111PM029|第111回 看護師国家試験 過去問
上位運動ニューロン徴候および下位運動ニューロン徴候の有無について表に示す。 【表】 |下位運動ニューロン徴候あり|下位運動ニューロン徴候なし 上位運動ニューロン徴候あり|a|b 上位運動ニューロン徴候なし|c|d 【表ここまで】 筋萎縮性側索硬化症 amyotrophic lateral sclerosis〈ALS〉において正しいのはどれか。

解答・解説を見る
正解: 1
正答
1.a
この問題のポイント
表は、上位運動ニューロン徴候の有無と下位運動ニューロン徴候の有無を組み合わせ、4つのマスに分けたものです。筋萎縮性側索硬化症(ALS)では、大脳皮質から下行する上位運動ニューロンと、脊髄前角・脳幹から筋へ向かう下位運動ニューロンの両方が選択的に変性します。そのため、両方の徴候が「あり」のマスが答えになります。上位と下位のそれぞれが障害されたときに出る徴候を区別して覚えているかどうかが、判断の鍵です。
解説
表の上側(列)は下位運動ニューロン徴候の「あり」「なし」、左側(行)は上位運動ニューロン徴候の「あり」「なし」です。左上のaは上位も下位も「あり」、右上のbは上位だけ「あり」、左下のcは下位だけ「あり」、右下のdはどちらも「なし」を表します。
上位と下位の運動ニューロン
随意運動の指令は、2つのニューロンを順に通って骨格筋に届きます。
- 上位運動ニューロン:大脳皮質の一次運動野から始まり、内包と脳幹を下ります。延髄の錐体交叉で大部分が反対側へ移り、脊髄の側索(外側皮質脊髄路)を通って脊髄前角に至ります。脳幹の運動神経核へ向かう皮質延髄路も上位運動ニューロンです。
- 下位運動ニューロン:脊髄前角細胞や脳幹の運動神経核から始まり、前根と末梢神経、または脳神経を通って骨格筋に至ります。
上位運動ニューロンには、脊髄の反射を上から抑える働きもあります。障害されるとこの抑制が外れ、痙性麻痺(痙縮)、深部腱反射の亢進、バビンスキー徴候などの病的反射、クローヌスが現れます。筋への神経支配そのものは保たれるため、筋萎縮は目立ちません。両側の皮質延髄路が障害されると、舌の萎縮を伴わない構音障害・嚥下障害(偽性球麻痺)が起こります。このとき、下顎反射の亢進や強制泣き・強制笑いがみられることがあります。
下位運動ニューロンは反射弓の出口であり、筋を動かす最後の経路です。障害されると弛緩性麻痺、深部腱反射の低下・消失、筋萎縮、線維束性収縮(皮膚の下で筋が細かくぴくぴくと収縮する現象)が現れます。延髄の運動神経核が障害されると、舌の萎縮と線維束性収縮を伴う構音障害・嚥下障害(球麻痺)となります。
ALSで両方の徴候がそろう理由
ALSは、上位と下位の運動ニューロンが選択的に、しかも進行性に変性する疾患です。病名がそのまま病態を表しています。「側索硬化」は、脊髄側索を下る皮質脊髄路が変性して硬くなること(上位の障害)です。「筋萎縮性」は、前角細胞が失われて筋がやせること(下位の障害)です。
そのため1人の患者に両方の徴候が混在します。筋がやせて線維束性収縮があるのに腱反射はむしろ亢進し、バビンスキー徴候も陽性になります。これは1か所の病変では説明できない組合せで、ALSの特徴です。延髄の領域でも、球麻痺と偽性球麻痺が同時にみられます。診断では次の点が重視され、針筋電図で神経原性変化を確認します。
- 脳幹・頸髄・胸髄・腰仙髄のうち複数の領域に、上位と下位の徴候がみられる
- 症状が進行する
- ほかの疾患を除外できる
以上から、表では上位も下位も「あり」のaが当てはまります。
ALSは中年以降に多く発症します。手指の筋力低下や手の筋萎縮で始まる上肢型が多いですが、構音障害・嚥下障害で始まる球麻痺型や、下肢から始まる型もあります。進行すると呼吸筋が麻痺し、人工呼吸器を使わなければ数年で呼吸不全に至ることが多い疾患です。
一方で、他覚的感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡は出にくく、ALSの4大陰性徴候と呼ばれます。ただし、長い経過のなかで眼球運動が障害されることもあります。認知機能は保たれることが多いものの、一部に前頭側頭型認知症を伴う例があります。
