第109回

109PM054|第109回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み54、55の問いに答えよ。住民から「最近、近所に引っ越してきた家族の3歳ぐらいの男の子が、毎日、昼ころから暗くなるまで1人で走り回っている。子どもを叱責する声と子どもの泣き声が何度も家の中から聞こえて気になる」と市の保健福祉センターに通告があった。この通告について規定している法律はどれか。

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正解2

正答

2.児童虐待の防止等に関する法律〈児童虐待防止法〉

この問題のポイント

住民から寄せられた「子どもが心配だ」という連絡が、どの法律に基づく「通告」にあたるかを問う問題です。手がかりは2つあります。3歳前後の幼児が毎日長時間ひとりで外にいることはネグレクトを疑わせ、叱責と泣き声が繰り返し聞こえることは身体的・心理的虐待を疑わせます。虐待を受けたと思われる児童を発見した者の通告義務は、児童虐待防止法に定められています。

解説

事例から読み取れること

  • 3歳ぐらいの幼児が、毎日、昼ころから暗くなるまで1人で外を走り回っている:3歳児は交通事故や迷子、転落などの危険を自分で避けられないため、大人の見守りが常に必要です。保護者が長時間子どもを監護していない状態は、ネグレクト(養育の放棄・怠慢)の疑いがあります。
  • 家の中から叱責の声と子どもの泣き声が何度も聞こえる:身体的虐待や、暴言などによる心理的虐待が加えられている可能性があります。
  • 最近引っ越してきた:地域とのつながりが乏しく、周囲の支援から孤立しやすい状況です。転居によって関係機関の把握が途切れやすい点にも注意が必要です。

住民は虐待と断定しているわけではありません。しかし「虐待を受けたと思われる」状況を行政に伝えており、これが法律上の通告にあたります。

児童虐待防止法の通告の規定

児童虐待防止法は、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者に、速やかに市町村、都道府県の設置する福祉事務所、または児童相談所へ通告することを義務づけています。児童委員を介して通告することもできます。押さえるべき点は次のとおりです。

  • 通告義務は国民すべてに課されており、専門職に限られません。
  • 対象は「虐待を受けた児童」ではなく「受けたと思われる児童」です。2004年の改正でこのように広げられ、確証がなくても通告する義務があります。
  • 市町村も通告先に含まれます。そのため、市の保健福祉センターが本件の通告を受け止めることになります。
  • 守秘義務に関する法律の規定は通告を妨げるものと解釈してはならない、とされています。医療職が通告しても守秘義務違反にはなりません。
  • 通告を受けた市町村等の職員は、通告した者を特定させる情報を漏らしてはなりません。
  • この通告は、児童福祉法に定める要保護児童の通告とみなされます。

同法はさらに、学校、児童福祉施設、病院などの団体と、教職員、医師、保健師、助産師、看護師、弁護士など職務上虐待を発見しやすい立場の者に、早期発見に努める義務を課しています。

児童虐待の定義は、保護者がその監護する18歳未満の児童に対して行う次の4類型です。

  • 身体的虐待
  • 性的虐待
  • ネグレクト
  • 心理的虐待

子どもの目の前で配偶者に暴力をふるう、いわゆる面前DVは心理的虐待に含まれます。また、2019年の改正(2020年施行)により親権者などによる体罰の禁止が明記され、しつけを理由とする体罰も認められません。

通告を受けた後の動き

通告を受けた市町村は、近隣住民や保育所・学校などの協力を得ながら、面会などによって速やかに子どもの安全を確認する措置を講じます。国の指針では、通告受理後、原則48時間以内に子どもを直接目視して安全を確認することが望ましいとされています。

保健師は次のような情報を確認します。

  • 乳幼児健康診査(1歳6か月児健診・3歳児健診)の受診状況
  • 前住所地の自治体からの情報
  • 世帯の構成や状況

そのうえで、要保護児童対策地域協議会などを通じて関係機関と情報を共有し、支援方針を立てます。健診の未受診や転居の繰り返しは、虐待のリスクを示すサインとして重視されます。通告してくれた住民には、連絡への感謝を伝え、通告者の秘密は守られることを説明して、今後の見守りへの協力も得られるよう配慮します。

選択肢の確認

1.母子保健法:妊産婦と乳幼児の健康の保持増進を目的とする法律で、保健指導、新生児訪問、1歳6か月児・3歳児健康診査、母子健康手帳の交付などを定めています。2016年の改正で、母子保健の施策が乳幼児虐待の予防と早期発見に役立つことに留意するよう、国と地方公共団体に求める規定が加わりました。乳幼児健診は虐待を早期に発見する場としても重要です。ただし、虐待が疑われる子どもを発見した者の通告義務や通告先は、この法律には規定されていません。「保健福祉センター」「3歳ぐらい」という語から連想して選ばないよう注意します。

2.児童虐待の防止等に関する法律〈児童虐待防止法〉:正答。児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに市町村、都道府県の設置する福祉事務所または児童相談所に通告しなければならないと、この法律に定められています。本事例はネグレクトと身体的・心理的虐待が疑われる状況で、住民から市への連絡はまさにこの通告にあたります。なお、要保護児童を発見した者の通告義務は児童福祉法にも規定されており、この法律による通告は児童福祉法上の通告とみなされます。

3.精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〈精神保健福祉法〉:精神障害者の医療と保護、社会復帰の促進などを定める法律です。申請や通報の規定は、自傷他害のおそれがある精神障害者(その疑いのある者を含む)の措置入院に向けた手続きとして設けられています。一般の人は指定医の診察と必要な保護を都道府県知事に申請でき、警察官などには通報の規定があります。本事例で問題になっているのは子どもの養育環境であり、保護者の精神疾患を示す情報もないため該当しません。保護者に精神疾患がある場合は、この法律に基づく支援と虐待対応を並行して考えることになります。

4.配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律〈DV防止法〉:配偶者(事実婚や、離婚後も暴力を受け続ける元配偶者を含む)からの暴力の防止と被害者の保護を定める法律です。配偶者からの身体に対する暴力を受けている者を発見した者は、配偶者暴力相談支援センターまたは警察官に通報するよう努めなければならない、という努力義務の規定があります。本事例は親から子への叱責や養育の放棄が疑われる場面で、夫婦間の暴力を示す情報はありません。子どもの面前でのDVは児童虐待の一類型である心理的虐待にあたるので、その場合は子どもについて児童虐待としての通告が必要になる点と区別して覚えます。

覚えるポイント

  • 児童虐待は「受けたと思われる」段階で、すべての国民に通告義務があります。通告先は市町村、都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所で、児童委員を介することもできます。
  • 通告は守秘義務違反になりません。通告を受けた職員は、通告者を特定させる情報を漏らしてはなりません。
  • 児童虐待の4類型は身体的・性的・ネグレクト・心理的で、面前DVは心理的虐待に含まれます。対象は18歳未満の児童、行為者は保護者です。
  • 通報規定の強さの比較
    • 児童虐待:思われる段階で義務
    • 障害者虐待:思われる段階で義務
    • 養護者による高齢者虐待:生命・身体に重大な危険が生じている場合は義務、それ以外は努力義務
    • DV:努力義務(医療関係者は通報することができ、本人の意思を尊重するよう努める)
  • 通告を受けたら、速やかに子どもの安全を確認します(原則48時間以内の目視が目安)。乳幼児健診の未受診や転居は、虐待リスクのサインとして情報収集します。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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