第109回

109AM041|第109回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み41~43の問いに答えよ。Aさん(35歳、女性)は結婚を機に実家から隣のB市に移り、B市で夫と長女(5か月)と暮らしている。Aさんは長女を連れ、B市が実施する乳児相談会に参加した。月に1回開催されている乳児相談会では、乳児の身長・体重測定および相談や参加者との交流を行っており、長女は順調に成長している。Aさんは「学生時代に親戚の子どもに接した経験が少しあるだけで、初めての育児に不安があります」と話し、表情がさえない。保健師がAさんに話を聞くと、Aさんは母親の手料理と手作りのおやつを食べて育ち、離乳食づくりに自信がなく、育児を楽しめていないことが分かった。保健師のAさんへの対応で最も適切なのはどれか。

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正解3

正答

3.Aさんが考える育児について話を聞く。

この問題のポイント

初めての育児に不安があり、表情がさえず「育児を楽しめていない」母親に対して、乳児相談会の場で保健師がまず何をするかを問う問題です。本人が口にしている「離乳食づくりに自信がない」という訴えの奥には、母親の手料理で育った経験から生まれた、本人なりの育児の理想像があるかもしれません。差し迫った危険がなく、不安の背景もまだ分からないこの場面で、技術や資源を提供する前に本人の考えと気持ちを聴いてアセスメントすることを優先できるかが問われています。

解説

事例から読み取る手がかり

  • 35歳で初めての育児です。これまでの経験は、学生時代に親戚の子どもに少し接した程度です。
  • 結婚を機に、実家から隣のB市へ転居しています。地域に知り合いや頼れる人が少ない可能性があります。
  • 長女は5か月で、順調に成長しています。子どもの発育に問題はありません。
  • 表情がさえず、育児を楽しめていません。
  • 母親の手料理と手作りのおやつを食べて育ち、離乳食づくりに自信がありません。

長女の発育は順調なので、支援の焦点は子どもではなく、Aさんの気持ちと育児の受け止め方にあります。生後5か月は離乳を始める時期にあたります。「授乳・離乳の支援ガイド」(厚生労働省、2019年改定版)では、離乳の開始は生後5〜6か月頃が適当とされています。そのため、この時期に離乳食が気がかりになること自体は自然なことです。

ただし、Aさんは自信のなさを「母親の手料理と手作りのおやつで育った」という生い立ちと結びつけて語っています。ここから、「子どもには手作りのものを食べさせるべきだ」という理想があり、それに届かない自分を責めている可能性が考えられます。一方で、不安の背景には夫の協力の度合い、転居による孤立、睡眠不足、産後うつ病なども考えられます。この時点では、どれが当てはまるのかはまだ分かりません。

まず本人の捉え方を聴く理由

個別支援は、情報収集とアセスメントから始めます。次に本人とともに課題と目標を確認し、そのうえで具体的な方法や社会資源を選びます。Aさんが育児をどう考え、何を大切にし、どこで苦しさを感じているのかを聴くことには、次のような意味があります。

  • 表に出た訴えである離乳食と、根底にある課題である育児を楽しめないことを区別できます。
  • 語ることで本人の気持ちが整理されます。また、受け止めてもらえたという体験が保健師との信頼関係につながります。
  • 本人の価値観を尊重した支援を選べます。これは自己決定の尊重とエンパワメントにつながります。

たとえば、話を聴いて「すべて手作りでなければならない」という思いが負担になっていると分かれば、市販のベビーフードを上手に使ってよいことを伝えられます。支援ガイドにもベビーフードを利用する際の留意点が示されており、手作りだけが正解ではありません。そのうえで、Aさんが望めば離乳食教室やレシピを紹介します。こうすれば押し付けにならず、役に立つ支援になります。

なお、傾聴から始めるのが最も適切なのは、この場面に緊急性がなく、不安の背景もまだ把握できていないからです。虐待が疑われる外傷や差し迫った自殺の危険など、安全の確保が急がれる場合は、通告・受診勧奨・関係機関への連絡が優先されます。本問では長女の発育は順調で、危険を示す情報もありません。また、離乳食への不安は語られていますが、それが育児を楽しめない理由のすべてなのか、Aさんがどのような支援を望んでいるのかは分かっていません。そのため、この時点ではアセスメントから始めるのが最も適切です。