看護への生かし方
- 苦痛の把握:感覚は保たれているのに、自分で体を動かせず、言葉でも訴えにくくなります。痛み・かゆみや、同じ姿勢が続く苦痛をこまめに確かめ、体位を整えます。
- 褥瘡予防:褥瘡はできにくいとされますが、動けなくなれば予防のケアは欠かせません。
- コミュニケーション:眼球運動が保たれやすいことを生かします。話せなくなる前から、透明文字盤や視線入力式の意思伝達装置などを準備します。
- 栄養・呼吸と意思決定:嚥下障害には食形態の調整や胃瘻による栄養を、呼吸筋麻痺には非侵襲的陽圧換気や気管切開下の人工呼吸を検討します。どの方法を選ぶかは、本人の意思を中心に、家族も交えて早いうちから繰り返し話し合って決められるよう支援します。
- 制度:ALSは難病法の指定難病で、介護保険の特定疾病でもあります。40〜64歳でも、要介護認定を受ければ介護保険サービスを使えます。訪問看護は、厚生労働大臣が定める疾病等に当たるため、医療保険から提供されます。
選択肢の確認
1.a:正答。上位運動ニューロン徴候(痙縮、腱反射亢進、病的反射)と下位運動ニューロン徴候(筋萎縮、線維束性収縮)がそろっている組合せです。ALSでは両方のニューロンが変性するため、同じ患者に両方の徴候が混在します。その結果、萎縮した筋の腱反射が亢進するという特徴的な所見になります。
2.b:上位運動ニューロン徴候だけがあり、下位運動ニューロン徴候はない組合せです。脳梗塞や脳出血による片麻痺(急性期を過ぎると痙性麻痺になります)や、上位運動ニューロンだけが変性する原発性側索硬化症が典型例です。ALSでは上位の徴候が目立つ時期があっても、筋萎縮や線維束性収縮といった下位の徴候を伴うため、この組合せには当たりません。
3.c:下位運動ニューロン徴候だけがある組合せです。脊髄前角細胞が障害される脊髄性筋萎縮症やポリオ(急性灰白髄炎)、末梢神経が障害されるギラン・バレー症候群などが当てはまり、弛緩性麻痺と腱反射の低下・消失を示します。ALSは筋萎縮が目立つため、下位だけの疾患と取り違えやすい点に注意します。萎縮した筋でも腱反射が亢進するなど、上位の徴候も併せもつことで区別できます。
4.d:上位・下位のどちらの徴候もない組合せです。運動の障害があっても、原因が運動ニューロン以外にある疾患がここに入ります。
- 重症筋無力症:神経筋接合部の障害で、易疲労性や眼瞼下垂・複視が特徴です。
- 筋ジストロフィー:筋そのものの障害(筋原性の筋萎縮)で、線維束性収縮はみられません。
- パーキンソン病:錐体外路の障害です。筋強剛は痙縮とは異なり、上位運動ニューロン徴候ではありません。
運動ニューロンそのものが変性するALSは、ここには当てはまりません。
覚えるポイント
- ALSは、上位運動ニューロン(大脳皮質運動野〜皮質脊髄路)と下位運動ニューロン(脊髄前角細胞・脳幹の運動神経核)の両方が変性する疾患です。「側索硬化」が上位、「筋萎縮性」が下位の障害を表します。
- 上位運動ニューロン徴候は、痙性麻痺、腱反射亢進、バビンスキー徴候などの病的反射、クローヌス、偽性球麻痺です。筋萎縮は目立ちません。
- 下位運動ニューロン徴候は、弛緩性麻痺、腱反射の低下・消失、筋萎縮、線維束性収縮、球麻痺(舌の萎縮)です。
- ALSの4大陰性徴候は、他覚的感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡です。眼球運動が残ることは、文字盤などを使うコミュニケーション支援に直結します。
- 障害部位ごとの代表的な疾患は次のとおりです。上位のみは脳血管障害・原発性側索硬化症、下位のみは脊髄性筋萎縮症・ポリオ・ギラン・バレー症候群です。運動ニューロン以外の障害には、重症筋無力症・筋ジストロフィー・パーキンソン病があります。
- 主な死因は、呼吸筋麻痺による呼吸不全です。嚥下・呼吸・コミュニケーションの支援と、人工呼吸器を着けるかどうかの意思決定支援を早めに始めます。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する([email protected])までお知らせください。確認して修正します。