第109回

109PM055|第109回 保健師国家試験 過去問

次の文を読み54、55の問いに答えよ。住民から「最近、近所に引っ越してきた家族の3歳ぐらいの男の子が、毎日、昼ころから暗くなるまで1人で走り回っている。子どもを叱責する声と子どもの泣き声が何度も家の中から聞こえて気になる」と市の保健福祉センターに通告があった。市の住民基本台帳から、家族は父親(24歳、会社員)、母親(20歳、無職)とAちゃん(3歳3か月、男児)の3人暮らしで、1か月前に転入していたことを把握した。市の保健師の対応で優先度が高いのはどれか。

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正解3

正答

3.児童相談所の職員と家庭訪問をする。

この問題のポイント

住民から児童虐待が疑われる通告を受けた市の保健師が、最初に何をすべきかを問う問題です。手がかりは三つあります。3歳児が毎日長時間1人で屋外にいること(ネグレクトの疑い)、叱責と泣き声が繰り返し聞こえること(心理的・身体的虐待の疑い)、転入直後でこれまでの情報がないことです。虐待が疑われる通告では、子どもを直接目で見て安全を確認することが最優先です。危険が高いと考えられる場合は、権限をもつ児童相談所と連携して動くことを理解しているかが問われています。

解説

事例から読み取れること

  • 3歳3か月の男児が、毎日、昼ころから暗くなるまで1人で外を走り回っています。3歳児は危険を予測して避ける力が未熟で、交通事故、迷子、転落、連れ去りなどの危険に毎日さらされています。保護者が必要な監護をしていない状態が続いているとすれば、ネグレクトが疑われます。
  • 叱責する声と子どもの泣き声が「何度も」聞こえています。心理的虐待、あるいは叩くなどの身体的虐待を伴っている可能性があります。
  • 父親24歳、母親20歳で、母親は10代でAちゃんを出産しています。母親は無職で、1か月前に転入したばかりです。若年での出産や、転居直後で近隣・親族の支えが乏しい孤立した育児は、虐待のリスク要因として知られています。
  • 転入間もないため、この市には乳幼児健康診査の受診歴や相談歴がなく、家庭の状況を判断できる材料がほとんどありません。

複数の虐待の兆候が重なっているのに、緊急度を判断する情報がありません。このような場合は「危険が高いかもしれない」という前提で、早く確実に子どもの状態を確かめる対応を選びます。

通告を受けた市町村の責務

児童虐待防止法では、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者に、市町村、都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所のいずれかへの通告を義務づけています。確証がなくても通告してよく、今回の住民からの連絡はこの通告にあたります。

通告を受けた市町村は、近隣住民や関係機関の協力を得ながら、児童との面会その他の方法で速やかに安全を確認し、必要に応じて児童相談所へ送致または通知します。児童相談所運営指針などでは、通告を受けてから48時間以内に子どもを直接目視して安全を確認することが望ましいとされています。また、通告を受けた職員は、通告した人が誰かを特定させる情報を漏らしてはならないと定められています。訪問時に「近所の方から聞いた」などと伝えない配慮も必要です。

児童相談所の職員と同行する理由

立入調査は都道府県知事の権限で行われ、実際には児童相談所の職員が担います。一時保護は児童福祉法に基づく児童相談所長の権限です。市町村の保健師はこれらの権限をもちません。児童相談所の職員と同行すれば、訪問の場で子どもにけがや著しい衰弱などが見つかったとき、一時保護を含む判断をすぐに行えます。

一方、保健師は母子保健の立場から訪問できます。子どもの発育・発達や健康状態、親の心身の状態や育児の負担感を把握し、その後の継続支援につなげられます。権限をもつ機関と、支援的に関われる専門職が組むことで、安全確認と支援関係づくりを同時に進められます。

安全確認の後に行うこと

安全を確認した後は、リスクを評価し、要保護児童対策地域協議会で関係機関と情報を共有します。転出元の市町村への照会(前住所地での健診受診状況や支援歴の確認)も行います。育児の孤立を和らげる社会資源の紹介、健康診査の受診、地域での見守りは、この段階で組み合わせる支援です。

なお、出題当時は、母子保健の相談は子育て世代包括支援センター、児童福祉の相談は市区町村子ども家庭総合支援拠点が担っていました。現在は2024年4月施行の改正児童福祉法により、両者を一体化したこども家庭センターの設置が市町村の努力義務とされています。

選択肢の確認

1.地域の育児サークルを紹介する。:育児サークルは、孤立した育児を支え、仲間づくりや情報交換の場となる有効な社会資源です。しかし、参加するかどうかは保護者次第で、紹介しても子どもの現在の安全を確かめることにはなりません。虐待の程度が分からない段階で最初に行う対応ではありません。育児不安や孤立が中心でリスクが低いと判断された家庭や、安全確認後の継続支援の一つとして検討します。

2.居住地の児童委員に問い合わせる。:児童委員は民生委員が兼ねる地域のボランティアで、子どもの見守りや相談に応じ、通告の仲介役も担えます。ただし、転入後1か月の家庭の状況を把握しているとは限らず、得られるのは間接的な情報にとどまります。一時保護などの権限もありません。近隣の協力として情報を得ることはありえますが、子どもを直接見て安全を確認する対応の代わりにはなりません。安全確認の後に見守り体制をつくる段階で連携する相手です。

3.児童相談所の職員と家庭訪問をする。:正答。ネグレクトと心理的・身体的虐待を疑わせる兆候が重なり、転入直後で判断材料もない状況では、速やかな直接の安全確認が最優先です。立入調査や一時保護の権限をもつ児童相談所の職員と同行すれば、その場で必要な判断ができます。保健師は母子保健の視点から、子どもの発育や親の育児状況を把握できます。

4.市の3歳児健康診査の受診を勧奨する。:3歳児健康診査は母子保健法に基づき市町村に実施義務があり、満3歳を超え満4歳に達しない幼児が対象です。Aちゃんは対象年齢にあたり、転入のため未受診の可能性があります。健診は虐待の早期発見の場でもありますが、受診勧奨は保護者の来所を待つ方法です。受診日まで時間がかかり、応じなければ安全を確認できません。虐待が疑われる家庭はむしろ未受診になりやすく、健診未受診そのものがリスクのサインとされます。安全確認と並行して、または確認後に勧めるものです。

覚えるポイント

  • 虐待が疑われる通告を受けたら、最優先は子どもの直接目視による安全確認です。通告受理後48時間以内が望ましいとされています。
  • 通告先は市町村、都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所です。「虐待を受けたと思われる」段階で通告義務が生じ、守秘義務は通告を妨げません。通告者を特定させる情報は漏らしません。
  • 立入調査(都道府県知事の権限で児童相談所職員が実施)と一時保護(児童相談所長の権限)は、市町村の保健師にはない権限です。危険が高いときは児童相談所と同行・送致します。
  • 虐待の4類型は、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待です。子どもの面前でのDVは心理的虐待にあたり、福祉行政報告例では近年、心理的虐待が最も多くなっています。
  • 主なリスク要因は、若年での妊娠・出産、転居直後や転居の繰り返し、地域からの孤立、経済的困難、健診未受診などです。
  • 育児サークルの紹介、健診の受診勧奨、児童委員による見守りは、安全確認とリスク評価の後に組み立てる継続支援です。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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