抑うつのサインにも注意する

「表情がさえない」は抑うつ気分を、「育児を楽しめない」は興味や喜びの喪失をうかがわせる所見でもあります。話を聴く中で、睡眠、食欲、気分の落ち込み、自分を責める気持ちなども確認します。必要に応じてエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)を用い、継続した支援につなげます。EPDSでは合計点だけでなく、自分を傷つける考えを問う第10項目の回答にも注意します。マタニティブルーズは産後数日から10日頃に現れ、自然に軽快します。産後うつ病とは、この時期と経過の違いで区別します。産後5か月の不調は、産後うつ病や育児不安の視点から評価します。

乳児相談会という場の活用

この相談会には参加者同士の交流が含まれています。同じ時期に子育てをしている母親と話すことは、孤立を防ぎ、「自分だけではない」と感じるきっかけになります。継続支援の窓口は、出題当時は子育て世代包括支援センター(法律上は母子健康包括支援センター)でした。2024年4月からは、児童福祉法等の改正により、子ども家庭総合支援拠点と統合したこども家庭センターの設置が市町村の努力義務となっています。

選択肢の確認

1.離乳食教室への参加を勧める。:離乳食教室は、離乳の進め方や調理の実際を学べる有用な資源です。しかし、Aさんの不安の背景を確かめる前に勧めるのは早すぎます。この段階で勧めると、保健師が課題を「調理技術の不足」と決めつけることになり、「育児を楽しめていない」という中心的な訴えにも応えられません。手作りへのこだわりが負担の源であれば、教室への参加が「もっと頑張らなければ」という圧力を強めるおそれもあります。話を聴いた結果、作り方を学びたいというニーズが確認できれば、そのときには適切な紹介先になります。

2.簡単に作れる離乳食のレシピを渡す。:レシピを渡すことは手軽な情報提供ですが、一方向の支援にとどまり、自信のなさや楽しめなさの背景を把握する機会になりません。「簡単なもので済ませる」ことに罪悪感を抱いたり、レシピどおりに作れずにさらに自信を失ったりする可能性もあります。育児への気持ちに余裕があり、作り方の情報だけを求めている母親であれば、有効な対応です。

3.Aさんが考える育児について話を聞く。:正答。本人がどのような育児を理想とし、どこで苦しさを感じているのかを聴くことで、離乳食という表面の訴えの背景にある課題が明らかになります。傾聴を通じて気持ちの整理と信頼関係の形成が進み、その後の情報提供や資源の紹介を本人の意向に沿って選べるようになります。抑うつのサインの有無を確かめる機会にもなります。

4.母親に育児を手伝ってもらうことを勧める。:実家はB市に隣接する地域にあり、Aさんの母親は身近な支援者になり得ます。しかし、本人の意向や家族関係を確かめないまま勧めるのは早すぎます。Aさんの母親の健康状態や就労、母娘の関係、Aさん自身の希望、夫の協力状況はまだ分かっていません。さらに、Aさんは母親の手作りの食事を基準に自分を評価している可能性があり、母親の手助けがかえって比較を意識させる場合もあります。インフォーマルサポートの確保そのものは大切なので、誰に支援を頼むかは、本人の意向と家族関係を確認してから一緒に考えます。

覚えるポイント

  • 緊急性がなく、本人の思いや不安の背景がまだ把握できていない段階では、情報提供・教室の紹介・他者への依頼より先に、本人の思いや考えを聴いてアセスメントします。
  • 虐待が疑われる外傷、差し迫った自殺の危険、急いで受診すべき症状など、安全の確保が急がれる場合は、通告・受診勧奨・関係機関との連携が優先されます。事例文で本人の思いやニーズがすでに示されている場合は、アセスメントが済んだ段階と読みます。その場合は、具体的な情報提供や資源の紹介が正答になることがあります。
  • 表面の訴え(離乳食づくりに自信がない)と、その根底にある課題(育児を楽しめない気持ちや、本人が抱く育児の理想像)を区別して捉えます。
  • 離乳の開始は生後5〜6か月頃が目安です(授乳・離乳の支援ガイド2019年改定版)。ベビーフードの活用も認められており、すべて手作りでなくてかまいません。
  • さえない表情や楽しめなさは、抑うつのサインになり得ます。EPDSは10項目30点満点で、日本では9点以上をスクリーニング陽性の目安とします。マタニティブルーズは、産後数日〜10日頃に現れる一過性の状態です。
  • 転居により身近に頼れる人が少なく、初めて子育てをする母親は孤立しやすくなります。乳児相談会や健診の場での母親同士の交流を、孤立予防の資源として活用します。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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