112AM078|第112回 看護師国家試験 過去問
インスリンを過剰に投与したときに現れる症候で正しいのはどれか。
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正解: 5
正答
5.手足のふるえ
この問題のポイント
インスリンを過剰に投与すると何が起こり、その状態でどんな症候が現れるかを問う問題です。手がかりは「過剰に投与」という言葉です。血糖を下げるホルモンであるインスリンが多すぎれば低血糖になり、その初期には交感神経刺激症状として手足のふるえが現れます。口渇感は高血糖の症状であることと、低血糖では顔色が紅潮ではなく蒼白になることが、他の選択肢を見分ける鍵です。
解説
インスリンの作用と過剰投与
インスリンは膵臓ランゲルハンス島のβ細胞から分泌されます。体内で血糖値を下げる働きをもつ唯一のホルモンです。主な作用は次の3つです。
- 骨格筋や脂肪組織への糖の取り込みを促す
- 肝臓や筋肉でのグリコーゲン合成を進める
- 肝臓での糖新生とグリコーゲン分解を抑える
そのため、必要量を超えて投与すると血糖値が下がりすぎて低血糖になります。臨床では、単位の読み違えや二重投与といった投与量の誤りで起こります。投与量が正しくても、次のような状況ではインスリンが相対的に過剰になり、低血糖が起こります。
- 注射した後に食事がとれなかった
- いつもより運動量が多かった
- 飲酒した
- 腎機能の低下でインスリンの作用が長引いた
低血糖の症状の現れ方
一般に、血糖値70 mg/dL未満が低血糖の目安です。症状は、血糖値の低下の程度に応じて段階的に現れます。
- 交感神経刺激症状:血糖が下がると、それを戻そうとしてグルカゴンなどのインスリン拮抗ホルモンが分泌されます。同時に交感神経系が強く興奮し、副腎髄質からアドレナリンが放出されます。その結果、手指や手足のふるえ(振戦)、動悸、頻脈、発汗(冷汗)、顔面蒼白、不安感が現れます。
- 中枢神経症状:さらに血糖が下がると(おおむね50 mg/dL前後)、ブドウ糖を主なエネルギー源とする脳の働きが落ちます。頭痛、目のかすみ、眠気(生あくび)、集中力の低下が現れます。
- 重症:さらに下がると、異常行動、けいれん、意識障害を経て昏睡に至り、放置すれば生命にかかわります。
交感神経刺激症状は、症状によって起こる仕組みが少しずつ異なります。
- ふるえ、動悸、頻脈、不安感:主にアドレナリンなどカテコールアミンの作用で起こります。
- 顔面蒼白:カテコールアミンがα受容体を介して皮膚の血管を収縮させるために起こります。
- 発汗:これも交感神経の興奮で起こりますが、汗腺を支配する交感神経の節後線維は、例外的にノルアドレナリンではなくアセチルコリンを放出します。皮膚の血管が収縮した状態で汗が出るため、冷たくじっとりとした汗(冷汗)になります。
いずれも交感神経系の反応なので、まとめて交感神経刺激症状と呼びます。
強い空腹感も、低血糖でよくみられる症状です。手足のふるえは早い段階で現れるため、本人が低血糖に気づいて糖を補うための「警告症状」として重要です。
見逃しやすい低血糖
次のような人では、典型的な症状が出にくいことがあります。
- 糖尿病の罹病期間が長く自律神経障害がある人や、低血糖を繰り返している人:交感神経刺激症状が出ないまま、突然意識障害に至ることがあります(無自覚性低血糖)。
- β遮断薬を服用している人:動悸・頻脈・ふるえが目立ちにくくなります。発汗はアセチルコリンを介して起こるためβ遮断薬では抑えられず、比較的残ります。
- 高齢者:ふらつき、言動の変化、せん妄のような形で現れ、認知症の悪化や脳卒中と取り違えられることがあります。
- 睡眠中:寝汗、悪夢、起床時の頭痛が手がかりになります。
低血糖への対応
症状があれば、すぐに血糖を測定します。測定できない状況で低血糖が疑われる場合は、低血糖として対処します。
