保健福祉法に基づく警察官通報など、緊急の精神科医療につなぐ対応
  • 感染症法に基づく感染症発生時の対応

選択肢の確認

1.両親学級:母子保健事業の健康教育の一つで、妊婦とそのパートナーに妊娠・出産・育児の知識や技術を伝える集団教室です。延期しても参加者の生命に直ちに危険は及ばないため、発災直後は休止し、落ち着いてから再開します。被災した妊産婦は要配慮者として避難所などで個別に把握し、健康状態を確認します。ただし、それは応急対策業務としての個別支援であり、集団教室の開催とは分けて考えます。

2.HIV検査:多くの保健所で無料・匿名で受けられる、本人の希望に基づく任意の検査です。早期発見・早期治療につなぐ重要な事業ですが、延期しても直ちに生命の危険は生じず、体制が整ってから再開できます。「災害時は感染症対策が重要」という知識と混同しないよう注意が必要です。災害時に優先されるのは避難所での集団感染の予防や感染症発生時の対応であり、平常時の定例の検査事業ではありません。また、抗HIV療法中の人の服薬継続を支えることは医療の確保として重要ですが、検査とは別の課題です。

3.地域ケア会議:介護保険法に位置づけられ、市町村や地域包括支援センターが開催する多職種の会議です。個別事例の検討から地域課題の発見、地域づくり・資源開発、政策形成へとつなげる役割をもちます。関係者を集めて協議するという性質上、発災直後の開催は困難で、延期しても直ちに生命の危険にはつながりません。災害時に支援が必要な高齢者には、会議を待たずに安否確認や訪問で対応します。

4.特定健康診査:高齢者医療確保法に基づき、医療保険者が40〜74歳の加入者に行う、メタボリックシンドロームに着目した健診です。生活習慣病の予防を目的に年間計画で実施するもので、時期をずらしても直ちに健康被害は生じないため、発災直後は延期の対象です。災害時の慢性疾患の悪化予防は、避難所での健康相談や服薬継続の確認という形で行います。

5.高齢者虐待防止法に基づく立入調査:正答。養護者による虐待で高齢者の生命または身体に重大な危険が生じているおそれがあると市町村長が認めるときに行う調査であり、実施の要件そのものが緊急性の高さを示しています。延期すれば死亡や重い後遺症につながりかねません。災害で介護負担や孤立が強まる時期には危険がむしろ増すため、発災後72時間以内であっても継続すべき優先度の高い通常業務です。

覚えるポイント

  • BCPの非常時優先業務は「応急対策業務+優先度の高い通常業務」です。通常業務を続けるかどうかは、「中断すると生命・身体に重大な危険が生じるか」で判断します。
  • 災害直後も継続する代表例は、虐待対応(高齢者・児童・障害者)、精神保健の緊急対応、感染症発生時の対応です。健康教育・健診・任意の検査・会議などは休止・延期の対象です。
  • 高齢者虐待防止法の立入調査は、実施主体が市町村長、要件が「生命または身体に重大な危険が生じているおそれ」です。地域包括支援センター職員などに行わせることができ、警察署長への援助要請も可能です。
  • 養護者による虐待の通報は、生命・身体に重大な危険が生じている場合は義務、それ以外は努力義務です。
  • 保健師の災害時活動のフェーズは、フェーズ0(初動体制の確立、おおむね24時間以内)、フェーズ1(緊急対策期、おおむね72時間以内)、フェーズ2以降(避難所対策、生活の安定、復旧・復興)と進みます。最初の72時間は生命・安全の確保が中心です。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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