第105回
105AM030|第105回 助産師国家試験 過去問
Aさん(28歳、初産婦)はFallot〈ファロー〉四徴症があり、幼少時に心臓の修復手術を受けた既往がある。学生時代にはスポーツの部活動は避けていたが、軽い運動や日常生活において特に問題を生じることなく生活していた。正常血圧で服薬はしていない。自然妊娠して産婦人科医院を受診し、妊娠6週の診断となった。助産師がAさんに話す内容で適切なのはどれか。
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正解3
正答
3.「妊娠後半に心臓への負担が大きくなります」
この問題のポイント
修復術後のファロー四徴症をもつ初産婦に、妊娠初期の段階で助産師が伝える内容を問う問題です。妊娠に伴って循環血液量と心拍出量が増えることが、心疾患合併妊娠のリスクの根拠になります。運動、児への影響、分娩様式、授乳について、根拠なく断定する説明は不適切です。
解説
事例の整理
- 28歳の初産婦で、自然妊娠による妊娠6週です。
- ファロー四徴症(心室中隔欠損、肺動脈狭窄〈右室流出路狭窄〉、大動脈騎乗、右室肥大)に対して、幼少時に修復術を受けています。
- 激しい運動は避けてきましたが、日常生活や軽い運動で症状はありません。NYHA分類Ⅰ度相当の心機能と考えられます。
- 血圧は正常で、服薬もありません。
これらから、妊娠の継続は十分に見込める状態です。一方で、心疾患合併妊娠として循環器内科と産科が共同で管理すべき妊婦でもあります。受診先は産婦人科医院なので、循環器と周産期の管理ができる施設との連携や紹介も考える必要があります。この時期に助産師が行うのは、妊娠経過の見通しを正しく伝え、必要以上に不安をあおらず、注意点を共有することです。
妊娠による循環動態の変化
- 循環血液量は妊娠初期から増え始め、妊娠28〜32週ごろに最大になります。増加量は非妊時の約40〜50%です。
- 血漿量の増加が赤血球量の増加を上回るため、希釈性(生理的)貧血が起こります。
- 心拍出量も妊娠前半から増え、妊娠中は非妊時より30〜50%程度多い状態が続きます。心拍数も増加します。
- 末梢血管抵抗は低下します。
健康な心臓はこの容量負荷を代償できますが、心疾患があると代償しきれず、心不全や不整脈が起こりやすくなります。修復後のファロー四徴症では、肺動脈弁逆流などが残って右心系に負担がかかっていることがあります。そこに妊娠による容量負荷が加わると、右心不全や不整脈が表面化することがあります。
特に注意が必要な時期
- 妊娠後期:循環血液量が最大になる時期です。
- 分娩時:陣痛のたびに子宮から数百mLの血液が体循環へ押し出され、心拍出量が増えます。疼痛や努責(いきみ)による交感神経の緊張と血圧の変動も加わります。
- 分娩直後から産褥早期:胎盤娩出後の子宮収縮で血液が体循環に戻ります。子宮による下大静脈の圧迫もなくなるため、静脈還流が急に増えて心拍出量が一時的に大きく上がります。その後数日かけて、組織間液が血管内に戻ります。
助産師の関わり
妊娠6週の今の段階で「妊娠後半に心臓の負担が大きくなる」と伝えておくと、Aさんは見通しをもって妊娠生活を送れます。あわせて次のことを説明しておくと、異常の早期発見と予防につながります。
- 受診の目安になる心不全の徴候:息切れ、動悸、むくみ、急な体重増加、夜間の咳や横になると苦しいこと。
- 心負荷を増やす要因を避けること:貧血、感染、過度の体重増加、塩分のとりすぎ、過労、睡眠不足。
選択肢の確認
1.「妊娠中は積極的に運動しましょう」:運動は心拍数と心拍出量をさらに増やすため、心疾患合併妊婦に一律に「積極的に」勧めるのは不適切です。血行動態に影響する心疾患は妊娠中の運動の禁忌とされます。それ以外の場合も、運動の可否と強度は循環器医と産科医の評価を踏まえて決めます。Aさんが日常生活レベルの活動や医師の許可した軽い運動を続けることは可能です。健康な妊婦にウォーキングなどの適度な運動を勧める場面と取り違えないようにします。
2.「赤ちゃんに心臓の病気が生じる心配はありません」:親が先天性心疾患をもつ場合、児の先天性心疾患の頻度は一般集団より高くなるため、「心配はない」と断言する根拠はありません。ファロー四徴症では22q11.2欠失症候群が背景にあることがあります。その場合は常染色体顕性(優性)遺伝で、児に50%の確率で受け継がれます。必要に応じて遺伝カウンセリングを案内し、妊娠中期に胎児心エコー(胎児心臓超音波検査)で評価する流れにつなげます。
3.「妊娠後半に心臓への負担が大きくなります」:正答。循環血液量は妊娠28〜32週ごろに最大となり、心拍出量の増えた状態も続くため、妊娠後半は心負荷が大きくなります。さらに分娩時と産褥早期にも負担が高まります。妊娠初期にこの見通しを正確に伝え、症状の観察と受診の目安を共有しておくことは、助産師の説明として適切です。
4.「お産は帝王切開で行われます」:心疾患合併妊娠でも、分娩様式は原則として経腟分娩が選ばれるため、帝王切開と決めつけるのは不適切です。帝王切開は出血量が多く、麻酔と手術の侵襲、血栓症や感染のリスクも伴うので、心臓への負担を必ずしも減らしません。経腟分娩では、硬膜外麻酔による無痛分娩で疼痛による頻脈や血圧上昇を抑えます。分娩第2期には吸引分娩や鉗子分娩で努責の時間を短くするなど、心負荷を軽くする工夫をします。帝王切開は、産科的適応がある場合や、重い心機能低下など心疾患側に特別な理由がある場合に選ばれます。
5.「母乳育児はできません」:心疾患があることは授乳の禁忌ではなく、服薬がなく心機能も保たれているAさんは母乳育児が可能です。薬を使っている場合は、母乳への移行を確認したうえで判断します。産褥期は睡眠不足や疲労も心負荷になります。授乳をあきらめさせるのではなく、家族の支援や休息の確保を調整することが助産師の役割です。
覚えるポイント
- 循環血液量は妊娠28〜32週ごろに最大で、非妊時の約40〜50%増です。血漿量の増加が赤血球量の増加を上回るため、希釈性貧血が起こります。
- 心疾患合併妊娠で特に注意する時期は、妊娠後期(28〜32週ごろ)、分娩時、分娩直後〜産褥早期の3つです。
- 分娩様式は原則として経腟分娩です。無痛分娩と分娩第2期の短縮(吸引・鉗子)で心負荷を軽くします。帝王切開は産科的適応や重症の心疾患の場合に選びます。
- 親に先天性心疾患があると、児の先天性心疾患の頻度は一般集団より高くなります。胎児心エコーと、必要に応じて遺伝カウンセリングを行います。
- 心機能の評価にはNYHA分類を使い、一般にⅢ度以上では妊娠のリスクが高くなります。心疾患があること自体は授乳の禁忌ではありません。
- 心不全の徴候(息切れ、動悸、浮腫、急な体重増加、夜間の咳や起座呼吸)を受診のサインとして伝えます。貧血、感染、過度の体重増加、過労の予防も指導します。
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