第105回
105PM027|第105回 助産師国家試験 過去問
Aさん(35歳、1回経産婦)は陣痛発来後3時間の経過で4,200 gの男児を経腟分娩した。会陰切開の必要はなく会陰裂傷もなかった。分娩後1時間のバイタルサインは脈拍70/分、整、血圧120/80 mmHgであった。分娩後2時間の時点で脈拍100/分、整、血圧80/60 mmHgで「少し前から肛門の奥あたりがとても痛くなってきた」と訴えた。子宮底部は臍下4横指、子宮収縮は良好であった。Aさんは苦悶様表情を浮かべ、額に冷汗が認められた。出血量は正常範囲内であった。助産師の対応で正しいのはどれか。
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正解3
正答
3.末梢静脈路確保の準備をする。
この問題のポイント
子宮収縮は良好で外出血も正常範囲なのに、分娩後2時間で頻脈、血圧低下、冷汗というショック徴候が現れ、「肛門の奥」の強い痛みを訴えています。巨大児と速い分娩進行という背景を合わせると、外へ出てこない出血である産道血腫(腟壁血腫など)が疑われます。原因を探す前に、医師への報告と循環の確保を優先できるかを問う問題です。
解説
情報の整理
- 背景:35歳、1回経産婦です。陣痛発来から3時間という短い経過で、4,200 gの児を娩出しています。出生体重4,000 g以上は巨大児にあたります。会陰切開はなく、会陰裂傷もありません。
- 分娩後1時間:脈拍70/分、血圧120/80 mmHgで安定していました。
- 分娩後2時間:脈拍100/分、血圧80/60 mmHgです。苦悶様表情と額の冷汗があり、「少し前から肛門の奥あたりがとても痛い」と訴えています。
- 子宮と出血:子宮底は臍下4横指で収縮は良好です。外出血量は正常範囲内です。
循環動態の評価
ショックインデックス(SI)は、脈拍÷収縮期血圧で求めます。Aさんは100÷80=1.25で、1を超えています。産科危機的出血への対応指針では、SI 1はおよそ1.5 L、SI 1.5はおよそ2.5 Lの出血に相当する目安とされています。SIが1を超えるAさんは、見えている出血量とは不釣り合いに多くの循環血液量を失っている可能性が高いといえます。
妊産婦は妊娠中に循環血液量が増えているため、出血しても当初は血圧が保たれます。血圧低下が出現した時点で、すでに出血はかなり進んでいると考えます。さらに冷汗と苦悶様表情は、交感神経の緊張による末梢血管収縮と発汗を示します。これはショックの5P(蒼白、虚脱、冷汗、脈拍触知不能、呼吸不全)の一部です。分娩後1時間の値が正常だったことから、1〜2時間の間に急速に悪化したと判断できます。
出血源の推定
- 弛緩出血:子宮が軟らかく、子宮内に血液がたまって子宮底が上昇し、外出血が多くなるのが特徴です。Aさんは子宮収縮が良好で子宮底も上昇しておらず、外出血も正常範囲なので否定的です。
- 頸管裂傷・腟壁裂傷:子宮収縮が良好でも鮮紅色の出血が外へ続くのが特徴です。Aさんは外出血が正常範囲なので考えにくいです。
- 子宮内反症:胎盤娩出の前後に激痛とショックが起こり、子宮底を触れない、または陥凹を触れます。Aさんは子宮底を臍下4横指に触れるので合いません。
- 産道血腫:分娩時に軟産道が急激に強く伸展されると、深部の血管が断裂することがあります。粘膜や皮膚が保たれたまま結合組織内に血液がたまるため、裂傷がなくても起こり、外出血には現れません。分娩後数時間以内に、次第に強くなる会陰部痛、肛門部痛、直腸圧迫感(便意様の感覚)が出現し、出血量に見合わないショックをきたします。
危険因子には、巨大児、急産、吸引・鉗子分娩、初産、外陰や腟の静脈瘤、縫合の不備などがあります。Aさんは巨大児と速い分娩進行が重なっており、症状も産道血腫の典型です。外陰部に腫脹が見えない腟壁血腫では、肛門や直腸の奥の痛みが重要な手がかりになります。血腫が肛門挙筋より上方に広がると後腹膜血腫となり、発見が遅れて大量出血に至ることもあります。
助産師の対応
診断を確定させる前に、まず生命を守るための循環の確保を行います。
- 直ちに医師に報告し、人員を集めます。
- 太い留置針による末梢静脈路確保と輸液(細胞外液補充液)の準備をします。
