112PM045|第112回 看護師国家試験 過去問
Aさん(58歳)は筋萎縮性側索硬化症 amyotrophic lateral sclerosis 〈ALS〉で在宅療養をしている。嚥下機能の低下が進行したため入院し、胃瘻の造設が検討されているが、経口摂取の継続を希望している。看護師が連携する職種で優先度が高いのはどれか。
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正解: 1
正答
1.言語聴覚士
この問題のポイント
嚥下機能が低下したALS患者が経口摂取の継続を望んでいる場面で、その希望に最も直接かかわる専門職を選ぶ問題です。手がかりは「嚥下機能の低下が進行」と「経口摂取の継続を希望」の2点です。摂食嚥下機能の評価と訓練を担うのが言語聴覚士であると知っていれば判断できます。あわせて、リハビリテーション職種と介護支援専門員の役割の違いを整理しておくことが大切です。
解説
Aさんは在宅療養中のALS患者で、嚥下機能の低下が進んだため入院しています。医療者は栄養を確保する手段として胃瘻造設を検討していますが、本人は口から食べ続けたいと望んでいます。いま解決すべき課題は「進行する嚥下障害のもとで、どうすれば安全に経口摂取を続けられるか」です。この課題に最も専門的に答えられる職種が、優先して連携する相手になります。
ALSと嚥下障害
ALSは、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンがともに変性する進行性の神経変性疾患です。延髄の運動神経核が障害されると球麻痺が起こり、舌の萎縮や線維束性収縮、構音障害、嚥下障害が現れます。咀嚼や食塊の送り込み(準備期・口腔期)と、嚥下反射や喉頭挙上(咽頭期)が障害されるため、とくに水分のように流れの速いものでむせやすくなります。その結果、誤嚥性肺炎、窒息、低栄養、脱水の危険が高まります。一方で、感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡は起こりにくく、「陰性4徴候」として知られています。
胃瘻と経口摂取は両立できる
胃瘻は、必要な栄養・水分・薬を確実に入れるための手段です。造設したら口から食べてはいけない、というものではありません。主な栄養は胃瘻で確保しながら、安全な範囲で好きなものを味わう「楽しみとしての経口摂取」を続けることができます。
また、ALSでは呼吸筋の筋力低下も進みます。胃瘻造設は呼吸機能が大きく低下する前に行うほうが安全とされるため、嚥下障害が進んだ段階で早めに検討されます。本人の「食べたい」という希望と胃瘻による栄養確保は対立するものではなく、両立の道を探ることが支援の方向性です。
言語聴覚士が優先される理由
言語聴覚士は、音声・言語・聴覚の障害に対して訓練や検査を行う国家資格です。言語聴覚士法により、医師または歯科医師の指示の下で嚥下訓練を行うことが認められています。具体的には次のように関わります。
- 反復唾液嚥下テスト(30秒間の空嚥下が3回未満で嚥下障害を疑う)や改訂水飲みテストでスクリーニングを行う。
- 嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)に加わり、どの段階にどの程度の障害があるかを評価する。
- とろみの濃さ、食形態、一口量、摂取ペース、姿勢(頸部前屈など)、交互嚥下など、安全に食べるための条件を具体的に設定する。
- 食物を使わない間接訓練と、食物を使う直接訓練を組み立てる。
- 構音障害の進行に備えて、コミュニケーション手段の検討にも関わる。
ALSは進行性で、機能の回復は見込めません。そのため、疲労を招くような負荷の強い訓練は避けます。食べ方の工夫で安全を確保する代償的な方法を中心にし、進行に合わせて繰り返し再評価することが重要です。
看護師の役割と他職種との関係
看護師は、言語聴覚士の評価に基づく食事方法を毎日の食事場面で確実に実施します。むせ、湿性嗄声、食事時間の延長、摂取量や体重の減少、発熱や痰の増加など、誤嚥や低栄養の徴候を観察して多職種に伝えます。食前後の口腔ケアや、食後しばらく座位を保つことも誤嚥性肺炎の予防に欠かせません。
あわせて、Aさんが十分な情報のもとで胃瘻造設を選べるよう、説明の場を整えて意思決定を支えます。その際、「胃瘻を造っても食べられる範囲がある」ことも伝えます。
理学療法士、作業療法士、介護支援専門員もALSの療養に欠かせない職種です。しかし今回の場面で、本人の希望と安全の両方に直接こたえるのは嚥下の専門職です。
選択肢の確認
1.言語聴覚士:正答。摂食嚥下機能の評価と嚥下訓練を専門とする職種で、法律上も医師・歯科医師の指示の下で嚥下訓練を行えると定められています。嚥下障害が進むなかで経口摂取を続けたいというAさんの希望に対し、安全に食べられる食形態・姿勢・一口量を見きわめ、病状の進行に応じて再評価できます。そのため、最も優先して連携する職種です。
2.作業療法士:主に担うのは、食事・更衣・整容などの応用的動作や日常生活活動の維持と、自助具・福祉用具の選定です。ALSでは上肢の筋力低下に対し、自助具や食事姿勢の工夫で「自分で食べる動作」を支え、意思伝達装置の導入に関わることもあります。ただし、嚥下そのものの評価と訓練が中心の職種ではないため、この場面での優先度は選択肢1より低くなります。食事動作の自立が課題であれば、優先度は上がります。
3.理学療法士:起き上がり・立ち上がり・歩行などの基本的動作能力を、運動療法や物理療法で維持・回復させる職種です。ALSでは、関節可動域の維持、呼吸理学療法による排痰や胸郭の柔軟性の維持、移動手段の検討などで重要な役割を担います。呼吸機能の低下や拘縮予防が課題なら優先度が上がりますが、経口摂取の継続という今回の課題に直接こたえる職種ではありません。
4.介護支援専門員:ケアマネジャーは、介護保険サービスの利用者についてケアプランを作成し、事業者との連絡調整を行う職種です。ALSは介護保険の特定疾病に含まれるため、58歳のAさんも第2号被保険者として要介護(要支援)認定を受ければサービスを利用できます。退院に向けて訪問介護や福祉用具などを調整する段階では重要な連携相手です。しかし入院中の今、嚥下機能を評価して食べ方を決める役割はもっていません。
覚えるポイント
- 嚥下の評価と訓練の中心は言語聴覚士です。言語聴覚士法で、医師または歯科医師の指示の下での嚥下訓練が認められています。
- 職種の役割を区別します。理学療法士は基本的動作(起居・移動)と呼吸理学療法、作業療法士は応用的動作・ADL・自助具、介護支援専門員はケアプラン作成とサービス調整です。
- ALSは上位・下位運動ニューロンの変性で、球麻痺による構音障害・嚥下障害と呼吸筋麻痺が問題になります。感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡は起こりにくいとされます(陰性4徴候)。
- 胃瘻を造設しても、安全な範囲での「楽しみとしての経口摂取」は続けられます。胃瘻造設は呼吸機能が保たれているうちに検討します。
- ALSは指定難病であり、介護保険の特定疾病でもあります。40〜64歳でも第2号被保険者として介護保険を利用できます。
- 「優先度が高い職種」を問われたら、問題文の中で本人が困っていること・望んでいることに最も直接こたえる専門職を選びます。
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