111AM065|第111回 看護師国家試験 過去問
精神保健における一次予防はどれか。
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正解: 4
正答
4.ストレスとその対処法に関する知識の啓発活動を行う。
この問題のポイント
予防の3段階(一次予防・二次予防・三次予防)を、精神保健の活動に当てはめる問題です。判断の鍵は2つあります。1つは活動の対象がまだ発症していない人か、すでに発症している人や自殺企図に至った人か、もう1つは目的が「発症を防ぐ」「早く見つけて治療につなぐ」「機能を回復し再発を防ぐ」のどれか、です。選択肢の「早期発見」「自殺企図者」「患者の社会参加」「啓発活動」という言葉が、そのまま段階を見分ける手がかりになります。
解説
予防の3段階の基本
予防医学では、疾病の自然経過に沿って予防を3段階に分けます。リーベルとクラーク(Leavell & Clark)の整理では、一次予防は健康増進と特異的予防(予防接種など)から成ります。精神保健の領域では、カプラン(Caplan)が著書『予防精神医学』(原著1964年)で、この3段階を地域の精神保健活動に当てはめて整理しました。
- 一次予防:精神障害の新たな発生を減らす段階です。対象は、健康な人を含む地域住民や労働者全体です。メンタルヘルスの健康教育、ストレス対処(コーピング)の学習、職場環境の改善などが当たります。
- 二次予防:すでに始まっている不調を早期に発見し、早期に治療する段階です。有病期間を短くし、重症化を防ぎます。スクリーニング、相談窓口での気づき、受診勧奨などが当たります。
- 三次予防:発症後の障害や生活機能の低下を最小限にし、再発防止と社会復帰を図る段階です。精神科デイケア、社会生活技能訓練(SST)、就労支援、地域生活支援、職場復帰支援、患者と家族への心理教育などが当たります。
問題文への当てはめ
選択肢4の「ストレスとその対処法に関する知識の啓発」は、特定の患者ではなく、住民や労働者全体に向けた活動です。ストレスの仕組みと対処法を知っていれば、不調が起こる前に自分で気づいて対処する力(セルフケア)が高まります。発症そのものを防ぐ働きかけなので、一次予防に当たります。
ほかの選択肢は、いずれもすでに発症している人や、自殺企図に至った人が対象です。選択肢1は早期発見、選択肢2は精神科治療への橋渡しで、どちらも二次予防です。選択肢3は社会参加の支援で、三次予防です。
混同しやすい点
- 一次予防か二次予防かは、発症の前か後かで決まります。集団が対象か個人が対象かでは決まりません。健康教育も、発症前の人に行えば一次予防です。
- 同じ「教育」でも、健康な人へのストレス対処の教育は一次予防です。一方、統合失調症患者と家族への疾病教育(心理教育)は、再発防止が目的なので三次予防になります。
- 危機介入の位置づけは、枠組みによって異なります。カプランは、危機介入と精神保健コンサルテーションを、地域の精神障害の発生率を下げる一次予防の方法としました。危機状態そのものは精神障害ではなく、危機を適応的に乗り越えられるよう援助すれば精神障害の発生を防げる、という考え方です。これは「発症前に働きかける」という一次予防の原則とも一致します。一方、自殺予防を予防活動(プリベンション)、危機介入(インターベンション)、事後対応(ポストベンション)に分ける整理では、インターベンションを二次予防に対応させる説明もあります。「危機介入」という語だけで段階を決めず、対象と目的で判断します。
- 職場のメンタルヘルス対策では、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」が3段階を示しています。メンタルヘルス不調の未然防止が一次予防、早期発見と適切な措置が二次予防、職場復帰の支援が三次予防です。
- 労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度(2015年12月施行)は、主な目的を一次予防としています。労働者が自分のストレスに気づくことと、職場環境を改善することがねらいで、うつ病の発見を一義的な目的とはしていません。「職場で行うもの=早期発見」と短絡しないよう注意が必要です。
臨床では、病棟での退院支援や、服薬継続・再発予防の支援は三次予防に当たります。地域や職場での健康教育は、一次予防の実践です。看護師はどの段階でも役割を担います。自分の関わりがどの段階に当たるかを意識すると、支援の目的が明確になります。
選択肢の確認
1.職場でうつ病 depression 患者を早期発見する。:「早期発見」という言葉が示すとおり、すでに発症している人を見つけ出し、治療につなげる活動です。早期発見・早期治療で重症化を防ぐ二次予防であり、一次予防ではありません。同じ職場の活動でも、ストレスチェック後の職場環境改善やセルフケア研修のように、発症前の人への働きかけであれば一次予防になります。場所ではなく目的で判断します。
2.自殺企図者に精神科医療機関への受療を促す。:自殺企図者は、自殺の危険がすでに行動として表面化した人です。背景に、うつ病などの精神疾患を抱えていることも少なくありません。この人に精神科への受療を促すのは、背景にある精神疾患の診断と治療を早く始めるための働きかけです。したがって、早期診断・早期治療を担う二次予防に当たります。危機にある人への関わりだからといって一次予防と考えず、働きかけの目的が精神科での治療開始にある点で判断します。なお、自殺未遂歴は再企図の重要な危険因子なので、この支援には再企図を防ぐ意味もあります。自殺対策で一次予防に当たるのは、住民全体への心の健康教育や、相談窓口の周知などです。
3.統合失調症 schizophrenia 患者の社会参加のための支援を行う。:対象は、すでに統合失調症を発症している患者です。生活機能の回復、再発防止、社会復帰を目指す支援なので、三次予防に当たります。この段階の代表例は、精神科デイケア、就労支援、地域活動支援センターの利用支援などです。「社会参加」「社会復帰」「リハビリテーション」は、三次予防を示す語です。
4.ストレスとその対処法に関する知識の啓発活動を行う。:正答。まだ不調のない人を含む、住民や労働者全体に向けた健康教育です。ストレスへの気づきと対処の力を高め、精神的な不調の発生そのものを防ぐことを目的としています。カプランの定義でいえば、地域の精神障害の発生率を下げる働きかけに当たります。健康増進と発症予防を担う、一次予防の典型です。
覚えるポイント
- 一次予防は発症予防と健康増進、二次予防は早期発見・早期治療、三次予防は機能回復・再発防止・社会復帰です。
- 段階は「対象が発症前か発症後か」と「活動の目的」で判断します。集団対象か個人対象か、実施場所がどこかでは決まりません。
- キーワードで見分けます。「啓発」「健康教育」「環境改善」は一次予防です。「早期発見」「スクリーニング」「受診勧奨」は二次予防です。「リハビリテーション」「社会参加」「職場復帰」「再発予防の心理教育」は三次予防です。
- 精神保健の3段階予防は、カプラン(Caplan)の予防精神医学による整理として問われることがあります。カプランは危機介入と精神保健コンサルテーションを一次予防の方法としました。「危機介入」を二次予防の決まり文句として覚えず、対象と目的で判断します。
- 職場のメンタルヘルス対策は、未然防止(一次)、早期発見と適切な措置(二次)、職場復帰支援(三次)の3段階で整理されます。ストレスチェック制度の主な目的は一次予防です。
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