第106回
106PM014|第106回 助産師国家試験 過去問
産後1か月の健康診査で褥婦が「お産した後から、咳やくしゃみをすると少し尿が漏れます」と話した。子宮収縮は良好で、内診時に子宮頸部の下垂を認めた。バイタルサインは、体温36.4 ℃、脈拍76/分、整、血圧126/70 mmHg、尿蛋白(-)、尿糖(-)、潜血(-)であった。このときのアセスメントで正しいのはどれか。
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正解3
正答
3.骨盤底筋群の弛緩がある。
この問題のポイント
産後1か月健診の場面から、褥婦の訴えと内診所見をアセスメントする問題です。咳やくしゃみのとき、つまり腹圧が上がったときに漏れるのは腹圧性尿失禁の特徴です。子宮頸部の下垂は、骨盤内の臓器を支える力が落ちていることを示します。この2つに共通する原因が、妊娠と経腟分娩による骨盤底筋群の弛緩です。尿失禁の病型の見分け方と、バイタルサインや尿所見から炎症を除外する視点も問われています。
解説
問題文の手がかり
- 「お産した後から」:分娩をきっかけに始まった症状です。
- 「咳やくしゃみをすると少し尿が漏れます」:腹圧が急に上がる動作に一致して少量漏れています。強い尿意が先に来るわけではないので、腹圧性尿失禁の典型的な訴えです。
- 「子宮収縮は良好」:子宮復古は順調で、産褥経過に異常はありません。
- 「内診時に子宮頸部の下垂」:子宮を支える構造がゆるみ、子宮が通常の位置より下がっています。
- 体温36.4 ℃、脈拍76/分、血圧126/70 mmHg、尿蛋白・尿糖・潜血はいずれも陰性:発熱、頻脈、高血圧、尿の異常はありません。
骨盤底の構造と分娩の影響
骨盤底は次のもので構成され、膀胱・子宮・直腸を下から支えています。
- 骨盤隔膜:肛門挙筋(恥骨尾骨筋、腸骨尾骨筋など)と尾骨筋からなります。
- 尿生殖隔膜(骨盤隔膜の前方)
- 会陰の筋群、筋膜、靱帯
骨盤底は尿道周囲も支えており、腹圧がかかっても尿道が閉じた状態を保てるように働いています。
妊娠中は、大きくなった子宮の重さが骨盤底にかかり続けます。ホルモンの影響で結合組織もゆるみます。経腟分娩では、児頭が通過するときに肛門挙筋や筋膜が大きく引き伸ばされ、骨盤底を支配する陰部神経が伸展によって障害されることもあります。多産、巨大児、鉗子分娩・吸引分娩、分娩第2期の遷延は、この影響を強める要因です。
その結果、産後には次のような変化が起こります。
- 尿道を支えて閉じる力が落ち、腹圧が上がった瞬間に尿道が十分に閉じず、尿が漏れる(腹圧性尿失禁)
- 子宮や膀胱を支える力が弱まり、臓器が下がる(子宮下垂、膀胱瘤など)
本例ではこの2つがそろっているため、共通の原因である骨盤底筋群の弛緩と判断できます。
「子宮収縮良好」と「子宮頸部の下垂」は矛盾しない点にも注意します。子宮収縮(子宮復古)は、子宮の筋が縮んで元の大きさに戻る過程です。一方、子宮の位置を保つのは骨盤底筋群や基靱帯などの支持組織です。子宮が小さく戻っていても、支えがゆるめば位置は下がります。なお、下垂が進んで子宮が腟口の外に出た状態を子宮脱といいます。
看護・助産の実践
対応の中心は骨盤底筋訓練です。
- 方法:肛門と腟を締めて引き上げるように数秒間保ち、ゆっくり緩めることを繰り返します。
- 確認:腹筋や殿筋に力が入っていないか、息を止めていないかを確かめ、正しく収縮できてから毎日続けるよう指導します。
- 生活上の工夫:便秘によるいきみや重い物を持ち上げる動作など、強い腹圧を繰り返しかける場面を減らすよう伝えます。
産後の腹圧性尿失禁は時間とともに軽快することが多い一方、長引く例もあります。放置すると、その後の尿失禁や骨盤臓器脱の背景となり得ます。
尿漏れは恥ずかしさから訴えにくい症状です。1か月健診は、こうした症状を拾い上げる大切な機会です。「お産の後によく起こり、訓練で改善が期待できる」と伝え、相談しやすい関係をつくることが大切です。改善しない場合や下垂感が強い場合は、医師の診察につなぎます。
選択肢の確認
1.切迫性尿失禁である。:切迫性尿失禁は、突然起こる強い尿意(尿意切迫感)をこらえきれず、トイレに間に合わずに漏れるものです。膀胱の排尿筋が意思と関係なく収縮する過活動膀胱や、脳血管障害などが背景にあります。本例は尿意と関係なく、咳やくしゃみで腹圧がかかった瞬間に少量漏れているので、腹圧性尿失禁に当てはまります。見分ける要点は「漏れるきっかけが尿意か腹圧か」です。両方の特徴をもつ場合は混合性尿失禁と呼びます。
2.安静が必要な状態である。:骨盤底筋群の弛緩による尿失禁や子宮下垂は、安静にしても改善しません。骨盤底筋訓練で筋の働きを回復させることが基本です。産後1か月は日常生活に戻っていく時期で、本例は子宮復古が良好でバイタルサインにも異常がありません。安静が優先されるのは、感染や出血などで全身状態に問題がある場合です。重い物を持つなど強い腹圧を避ける工夫は勧めますが、これは安静とは異なります。
3.骨盤底筋群の弛緩がある。:正答。咳やくしゃみで漏れる腹圧性尿失禁は、尿道を支えて閉じる骨盤底の力の低下を示しています。内診での子宮頸部の下垂は、子宮を下から支える力の低下を示しています。どちらも妊娠と経腟分娩で骨盤底筋群が伸展・損傷したことで説明でき、骨盤底筋訓練の指導につながるアセスメントです。
4.下部尿路系の炎症を起こしている。:膀胱炎などの下部尿路の炎症では、排尿時痛、頻尿、残尿感、尿の混濁や血尿がみられます。本例にはこれらの訴えがなく、尿潜血も陰性です。また、漏れるのは腹圧がかかったときに限られており、炎症による尿意切迫とは性質が異なります。なお、膀胱炎は発熱を伴わないことも多いため、体温が正常というだけでは否定できません。発熱や肋骨脊柱角の叩打痛を伴う場合は、腎盂腎炎を考えます。
覚えるポイント
- 腹圧性尿失禁:咳・くしゃみ・笑う・重い物を持つなど、腹圧が上がったときに漏れます。原因は骨盤底筋群の弛緩で、妊娠・経腟分娩・加齢・肥満などが背景になり、産後の女性に多くみられます。
- 切迫性尿失禁:突然の強い尿意をがまんできずに漏れます。背景は過活動膀胱や脳血管障害などです。
- 溢流性尿失禁:尿閉で膀胱にたまった尿があふれ出ます。
- 機能性尿失禁:排尿機能は保たれていても、運動機能や認知機能の低下でトイレに間に合わずに漏れます。
- 子宮収縮良好(子宮復古の評価)と子宮頸部の下垂(支持組織のゆるみの評価)は別の視点です。下垂が進んで腟口の外に出ると子宮脱です。
- 対応は骨盤底筋訓練の継続と、腹圧をかけすぎない生活の工夫です。安静は治療になりません。下部尿路の炎症は、排尿時痛・頻尿・残尿感・尿の混濁や潜血などの所見で判断します。
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