第105回

105AM026|第105回 助産師国家試験 過去問

更年期障害に対する治療としてホルモン補充療法が禁忌となるのはどれか。

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正解1

正答

1.深部静脈血栓症の既往

この問題のポイント

ホルモン補充療法(HRT)の禁忌を問う問題です。判断の軸は「補充するエストロゲンが悪化させる病態は何か」です。エストロゲンには凝固を促す作用があるため、静脈血栓塞栓症の既往は禁忌になります。あわせて、慎重投与にとどまる病態や、むしろ適応となる病態と区別できるかが問われています。

解説

更年期障害とHRTの位置づけ

更年期は、閉経をはさんだ前後5年ずつ、合計およそ10年間を指します。この時期に卵巣機能が低下してエストロゲンが減ると、視床下部・下垂体へのネガティブフィードバックが弱まり、FSHが上昇します。その結果、次のような症状が現れます。

  • ほてり・のぼせ・発汗(ホットフラッシュ)などの血管運動神経症状
  • 不眠、抑うつ
  • 腟の乾燥感

これらの症状のうち、日常生活に支障をきたすものを更年期障害といいます。

HRTは、不足したエストロゲンを補う治療です。血管運動神経症状に対して最も効果が高い治療法とされています。子宮がある女性にエストロゲンを単独で投与すると、子宮内膜増殖症や子宮内膜癌のリスクが高まります。そのため、子宮がある場合は黄体ホルモンを併用し、子宮摘出後であればエストロゲン単独で投与します。

禁忌を考える軸:エストロゲンの作用

HRTの禁忌は、次の2つに分けると整理しやすくなります。

  • エストロゲンによって悪化・再発する病態
  • 投与前に原因を確かめて除外しておくべき病態

日本産科婦人科学会・日本女性医学学会の「ホルモン補充療法ガイドライン」(出題当時は2017年度版)では、主に次のものが禁忌とされています。

  • 急性血栓性静脈炎、静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症)とその既往
  • 現在の乳癌とその既往、現在の子宮内膜癌など
  • 重度の活動性肝疾患
  • 原因不明の不正性器出血
  • 妊娠が疑われる場合
  • 心筋梗塞・冠動脈の動脈硬化性病変の既往、脳卒中の既往

経口エストロゲンは、肝臓を最初に通過する際(初回通過効果)に凝固因子の産生を高め、凝固を抑える側の因子を減らす方向に働きます。その結果、血液が固まりやすくなります。深部静脈血栓症の既往がある人は、もともと再発しやすい状態です。さらに血栓が肺動脈に詰まると、肺血栓塞栓症として命に関わります。そのためHRTは行いません。経皮製剤は経口製剤より血栓リスクが低いとされていますが、既往がある場合に禁忌であることは変わりません。

一方、慎重投与(条件付きで投与可能)とされる病態もあります。

  • 肥満、血栓症のリスク因子をもつ場合
  • 重症の高トリグリセリド血症
  • コントロール不良の高血圧・糖尿病
  • 慢性肝疾患、胆石症の既往
  • 子宮筋腫・子宮内膜症の既往
  • 片頭痛など

禁忌との違いは、「リスクを評価したうえで、投与経路や量を工夫すれば使える余地があるかどうか」です。

実践での生かし方

更年期の女性の相談を受ける助産師・看護師は、HRT開始前の問診で次の点を確認します。

  • 血栓症の既往と家族歴
  • 乳癌の既往
  • 不正出血の有無
  • 喫煙・肥満

HRT中は、下肢の腫脹・疼痛、胸痛・呼吸困難といった血栓症のサインを説明し、症状が出たらすぐ受診するよう指導します。定期的な乳がん検診・子宮がん検診の受診も勧めます。HRTが使えない人には、次のような別の選択肢があることも伝えます。

  • 漢方薬(当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸など)
  • 生活習慣の調整
  • カウンセリング

選択肢の確認

1.深部静脈血栓症の既往:正答。エストロゲンは凝固因子を増やして血栓をつくりやすくするため、静脈血栓塞栓症の既往がある人では再発の危険が高まります。血栓が肺動脈に詰まれば致死的な肺血栓塞栓症になりうるため、HRTの禁忌とされています。なお、低用量経口避妊薬(OC・LEP)でも、血栓症の既往は同様に禁忌です。

2.子宮頸部異形成:この病変はヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染によって生じる子宮頸癌の前がん病変で、エストロゲン依存性ではありません。そのためHRTの禁忌には含まれません。禁忌となる腫瘍は、エストロゲン依存性の乳癌や子宮内膜癌(子宮体癌)です。「子宮頸部」と「子宮体部(内膜)」を取り違えないことが大切です。この病変自体は、子宮頸がん検診などで経過観察や治療を続けます。

3.高脂血症:経口エストロゲンはLDLコレステロールを下げ、HDLコレステロールを上げる方向に働く一方、中性脂肪(トリグリセリド)を上昇させることがあります。そのため重症の高トリグリセリド血症は慎重投与とされ、中性脂肪への影響が小さい経皮製剤を選ぶなどの工夫をします。ただし禁忌ではありません。なお、現在はこの状態を「脂質異常症」と呼びます。

4.骨粗鬆症:エストロゲンには破骨細胞による骨吸収を抑える作用があり、閉経後に骨密度が低下する主な原因はエストロゲン欠乏です。そのためHRTは閉経後の骨量減少の予防・治療にも用いられます。この病態は禁忌ではなく、むしろ適応の側にあります。

5.喘息:気道の慢性炎症を主体とするこの疾患は、HRTのガイドラインで禁忌にも慎重投与にも挙げられていません。既往があってもHRTを行うことは可能です。この疾患で使用に注意が必要な薬は、β遮断薬や、アスピリン喘息の人に対する非ステロイド性抗炎症薬などです。HRTの禁忌と混同しないようにします。

覚えるポイント

  • HRTの禁忌は、静脈血栓塞栓症とその既往、乳癌(現在・既往)、現在の子宮内膜癌、重度の活動性肝疾患、原因不明の不正性器出血、妊娠の疑い、心筋梗塞・冠動脈疾患・脳卒中の既往です。
  • 禁忌は「エストロゲンで悪化する病態(凝固亢進、エストロゲン依存性腫瘍、肝障害)」と「投与前に除外すべき病態(不正出血、妊娠)」の2つで整理します。
  • 子宮頸癌・頸部異形成はHPVが原因で、エストロゲン非依存です。HRTの禁忌になるのは子宮体癌(内膜癌)と乳癌です。
  • 慎重投与には、肥満、重症の高トリグリセリド血症、コントロール不良の高血圧・糖尿病、胆石症、片頭痛などがあります。経皮製剤は肝臓の初回通過を避けられます。
  • 骨粗鬆症は禁忌ではなく適応の側です。子宮がある女性には、子宮内膜を守るため黄体ホルモンを併用します。
  • 血栓症の既往は、HRTでも低用量OC・LEPでも禁忌です。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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