111PM072|第111回 看護師国家試験 過去問
Aさん(76歳、女性)は1人暮らし。脳血管疾患 cerebrovascular disease で右半身麻痺があり、障害高齢者の日常生活自立度判定基準は B-2 である。週に2回の訪問看護を利用している。食事の準備と介助および食後の口腔ケアのため訪問介護を利用することになった。訪問介護の担当者は、Aさんのケアについて訪問看護師に助言を求めた。訪問看護師が訪問介護の担当者に助言する内容で正しいのはどれか。
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正解: 2
正答
2.野菜は繊維に対し垂直に切って調理する。
この問題のポイント
右片麻痺のある1人暮らしの高齢者について、訪問介護員が担う食事の準備・介助と食後の口腔ケアに関して、訪問看護師がどんな助言をするかを問う問題です。判断の鍵は次の4点です。
- 頸部回旋はどちら向きに行うか
- 咀嚼しやすくする調理の工夫
- 歯肉出血があるときの口腔ケアの考え方
- 食事に集中できる環境
頸部回旋の向きは逆に覚えやすいので、咽頭のどちら側を食塊が通るのかという機序から理解しておきます。
解説
事例の整理
- Aさんは76歳の女性で、1人暮らしです。脳血管疾患の後遺症で右半身麻痺があります。
- 障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)のランクBは「屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが、座位を保つ」状態です。そのうちB-2は「介助により車いすに移乗する」段階です。座位は保てるので、食事は座位でとれます。ただし、移乗や身の回りのことには介助が必要です。
- 訪問看護は週2回です。新たに訪問介護が入り、食事の準備と介助、食後の口腔ケアを担当します。訪問看護師は医療的な視点から、介護職が毎日のケアで安全に実践できる具体的な方法を伝える役割を担います。
片麻痺のある人の摂食・嚥下で起こりやすいこと
脳血管疾患による片麻痺では、麻痺側の顔面・口唇・頬・舌の筋力が低下しやすくなります。その結果、次のような問題が起こります。
- 麻痺側の口角から食べこぼしやすくなります。
- 麻痺側の頬と歯ぐきの間に食物が残りやすく、本人は気づきにくいです。
- 咀嚼が不十分になり、食塊をまとめて咽頭へ送り込む力が弱くなります。
- 咽頭にも麻痺が及ぶと、麻痺側の梨状窩に食物が残り、嚥下後に誤嚥しやすくなります。
右片麻痺は左大脳半球の障害で起こり、失語症を伴うことがあります。そのため、むせや違和感を言葉で伝えにくい場合もあり、介助者の観察がいっそう重要になります。
これらをふまえた要点は3つです。
- 食事の準備では、噛みやすくまとまりやすい食形態にします。
- 介助では、姿勢・一口量・ペースに気をつけます。
- 食後は、口腔内の残渣を除去し、口腔ケアを行います。
繊維を断つ切り方の意味
野菜を繊維に沿って切ると、長い繊維がそのまま残ります。そのため噛み切りにくく、口の中でばらけて食塊にまとまりにくくなります。繊維に対して垂直に切ると繊維が短く断ち切られ、弱い咀嚼力でも噛み切れるようになり、加熱したときにも軟らかくなりやすくなります。
これは咀嚼力が低下した高齢者や片麻痺の人に適した調理の工夫で、介護職がその日から実践できる具体的な助言です。次の工夫も同じ目的で行います。
- 十分に加熱して軟らかくする。
- パサつく食品にはとろみのあんをかけてまとまりをよくする。
頸部回旋(横向き嚥下)の向き
頸部を一方に回旋すると、回旋した側の咽頭腔(梨状窩)が狭くなり、反対側が広がります。そのため食塊は、回旋していない側を通りやすくなります。
