第106回

106PM015|第106回 助産師国家試験 過去問

産褥14日の褥婦は、急な熱感、疲労感および腰部右側に強い痛みが出現し、受診した。体温38.7 ℃、乳房緊満(+)、乳汁分泌は良好。腹壁から子宮は触れず、子宮体部の圧痛はない。腰背部の叩打痛がある。淡黄色の悪露が極少量ある。このとき考えられるのはどれか。

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正解4

正答

4.腎孟腎炎

この問題のポイント

産褥期の発熱の原因を、身体所見から見分ける問題です。38.7℃の急な発熱に、右側の腰部痛と腰背部の叩打痛が加わっています。一方で、子宮復古・悪露・乳汁分泌はいずれも産褥14日として正常です。発熱の原因となる臓器を子宮、乳房、尿路と順に確かめていくと、腎臓の感染にたどり着きます。

解説

問題文から拾う手がかり

  • 産褥14日:子宮復古がほぼ進み、悪露が黄色から白色へ移っていく時期です。
  • 急な熱感、疲労感、体温38.7℃:急性の感染症を思わせる全身症状です。
  • 腰部右側の強い痛み、腰背部の叩打痛:腎臓の炎症を示す局所所見です。
  • 腹壁から子宮を触れない、子宮体部の圧痛がない、淡黄色の悪露が極少量:子宮は正常に経過しています。
  • 乳房緊満(+)、乳汁分泌は良好:授乳が順調であることを示す所見です。発赤、硬結、局所の圧痛といった炎症所見の記載はありません。

産褥期の発熱は、原因となる臓器を順に探す

産褥期に発熱をみたら、次の順に原因となる臓器を探します。

  • 子宮:産褥子宮内膜炎など
  • 乳房:乳腺炎
  • 尿路:膀胱炎、腎盂腎炎
  • 創部:会陰切開創、帝王切開創
  • 血管:血栓性静脈炎

それぞれに対応する局所所見があるので、所見の有無で候補を絞り込めます。

まず子宮です。子宮底は産褥10日〜2週ごろに腹壁から触れなくなります。悪露は赤色、褐色、黄色、白色と変化し、産褥2週前後には黄色で量も少なくなります。本例の「子宮を触れない」「圧痛なし」「淡黄色で極少量」は、産褥14日の正常な復古そのものです。子宮内感染を示す子宮の圧痛や、悪臭のある悪露はありません。

次に乳房です。緊満はあっても分泌は良好で、局所の炎症所見は書かれていません。

こうして子宮と乳房を除くと、説明のつかない局所所見として右側の腰部痛と叩打痛が残ります。

腎盂腎炎の病態と、産褥期に起こりやすい理由

腎盂腎炎は上部尿路感染症です。主に膀胱の細菌(大腸菌が最多)が尿管をさかのぼり、腎盂と腎実質に感染して起こります。

典型的な所見は次の3つです。

  • 悪寒・戦慄を伴う急な高熱
  • 患側の腰背部痛
  • 肋骨脊柱角(CVA)の叩打痛

頻尿や排尿時痛などの膀胱刺激症状を伴うこともあります。膀胱炎だけでは通常、高熱は出ません。発熱と叩打痛がそろえば、炎症が腎臓まで及んでいると考えます。

妊娠中から産褥期にかけては、尿路感染が起こりやすい条件が重なります。

  • 尿管の拡張:妊娠中はプロゲステロンの作用で尿管の平滑筋が弛緩します。増大した子宮による圧迫も加わって尿管が拡張し、尿がうっ滞しやすくなります。この変化は分娩後すぐには戻らず、しばらく続きます。
  • 右側に多い:妊娠子宮は右に傾きやすく(右旋)、右の尿管が圧迫されやすいため、妊娠に関連した腎盂腎炎は右側に多いとされます。本例の「腰部右側」の痛みとも合います。
  • 分娩による影響:分娩時の膀胱・尿道の圧迫や損傷、導尿、分娩後の尿意の鈍化による残尿が、細菌の侵入と増殖を助けます。

