112AM071|第112回 看護師国家試験 過去問
Aさん(70歳、男性、要介護1)は脳梗塞 cerebral infarction の後遺症で左不全麻痺がある。家屋内は杖を使用して移動が可能である。Aさんから「入浴が不安なので安全な方法を教えてほしい」と訪問看護師に相談があった。Aさんへの助言で適切なのはどれか。
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正解: 4
正答
4.浴槽から出るときは入浴台〈バスボード〉を使う。
この問題のポイント
左不全麻痺があり、屋内を杖で移動しているAさんが、浴室で転倒せずに入浴する方法を助言する問題です。まず「左が麻痺側(患側)、右が健側」と整理します。次に、浴室は床が濡れて滑りやすく、浴槽の縁をまたぐ動作もあるため転倒しやすい場所だと押さえます。そのうえで「健側で支える」「立ったままの不安定な動作を座ってできる形に置き換える」という片麻痺の動作援助の原則から判断します。
解説
事例の整理
- 70歳男性、要介護1です。脳梗塞の後遺症で左不全麻痺があります。不全麻痺は完全な麻痺ではありませんが、左上下肢の筋力は低下しており、感覚障害を伴うこともあります。体重を預けてよいのは右上下肢です。
- 家屋内は杖で移動できます。立位バランスに不安はあるものの、支えがあれば移動できる状態です。杖は健側の右手で持っています。
- 本人が入浴に不安を感じて相談しています。自分で入浴する力を生かしつつ、安全を確保する具体的な方法を伝える場面です。
浴室に重なる危険
浴室には、転倒や意識消失につながる要因がいくつも重なります。
- 床や浴槽の底が水や石けんで滑りやすい
- 裸のため、転倒したときに衣服が体を保護しない
- 浴槽の縁をまたぐとき、片脚立ちになる
- 温まると血管が拡張し、立ち上がったときに血圧が下がりやすい(起立性低血圧)
- 脱衣所との温度差で血圧が大きく変動する(ヒートショック)
浴槽から出る動作がとくに危険な理由
浴槽の中では浮力が体重を軽くしています。出るときはその浮力を失いながら、深く曲げた膝を伸ばして浴槽の底から立ち上がらなければなりません。しかも温まった直後で血圧が下がりやすく、体も濡れて滑りやすい状態です。片麻痺があると患側の脚で踏ん張れないため、立ったまま縁をまたぐと、どちらの脚で片脚立ちになっても不安定です。
入浴台(バスボード)の役割
入浴台は、浴槽の縁に渡して置く板状の台です。腰かけたまま浴槽に出入りするための福祉用具です。
浴槽から出るときの手順は次のとおりです。
- 右手で手すりをつかみ、浮力も利用して浴槽の底から入浴台へ腰を移す
- 座ったまま脚を片方ずつ浴槽の外へ出す
- 体の向きを変えてから立ち上がる
こうすると、立ったまま縁をまたぐ動作と片脚立ちの時間がなくなり、転倒の危険が大きく減ります。
入るときも入浴台に腰かけて行います。健側の右脚から浴槽に入れ、左脚は手で支えて入れます。浴槽の底から入浴台まで立ち上がるのが難しい場合は、浴槽内いすを併用して座面を高くする方法もあります。
片麻痺のある人の入浴援助の原則
- 支えは健側:手すりは右手で持ちます。麻痺側の手は筋力・握力・感覚が不十分で、体重を預けられません。
- 温度確認も健側:麻痺側は温度感覚が低下していることがあり、熱傷の危険があります。湯温は健側の手で確かめます。
- 立位の動作を座位に置き換える:洗体はシャワーチェアーに座って行い、浴槽の出入りは入浴台に座って行います。
- 浴室内の移動は杖ではなく手すり:壁に取り付けた手すりを健側の手でつかんで伝い歩きします。
- 環境と循環への配慮:滑り止めマットや段差解消で環境を整えます。脱衣所を暖め、ぬるめの湯(38〜40℃程度)で長湯を避け、ゆっくり立ち上がるよう伝えます。家族がいる時間帯に入浴すると、万一のときも安心です。
在宅支援につなげる
要介護1のAさんは介護保険の給付を利用できます。
- 入浴台やシャワーチェアーなどの入浴補助用具は、特定福祉用具販売(購入費の支給)の対象です。
- 浴室への手すりの取り付け、段差の解消、滑りにくい床材への変更は、住宅改修の対象です。
訪問看護師は、実際の浴室でAさんの動作を確認します。そのうえでケアマネジャーや理学療法士・作業療法士と連携し、本人が安心して自立した入浴を続けられる方法を提案します。
選択肢の確認
1.手すりは左手で持つ。:左手は麻痺側で、筋力や握力が低下しているうえ感覚障害を伴うこともあります。体重を預けたり体を引き寄せたりする役割を任せられず、濡れた手が滑れば体を支えきれずに転倒します。手すりは力の入る健側の右手で持つのが原則で、杖を健側の手で持つのと同じ考え方です。したがって不適切な助言です。
2.左足から浴槽に入る。:左足は麻痺側で、温度感覚が低下していると熱い湯に入れても気づかず、熱傷を起こすおそれがあります。また、先に入れた足は浴槽の底で最初に体重を受けます。滑りやすい底で患側の足から踏ん張ろうとすると、体が崩れやすくなります。浴槽へは入浴台に腰かけて健側の右足から入れ、湯温を確かめたうえで、左足は手で支えて入れるのが安全です。したがって不適切です。
3.浴室内を杖で移動する。:浴室の床は水や石けんで濡れているため、杖先のゴムが滑り、杖ごと体が崩れる危険があります。杖を健側の右手で持つと、その手で手すりをつかめなくなる点も問題です。乾いた床での杖歩行とは条件が違います。浴室内では壁の手すりを右手で伝って移動し、洗体はシャワーチェアーに座って行うよう助言するのが適切です。
4.浴槽から出るときは入浴台〈バスボード〉を使う。:正答。浴槽から出る動作は、浮力を失いながら浴槽の底から立ち上がり、縁をまたがなければなりません。入浴で血圧が下がりやすいことも重なり、入浴動作の中でもとくに転倒の危険が高い場面です。入浴台に腰かけてから座ったまま脚を外へ出せば、片脚立ちでのまたぎ動作がなくなり、安定した座位のまま出られます。本人の力を生かしながら安全を確保できる、適切な助言です。
覚えるポイント
- 片麻痺の動作援助は「健側で支え、患側を保護する」が基本です。手すりや杖は健側の手で持ちます。
- 浴槽の出入りは入浴台などを使って座って行います。入るときは健側の足から入れ、湯温は健側で確かめます(患側は感覚障害で熱傷の危険があるため)。
- 浴槽から出るときと浴室内の移動は、転倒の危険がとくに高い場面です。浴室内は杖ではなく手すりで移動し、洗体はシャワーチェアーに座って行います。
- 入浴では循環が変動します。脱衣所を暖め、ぬるめの湯で長湯を避け、ゆっくり立ち上がります(起立性低血圧・ヒートショックの予防)。
- 関連する原則として、衣服の着脱は「脱健着患」、3動作の杖歩行は「杖→患側→健側」、階段は「上りは健側から、下りは患側から」です。
- 介護保険では、入浴台・シャワーチェアーは特定福祉用具販売、手すりの取り付け・段差解消は住宅改修の対象です。
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