第105回
105AM032|第105回 助産師国家試験 過去問
生後18時間の男児。在胎41週0日、出生体重4,250 gで出生した。全身状態は良好で、哺乳を開始しており、哺乳力も問題ない。診察時、Moro〈モロー〉反射が左右非対称で左の反射が欠如していた。上肢の触診で特定の場所を痛がる様子はなく、局所性の発赤・腫脹も認めない。次に確認する児の所見で最も重要なのはどれか。
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正解1
正答
1.手掌把握反射
この問題のポイント
巨大児で片側のモロー反射が欠如している場面から、分娩損傷(鎖骨骨折・腕神経叢麻痺)を想起し、次に何を確かめるかを問う問題です。痛がる様子や発赤・腫脹がないため、骨折より腕神経叢麻痺(分娩麻痺)が考えられます。そのうえで手掌把握反射の有無をみれば、障害が手指を支配する下位の神経根まで及んでいるか、つまり麻痺の型を判別できます。
解説
問題文の手がかり
- 在胎41週0日、出生体重4,250 g:出生体重4,000 g以上の巨大児です。肩甲難産を起こしやすく、分娩時に頸部が過度に側屈したり肩が牽引されたりして、腕神経叢が引き伸ばされやすい条件がそろっています。
- 全身状態良好、哺乳力良好:低酸素性虚血性脳症や頭蓋内出血などの中枢神経障害を強く疑わせる所見はありません。
- 左のモロー反射が欠如:片側の上肢だけが動いていない状態です。
- 痛がらない、局所の発赤・腫脹がない:骨折を示す局所所見が乏しいことを表しています。
片側のモロー反射欠如の鑑別
モロー反射は、頭部を急に後屈させるなどの刺激で両上肢を伸展・外転させ、続いて抱きつくように屈曲・内転させる原始反射です。左右差がある場合は、まず次のような分娩損傷を考えます。
- 鎖骨骨折:分娩骨折で最も多い損傷です。患部の圧痛、腫脹、骨折部の握雪感がみられ、痛みのために上肢を動かさなくなります(仮性麻痺)。多くは保存的に治癒します。
- 上腕骨骨折:局所の腫脹、変形、痛みを伴います。
- 腕神経叢麻痺:痛みや腫脹はなく、上肢が弛緩して動きません。
本例には骨折の局所所見がないため、腕神経叢麻痺を第一に考えます。ただし、骨折と麻痺が合併することもあります。
腕神経叢麻痺の型
腕神経叢は第5頸神経から第1胸神経(C5〜T1)の神経根で構成され、どの高さが障害されたかで症状が変わります。
- 上位型(Erb型):C5・C6が中心で、C7に及ぶこともあります。肩の外転・外旋と肘の屈曲ができず、上肢は内転・内旋、肘は伸展、前腕は回内した姿勢(ウェイターチップ肢位)をとります。患側のモロー反射は消失しますが、手指の機能は保たれるため把握反射はみられます。最も多い型で、自然回復が期待できることが多いです。
- 下位型(Klumpke型):C8・T1が中心です。手関節と手指の筋が麻痺し、把握反射が消失します。T1を通る交感神経線維が障害されると、Horner症候群(眼瞼下垂、縮瞳)を伴います。単独で起こることはまれで、肩の動きが保たれていればモロー反射は残ります。
- 全型:C5〜T1のすべてが障害され、上肢全体が弛緩します。モロー反射も把握反射も消失し、予後は不良です。
正答に至る判断
モロー反射が欠如していることから、少なくとも肩と肘を動かす上位の神経根が障害されていると考えられます。次に手指の機能を反映する手掌把握反射を確認すると、障害の範囲を判別できます。把握反射が保たれていれば上位型、消失していれば下位の神経根まで障害された全型です。この区別によって、予後の見通し、専門医への紹介の緊急度、その後の観察点が決まります。手掌に指を置くだけで確認でき、損傷が疑われる上肢を牽引しなくてすむため、児への負担が少ない点も重要です。