- 採血(血算、凝固、血液型、交差適合試験)と輸血の準備をします。
- 酸素投与、保温、仰臥位での安静を保ち、バイタルサイン、意識、尿量を継続して観察します。
静脈路は、輸液、輸血、薬剤投与のすべての基盤です。ショックが進むと末梢静脈が虚脱して確保が難しくなるため、早い段階で準備することに意味があります。静脈路確保は、医師の指示のもとで行う診療の補助にあたります。
その後、医師が視診、内診、腟鏡診、直腸診で血腫を確認します。小さく増大しない血腫は圧迫や冷罨法で経過をみることがありますが、大きいものや増大するものは切開、血腫除去、止血を行います。止血が難しい場合は動脈塞栓術などが検討されます。分娩後2時間は、異常出血がとくに起こりやすく、厳重な観察を続ける時期です。
選択肢の確認
1.子宮底の輪状マッサージを実施する。:輪状マッサージは、子宮収縮不良による弛緩出血に対して子宮筋の収縮を促すための処置です。Aさんは子宮収縮が良好で子宮底も上昇しておらず、出血源は子宮ではなく産道の結合組織内と考えられます。マッサージをしても血腫の止血にはならず、苦痛を増すだけです。子宮底が高く軟らかく、外出血が多い場合であれば、最初に行う適切な手技です。
2.子宮収縮薬投与の準備をする。:オキシトシンやメチルエルゴメトリンなどの子宮収縮薬は、弛緩出血の予防や治療に用いる薬剤です。Aさんの子宮はすでに良好に収縮しており、子宮外の血管断裂による血腫には止血効果が期待できません。「分娩後の出血=子宮収縮薬」と短絡的に結びつけると選びやすい誤答です。
3.末梢静脈路確保の準備をする。:正答。SIが1.25で、血圧低下、頻脈、冷汗を伴うショック状態です。出血源が何であっても、輸液、輸血、薬剤投与の経路を確保することが最優先の初期対応になります。医師への報告、採血、輸血準備と並行して、太い留置針での静脈路確保の準備を進めます。
4.トイレ歩行を促す。:肛門の奥の痛みを便意と受け取ったり、膀胱の充満が子宮収縮を妨げることから排尿を促そうと考えたりすると、選びたくなる選択肢です。しかしAさんは血圧80/60 mmHgのショック状態です。立ち上がると脳血流が低下して失神や転倒を起こす危険が高く、ベッド上の安静が必要です。直腸圧迫感は血腫によるもので、排便では解消しません。分娩後の初回歩行は、バイタルサインが安定してから付き添って行います。
5.左側臥位にする。:左側臥位は、妊娠後期の仰臥位低血圧症候群への対応です。これは増大した子宮が下大静脈を圧迫し、静脈還流が減って血圧が下がる状態です。分娩後は子宮が縮小しているため下大静脈の圧迫は起こらず、Aさんの血圧低下の原因は出血です。体位を変えても改善しないので、ショック時は仰臥位で下肢を挙上するなど静脈還流を保つ体位をとります。妊娠中の母体急変では、子宮の左方移動や左側臥位が適切な対応になります。
覚えるポイント
- 「子宮収縮は良好、外出血は少ない、それなのにショック」なら、産道血腫(腟壁血腫、後腹膜血腫)を疑います。肛門部痛、直腸圧迫感、強い会陰部痛が手がかりです。
- 産道血腫は裂傷がなくても起こります。危険因子は、巨大児(4,000 g以上)、急産、吸引・鉗子分娩、初産、外陰・腟の静脈瘤です。
- SI=脈拍÷収縮期血圧で、SI 1はおよそ1.5 L、SI 1.5はおよそ2.5 Lの出血が目安です。出血量は過小評価されやすいため、バイタルサインで評価します。妊産婦の血圧低下は遅れて出現する徴候です。
- 産科出血でショックの際の初期対応は、医師報告と人員確保、太い静脈路の確保と輸液、採血と輸血準備、酸素、保温、仰臥位安静、継続観察です。歩行はさせません。
- 出血原因と処置を対応させて覚えます。弛緩出血は輪状マッサージ、子宮収縮薬、双手圧迫、裂傷は縫合、血腫は切開・血腫除去・止血(小さければ圧迫・冷罨法)、子宮内反症は整復です。
- 左側臥位は妊娠後期の仰臥位低血圧症候群への対応です。分娩後のショックには仰臥位で下肢挙上を行います。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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