112PM054|第112回 看護師国家試験 過去問
Aさん(80歳、女性)は脳梗塞 cerebral infarction の後遺症のため要介護5と認定され、治療を終えて退院することになった。Aさんの息子の妻が「義母が退院したら同居して、私が初めて介護することになります」と不安そうに看護師に話しかけてきた。このときの看護師の対応で適切なのはどれか。
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正解: 4
正答
4.「介護についてどのような思いがありますか」
この問題のポイント
初めて在宅介護を担う家族が不安を訴えた場面で、看護師が最初にとるべきコミュニケーションを問う問題です。手がかりは「初めて介護する」「不安そうに話しかけてきた」という記述です。支援を始める前に、まず家族の思いや不安の中身を開かれた質問で引き出し、受け止めることが求められます。安易な励ましや保証、介護役割の押しつけが非治療的なかかわりであることも押さえておきましょう。
解説
問題文の手がかりを整理する
- Aさんは80歳で、脳梗塞の後遺症により要介護5です。要介護5は要介護認定の7区分(要支援1・2、要介護1〜5)で最も重い区分です。食事・排泄・移動・清潔など、日常生活のほぼすべてに介助が必要な状態が想定されます。
- 介護を担うのは息子の妻です。これから同居を始める予定で、介護の経験はありません。
- 息子の妻は「不安そうに」自分から看護師に話しかけています。これは支援を求めるサインであり、看護師は気持ちを受け止める機会ととらえます。
家族介護者への支援は「思いを知る」ことから始まる
家族が抱く不安の中身は人によって大きく異なります。次のようなものが考えられます。
- おむつ交換や移乗などの介護技術がわからない
- 急変時にどう対応すればよいかわからない
- 仕事・子育て・自分の体力と両立できるか心配
- 経済的な負担
- 義母との関係や、夫など他の家族が協力してくれるか
- 介護を引き受けること自体へのためらい
何が不安なのかがわからないまま助言や励ましをしても、的外れになったり、かえって本人を追いつめたりします。
そこで有効なのが、答えを「はい・いいえ」に限定しない開かれた質問です。相手が自分の言葉で自由に語れるため、不安の内容、介護に対する考え方、家族内での役割の受け止め方、在宅介護への意向を把握できます。語ることは感情の表出にもなり、「気持ちを聴いてもらえた」という安心感や信頼関係の形成につながります。
聴いたあとにつなげる支援
思いを把握したら、それに応じて具体的な支援を組み立てます。
- 介護技術の指導:退院前に、体位変換、移乗、おむつ交換、食事介助、口腔ケア、褥瘡予防などを実際に練習してもらいます。
- 社会資源の活用:介護支援専門員(ケアマネジャー)がケアプランを作成し、訪問看護・訪問介護、通所介護、短期入所生活介護、福祉用具貸与などの介護保険サービスにつなげます。通所や短期入所は、介護者の休息(レスパイトケア)にもなります。
- 多職種連携:退院前カンファレンスで、家族・病院スタッフ・介護支援専門員・訪問看護師などが情報を共有します。
- 家族内の調整:主な介護者一人に負担が集中しないよう、夫を含めた家族で役割分担を話し合います。
- 相談窓口:退院後に困ったときの相談先として、地域包括支援センターなどを伝えます。
「子の配偶者」が介護者になるときの配慮
息子の妻は、Aさんから見ると血縁のない姻族です。民法上も、子の配偶者は原則として当然に扶養義務を負う立場にはありません(家庭裁判所が特別の事情を認めた場合を除きます)。介護を担うかどうか、どこまで担えるかは、本人の意向と生活状況によって決まります。看護師は「家族が介護するのが当然」という前提に立たず、本人の意思を尊重して支援します。
参考までに、国民生活基礎調査(2019年)では次の傾向がみられます。
- 主な介護者の約半数は同居の家族です。
- 同居の主な介護者の続柄は、配偶者、子、子の配偶者の順に多く、子の配偶者の割合は長期的に低下しています。
- 同居の主な介護者は女性が多く、介護者自身の高齢化(老老介護)も進んでいます。
正答の判断
選択肢4は開かれた質問で、息子の妻に自分の思いを語ってもらうかかわりです。一方、選択肢1〜3は、いずれも看護師側の価値観や見通しを一方的に伝える言葉です。不安の中身を確かめる前に結論を示してしまっています。したがって、選択肢4が適切です。
選択肢の確認
1.「介護は楽しいですよ」:介護を楽しいと感じるかどうかは人それぞれで、この言葉は看護師の価値観の押しつけになります。不安を抱えている相手には「不安に思う自分がおかしいのか」と受け取られ、気持ちを否定されたと感じさせるおそれがあります。また、要介護5の介護は身体的・精神的な負担が大きく、現実とかけ離れた印象を与える点でも適しません。介護のやりがいに触れることは、実際に介護を続けている家族が前向きな気持ちを語ったときに共感として返すのであれば意味があります。しかし、不安を訴えた最初の場面での対応ではありません。
2.「介護にはすぐに慣れますよ」:根拠のない保証であり、非治療的なコミュニケーションの代表例です。要介護5では介護の内容が多く、慣れるまでに時間がかかることも少なくありません。慣れなかった場合に「自分だけができない」と自責感を強めたり、相談しにくくなったりするおそれがあります。不安の内容を確かめないまま会話を終わらせてしまう点でも、適切ではありません。
3.「家族で介護できるよう頑張りましょう」:家族が在宅で介護することを前提に、さらなる努力を求める励ましになっています。すでに不安を抱えている相手に頑張ることを求めると、負担感が強まります。また、介護を引き受けるかどうかという本人の意向を確かめないまま、役割を押しつけることにもなります。介護は家族だけで抱え込まず、介護保険サービスなどの社会資源で負担を分散させる視点が重要です。家族が介護の意向をはっきり示し、支援体制も整った段階で、ともに取り組む姿勢を伝える場面なら励ましが支えになることもあります。しかし、この時点では適しません。
4.「介護についてどのような思いがありますか」:正答。開かれた質問によって、息子の妻が感じている不安や介護への考え方を、本人の言葉で語ってもらうことができます。不安の中身(技術面、生活との両立、家族関係、介護を担うことへの思いなど)を把握して初めて、介護技術の指導や介護保険サービスの調整など、その人に合った支援を計画できます。気持ちを受け止めてもらえたという体験そのものが、不安の軽減と看護師との信頼関係づくりにつながります。
覚えるポイント
- 不安を訴える患者・家族には、助言や励ましより先に、開かれた質問で思いや不安の中身を聴き、受け止めます(傾聴・受容)。
- 「すぐに慣れます」「大丈夫ですよ」などの根拠のない保証、「頑張りましょう」という安易な励まし、看護師の価値観の押しつけは、非治療的コミュニケーションとして選択肢から外します。
- 開かれた質問は思いや考えを引き出すときに使います。閉じた質問は、事実を確認したいときや相手の負担を減らしたいときに使い分けます。
- 家族介護者の支援では、介護技術の指導、介護支援専門員との連携、訪問・通所・短期入所などのサービス活用(レスパイトケアを含む)、家族内の役割分担の調整を組み合わせます。
- 介護を担うかどうかは家族の意向と生活状況をふまえて決まるものです。「家族が介護するのが当然」という前提で話を進めません。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。 情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。 本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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