第105回
105AM013|第105回 助産師国家試験 過去問
産褥20日の褥婦。「子どもが右側の乳頭ばかりを吸うので、左側の乳汁分泌が悪くなった」と話す。関係するメカニズムはどれか。
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正解2
正答
2.オートクリンコントロール
この問題のポイント
乳汁分泌を調節する2つの仕組みを区別できるかを問う問題です。1つは全身を巡るホルモンによる調節、もう1つは乳房ごとに働く局所の調節です。手がかりは、「産褥20日」という時期と、「よく吸われる右側は保たれ、吸われない左側だけ分泌が落ちた」という左右差の2点です。血中のホルモンは両側の乳房に等しく届くため、左右差は生じません。乳汁の排出量に応じて乳房ごとに産生量が決まる局所調節(オートクリンコントロール)で説明します。
解説
乳汁産生の段階
乳汁は、時期によって調節の主役が入れ替わりながら作られます。
- 乳腺の発育(妊娠中):エストロゲンが乳管系を、プロゲステロンが腺房(小葉)系を発育させます。プロラクチンやヒト胎盤性ラクトゲンも関与します。
- 乳汁生成Ⅰ期(分泌分化期、妊娠中期ごろ〜):腺房の上皮細胞が、乳汁を作れる細胞へ分化します。初乳の成分が少量作られ始めますが、高濃度のプロゲステロンが本格的な分泌を抑えています。
- 乳汁生成Ⅱ期(分泌活性化期、産後2〜3日ごろ):胎盤娩出でプロゲステロンが急に低下し、プロラクチンの作用が発揮されて多量の分泌が始まります。いわゆる乳汁来潮・乳房緊満の時期です。
- 乳汁生成Ⅲ期(分泌維持期):分泌が確立した後の時期です。産後9日ごろ以降とする説明が多く、離乳して乳腺が退縮し始めるまで続きます。
2つの調節の違い
エンドクリンコントロール(内分泌調節)は、分泌が始まるまでの主体となる仕組みです。
- 吸啜刺激などで下垂体前葉からプロラクチンが分泌され、血流にのって両側の乳腺に作用します。
- ホルモンが主導するため、授乳をしない褥婦でも産後数日で乳汁来潮や緊満が起こります。
オートクリンコントロール(局所調節)は、分泌が確立した後の主体となる仕組みです。
- 乳汁中には、乳腺細胞自身が分泌した乳汁産生抑制因子(FIL)が含まれています。乳汁が腺房内にとどまると、この因子が同じ細胞に作用して産生を抑えます。
- 自らの分泌物が自らに働くので「オートクリン」と呼びます。
- 腺房が乳汁で膨満すると、分泌細胞がプロラクチンを受け取りにくくなるという説明もあります。
- 乳汁が排出されれば抑制が外れ、産生が続きます。つまり「出した分だけ作られる」需要と供給の関係です。
- この仕組みは左右の乳房で別々に働きます。プロラクチンは維持期にも必要ですが、どれだけ作るかは乳房ごとの排出状況で決まります。
事例への当てはめ
産褥20日は、すでに局所調節が主体の時期です。
- 右側はよく吸われて排出されるため、産生が保たれます。
- 左側は排出が少ないため抑制因子の作用と腺房の膨満が続き、産生が落ちていきます。
- 血中ホルモンが原因なら両側が同じように変化するはずです。したがって片側だけの低下は、局所調節で説明するのが妥当です。
実践での援助
片側の分泌低下は、その側の排出不足として対応します。
- 空腹で吸啜の力が強い授乳の最初に、吸われにくい左側を含ませます。
- 児が左側を嫌がる理由を確認します。抱き方、吸着(ラッチ)、乳頭の形、左右の乳汁の出やすさの差、児の向き癖などです。そのうえで抱き方を工夫します。
- 吸わせきれないときは、手による搾乳で左側の排出を補います。
- 左側のうっ滞によるしこり、発赤、痛み、発熱(乳管閉塞や乳腺炎の徴候)を観察します。
選択肢の確認
1.エンドクリンコントロール:下垂体前葉のプロラクチンが血流を介して両側の乳房に作用する、全身性の調節です。主体となるのは乳汁生成Ⅱ期までの産褥早期で、授乳しなくても乳汁来潮が起こるのはこの仕組みによります。ホルモンは左右に等しく作用するため、片側だけ分泌が落ちる現象は説明できません。また、産褥20日は選択肢2の局所調節が主体となっている時期です。「産褥早期に多量の分泌が始まる仕組み」を問われた場合には、こちらが答えになります。
2.オートクリンコントロール:正答。乳汁中の産生抑制因子(FIL)が分泌細胞自身に作用し、腺房の膨満と合わせて産生量を調節する局所の仕組みで、分泌維持期の主体です。排出されない乳房では産生が抑えられ、よく排出される乳房では産生が保たれます。左右の乳房で独立して働くため、右ばかり吸われて左の分泌が減ったという訴えにも、産褥20日という時期にも合致します。
3.腺房細胞の分泌細胞への分化:妊娠中期ごろから進む乳汁生成Ⅰ期(分泌分化期)の変化で、乳汁を作る「準備」にあたります。産褥20日にはこの分化はすでに終わっており、分泌量の増減や左右差を決める仕組みではありません。「妊娠中から初乳成分が作られ始めるのはなぜか」を問われた場合に関係する内容です。
4.エストロゲンによる乳管系の増殖:妊娠中の乳腺の発育、すなわち乳管の伸長と分枝を説明する内容です。腺房系の発育を担うプロゲステロンと対にして覚えます。胎盤娩出後はエストロゲンが急激に低下するため、産褥期の分泌を維持する仕組みにはあたりません。むしろ授乳中にエストロゲンを含む避妊薬を使うと、乳汁分泌を減らすおそれがあるとされます。
覚えるポイント
- 乳汁生成は3段階です。Ⅰ期(妊娠中期〜、分泌細胞への分化、プロゲステロンが分泌を抑える)→ Ⅱ期(産後2〜3日ごろ、胎盤娩出後のプロゲステロン低下で多量分泌が開始)→ Ⅲ期(分泌維持、局所調節が主体)と進みます。
- エンドクリンコントロールは、プロラクチンによる全身性の調節です。両側に等しく作用し、授乳しなくても乳汁来潮は起こります。
- オートクリンコントロールは、乳汁中の抑制因子(FIL)と腺房の膨満による乳房ごとの調節です。「出した分だけ作られる」ので、左右差を生じます。
- 片側だけ分泌が低下したら、その側の排出不足と考えます。その側から授乳する、抱き方や吸着を見直す、搾乳で補う、うっ滞によるトラブルを観察する、が対応です。
- 乳腺の発育では、エストロゲンが乳管系、プロゲステロンが腺房系を担います。乳汁の産生はプロラクチン(下垂体前葉)、射乳はオキシトシン(下垂体後葉、筋上皮細胞の収縮)です。
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