診断と看護

診断は、尿検査(膿尿・細菌尿)、尿培養、血液検査(白血球数・CRPの上昇)で行い、治療は抗菌薬の投与です。

看護としては、次の点に注意します。

  • 十分な水分摂取を促し、排尿を我慢しないよう伝えます。安静と解熱への援助も行います。
  • 授乳中の褥婦には授乳と両立できる薬剤が選ばれることが多いため、自己判断で授乳をやめず、医師や薬剤師に確認するよう伝えます。
  • 退院後は育児の負担で受診が遅れやすいため、退院指導で「高熱や腰背部の痛みがあれば早めに受診する」ことを伝えておきます。

なお、選択肢4が指す疾患名は「腎盂腎炎」(「盂」の字)です。

選択肢の確認

1.産褥熱:日本では「分娩終了後24時間以降、産褥10日以内に38℃以上の発熱が2日以上続くもの」と定義され、多くは子宮内膜炎など子宮・産道の感染が原因です。本例は産褥14日の発症で、定義の期間から外れています。さらに、子宮体部の圧痛がなく、子宮復古も悪露の色・量も正常で、子宮内感染を示す所見がありません。子宮の圧痛、悪臭のある悪露や悪露の増加、子宮復古不全を伴う発熱であれば、この病態を考えます。

2.胆石症:胆石による痛みは、脂肪の多い食事の後などに起こる右季肋部から心窩部の痛みが中心で、右肩や右の肩甲骨付近へ放散するのが特徴です。胆石があるだけでは高熱は出にくく、発熱を伴うのは胆嚢炎や胆管炎を合併した場合です。本例は腰部の痛みと腰背部の叩打痛という腎臓の位置の所見で、右季肋部痛や上腹部の圧痛の記載もないため当てはまりません。ただし妊娠は胆石の危険因子なので、右上腹部痛を訴える褥婦では鑑別に挙がることを押さえておきます。

3.乳腺炎:乳房の炎症では、乳房局所の発赤・熱感・硬結・圧痛を伴って発熱や悪寒が現れます。本例は乳汁分泌が良好で、乳房緊満は授乳中の褥婦に通常みられる程度の所見にとどまり、局所の炎症所見は記載されていません。また、乳房の炎症では腰背部の痛みや叩打痛を説明できません。乳汁のうっ滞や乳頭の亀裂をきっかけに産後数週間の時期にも起こるため、時期だけで除外せず、乳房の局所所見で判断します。

4.腎孟腎炎:正答。急な高熱(38.7℃)、患側(右側)の腰部痛、腰背部の叩打痛という上部尿路感染の典型的な所見がそろっています。子宮にも乳房にも発熱の原因となる所見がないことから、最も考えられる病態です。妊娠・分娩に伴う尿管の拡張や残尿のため、産褥期は尿路感染が起こりやすい時期です。

覚えるポイント

  • 産褥期の発熱は、子宮、乳房、尿路、創部、血栓性静脈炎の順に、局所所見から原因となる臓器を探します。
  • 腎盂腎炎の典型所見は、悪寒を伴う高熱、患側の腰背部痛、肋骨脊柱角の叩打痛です。膀胱炎だけでは通常、高熱は出ません。
  • 妊娠・産褥期は、プロゲステロンによる尿管拡張、子宮の右旋による右尿管の圧迫、分娩後の残尿・導尿のため、尿路感染(特に右側)が起こりやすくなります。
  • 産褥熱の定義は「分娩後24時間以降、産褥10日以内に38℃以上の発熱が2日以上続くもの」です。主な原因は子宮内感染で、子宮の圧痛、悪臭のある悪露、子宮復古不全を伴います。
  • 正常な産褥経過の目安として、子宮底は産褥10日〜2週ごろに腹壁から触れなくなり、悪露は赤色、褐色、黄色、白色と変化しながら量が減ります。
  • 痛みの部位で見分けます。胆石は右季肋部から心窩部で右肩へ放散し、乳房の炎症は乳房局所の発赤・硬結・圧痛、腎臓は腰背部の叩打痛です。

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