- 意識があり、口から摂取できる場合:ブドウ糖10 g、またはブドウ糖を含む清涼飲料水150〜200 mL程度を摂取してもらいます。砂糖なら20 g程度です。α-グルコシダーゼ阻害薬を服用中の人は砂糖では吸収が遅れるため、必ずブドウ糖を使います。約15分後に血糖を再測定し、改善がなければ繰り返します。
- 意識障害があり、口から摂取できない場合:誤嚥の危険があるので、口からは与えません。ブドウ糖の静脈内注射、またはグルカゴン(注射製剤や点鼻製剤)を投与します。
- 回復した後:持効型インスリンやスルホニル尿素薬が原因の場合は、再び低血糖になることがあります。そのため、回復後も観察を続けます。
高血糖との区別
高血糖では、尿糖による浸透圧利尿で多尿となり、脱水から口渇・多飲が起こります。さらに、体重減少や倦怠感もみられます。低血糖と高血糖の症状を対にして覚えておくと、この種の問題に対応しやすくなります。
選択肢の確認
1.発熱:発熱は、感染症や炎症で体温調節の設定値が上がって起こるもので、インスリン過剰による低血糖の症候ではありません。糖尿病の人が発熱を伴う感染症にかかると、インスリン拮抗ホルモンが増えるため、血糖はむしろ上がりやすくなります(シックデイ)。低血糖でみられる皮膚の所見は、熱感ではなく冷汗です。
2.浮腫:低血糖の急性症候として浮腫が現れることはありません。インスリン治療の開始時や血糖が急速に改善したときには、腎臓でのナトリウム再吸収が増えて、一過性の浮腫(インスリン浮腫)を生じることがあります。しかし、これは投与量が過剰であることを示す症候ではありません。浮腫を起こしやすい糖尿病治療薬としては、チアゾリジン薬(ピオグリタゾン)が知られています。
3.口渇感:口渇感は高血糖で現れる症状です。尿糖による浸透圧利尿で多尿となり、脱水によって口渇・多飲が起こります。これはインスリンが足りない状態のサインで、過剰投与とは逆の状況です。低血糖で起こるのは口渇感ではなく空腹感なので、取り違えないようにします。
4.顔面紅潮:低血糖では、アドレナリンなどカテコールアミンがα受容体を介して皮膚の血管を収縮させるため、顔面は紅潮ではなく蒼白になります。顔が赤くなるのは皮膚の血管が拡張したときです。発熱時や飲酒時、カルシウム拮抗薬など血管拡張作用のある薬剤の使用時にみられます。「顔色の変化」という点だけで選ばないよう注意します。
5.手足のふるえ:正答。低血糖に反応して分泌されるアドレナリンなど、カテコールアミンの作用で起こる交感神経刺激症状です。動悸・頻脈・冷汗・顔面蒼白とともに現れる代表的な初期症状で、本人が低血糖に気づいて対処するための警告症状でもあります。
覚えるポイント
- インスリンの過剰投与では、低血糖(目安は70 mg/dL未満)になります。投与量の誤りのほか、食事量の不足、運動、飲酒、腎機能低下でも相対的な過剰が起こります。
- 低血糖の初期症状は交感神経刺激症状で、手足のふるえ、動悸・頻脈、冷汗、顔面蒼白、不安感です。進むと頭痛、眠気(生あくび)が現れ、さらに異常行動、けいれん、意識障害に至ります。
- 口渇・多飲・多尿は高血糖の症状です。低血糖では空腹感が出て、顔色は蒼白になります。
- 無自覚性低血糖(罹病期間が長い人、低血糖を繰り返す人)や高齢者では、典型的な症状が出にくくなります。β遮断薬の服用中は動悸・頻脈・ふるえが目立たなくなりますが、発汗はアセチルコリンを介するため残りやすいです。
- 意識があれば、ブドウ糖10 gなどを経口で与え、約15分後に再測定します。α-グルコシダーゼ阻害薬を服用中の人には、砂糖ではなくブドウ糖を使います。意識がなければ経口では与えず、ブドウ糖の静脈内注射またはグルカゴンを投与します。
- インスリンはカリウムを細胞内へ移動させるため、過剰投与では低カリウム血症にも注意します。
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