実践での観察とケア
- 患側の上肢を引っ張ったり無理に動かしたりせず、更衣や抱っこの際は愛護的に扱います。
- Horner症候群の有無を観察します。横隔神経麻痺(C3〜C5)を合併すると呼吸障害(多呼吸、陥没呼吸)が起こるため、呼吸状態も観察します。
- 医師の指示のもと、関節拘縮を防ぐ可動域訓練などのリハビリテーションにつなげます。家族には、医師の説明に沿って今後の経過の見通しを伝え、不安を支えます。
選択肢の確認
1.手掌把握反射:正答。手掌に指を当てると児が握りしめる原始反射で、手指の屈曲に関わる下位の神経根(C8・T1を中心とする)の機能を反映します。モロー反射が欠如した患側でこの反射が保たれていれば上位型(Erb型)、消失していれば全型と判別できます。その結果は予後の推定や紹介の判断に直結します。また、損傷が疑われる上肢を牽引せずに確認できるため、次に行う診察として最も適しています。
2.スカーフ徴候:児の手を持って上肢を胸の前で反対側の肩の方へ引き寄せ、肘がどこまで達するかをみる所見です。New Ballard法(Dubowitz法)の神経学的成熟度の評価項目の一つで、成熟するほど肘は正中線に届きにくくなります。この所見は受動的筋緊張から在胎週数を推定するためのものです。本例は在胎週数がすでに分かっており、麻痺の障害高位を判別する情報も得られません。さらに、損傷が疑われる上肢を他動的に大きく動かすことになるため、この時点で優先する診察ではありません。
3.引き起こし反射:仰臥位の児の両手を持って引き起こし、頭部の追従(頭部のおくれ)や上肢の屈曲をみる所見です。頸部・体幹の筋緊張や、頸定に向かう発達を評価するために用います。全身的な筋緊張の低下を疑う場面では有用ですが、片側上肢の麻痺の高さを判別する手段にはなりません。また、腕神経叢損傷が疑われる上肢を引っ張る操作になるため、この状況では避けるべきです。
4.Landau〈ランドー〉反射:児を腹臥位で水平に支えたときに、頭部を挙上して体幹と下肢を伸展させる姿勢反射です。生後3〜6か月ごろに出現し、幼児期に消失します。新生児期にはまだみられないため、生後18時間の児で確認しても評価になりません。乳児期の運動発達や姿勢制御の指標として整理しておきましょう。
5.Babinski〈バビンスキー〉反射:足底の外側を踵から足趾に向けてこすると、母趾が背屈して他の趾が開扇する反射です。成人では錐体路(中枢神経)障害の徴候ですが、乳児では錐体路の髄鞘化が未完成なため生理的に陽性となり、歩行が確立するころまでみられます。下肢の反射であり、末梢神経である腕神経叢の損傷とは関係がないため、左上肢の麻痺の評価には役立ちません。
覚えるポイント
- 巨大児(出生体重4,000 g以上)、肩甲難産、骨盤位、器械分娩は、腕神経叢麻痺と鎖骨骨折のリスク因子です。
- 片側のモロー反射欠如をみたら、圧痛・腫脹・握雪感があれば骨折、なければ腕神経叢麻痺をまず疑います。
- 上位型(Erb型、C5・C6)は上肢の内転・内旋、肘伸展、前腕回内の姿勢をとり、モロー反射は消失、手掌把握反射は保たれます。最も多い型で、予後は比較的良好です。
- 下位型(Klumpke型、C8・T1)は手指が麻痺して手掌把握反射が消失し、Horner症候群を伴うことがあります。全型は両反射とも消失し、予後不良です。
- 横隔神経麻痺(C3〜C5)の合併による呼吸障害に注意し、患側上肢は牽引しません。
- 周辺の反射・所見の位置づけは、スカーフ徴候が在胎週数評価、ランドー反射が生後数か月以降に出現、バビンスキー反射が乳児期に生理的陽性です。
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