片麻痺で咽頭の片側の機能が低下している場合、食塊を通したいのは機能が保たれた健側です。したがって、頸部は麻痺側(患側)に回旋させます。健側に回旋させると、食塊をかえって麻痺側へ導いてしまいます。なお、横向き嚥下は、嚥下機能の評価をもとに専門職が適応を判断して指導する方法です。
口腔ケア・食事環境と連携
脳血管疾患後の高齢者は、嚥下反射や咳反射が低下しているため、むせのない不顕性誤嚥を起こしやすくなります。このとき口腔内の細菌が誤嚥性肺炎の原因になるので、食後の口腔ケアは肺炎予防の要です。また、食事中に注意を食事へ向けられる環境を整えることも、誤嚥予防の基本です。
介護職が行う日常的な口腔内の清掃は、2005年(平成17年)の厚生労働省医政局長通知で、原則として医行為に当たらないものとして整理されています。この通知の対象は「重度の歯周病等がない場合の日常的な刷掃・清拭」です。訪問看護師は、具体的なケアの方法とあわせて、「どのような変化があれば看護師へ報告するか」をはっきり伝えることが大切です。
選択肢の確認
1.健側に頸部を回旋させ食事の介助をする。:頸部を回旋すると、回旋した側の咽頭が狭まり、食塊は反対側を通ります。健側に回旋させると食塊は麻痺側へ流れ、梨状窩への残留や誤嚥の危険が高まります。正しくは麻痺側(患側)に回旋させます。混同しやすいのは「介助者は健側から介助し、食物は健側の口に入れる」という原則です。頸部回旋の向き(患側)と、食物を入れる側(健側)を区別して覚えます。
2.野菜は繊維に対し垂直に切って調理する。:正答。繊維を短く断ち切ることで噛み切りやすく軟らかくなり、少ない咀嚼で食塊にまとまりやすくなります。咀嚼力が低下した片麻痺の高齢者に適しており、食事の準備を担う訪問介護員にそのまま伝えられる具体的な工夫です。
3.歯肉出血がみられたら口腔ケアは中止する。:歯肉出血の多くは、歯垢(プラーク)による歯肉の炎症が原因です。口腔ケアを中止すると歯垢がさらにたまり、炎症と出血が悪化します。口腔内の細菌も増え、誤嚥性肺炎の危険が高まります。軟らかい歯ブラシやスポンジブラシを使い、力を弱めて愛護的に続けるのが原則です。脳血管疾患後は抗血小板薬や抗凝固薬を服用していることがあります。出血が止まりにくい、量が多い、腫れや痛みを伴うといった場合は、訪問看護師に報告して歯科受診につなげるよう伝えます。
4.食事中はAさんの好きなテレビ番組を見せる。:テレビに注意が向くと、咀嚼や嚥下への集中が途切れます。その結果、飲み込むタイミングがずれたり、笑ったり話したりした拍子に誤嚥したりしやすくなります。食事中はテレビを消し、食事に集中できる落ち着いた環境を整えます。好きな番組を楽しむことは生活の質のうえで大切なので、食事の前後に楽しめるよう工夫します。
覚えるポイント
- 頸部回旋は麻痺側(患側)へ行います。回旋した側の咽頭が狭まり、食塊は反対側(健側)を通ります。
- 片麻痺の食事介助の基本は次のとおりです。座位で頸部を軽く前屈し、介助者は健側から、食物は健側の口に入れます。一口量は少なめにし、麻痺側の頬の内側に残渣がないか確認します。食後はしばらく座位を保ちます。
- 調理の工夫は、繊維に垂直に切る、小さく切る、軟らかく加熱する、とろみでまとめる、の4つです。
- 歯肉出血があっても口腔ケアは中止しません。軟らかい用具で愛護的に続け、止まりにくい出血は報告して歯科につなげます。
- 食事中はテレビなど注意をそらすものを避け、食事に集中できる環境にします。
- 障害高齢者の日常生活自立度は、J(生活自立)、A(準寝たきり)、B(日中ベッド上が主体だが座位は保てる)、C(終日ベッド上)の4ランクです。B-1は自力で車いすに移乗でき、B-2は移乗に介助が必要です。
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