第106回
106PM017|第106回 助産師国家試験 過去問
日齢1の新生児。頭位経腟分娩での出生時、肩甲の娩出に時間がかかりMcRoberts〈マックロバーツ〉法が実施された。出生体重4,150 g。安静時の視診では頭頸部や四肢、肢位に異常を認めなかった。把握反射はあり左右差は認めなかったが、Moro〈モロー〉反射が左右非対称だった。児に着衣しようとしたところ突然激しく啼泣したが、啼泣時の口角は左右対称でゆがみはない。児の状態で最も考えられるのはどれか。
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正解1
正答
1.鎖骨骨折
この問題のポイント
巨大児の肩甲難産の後に生じた分娩外傷を、新生児の所見から見分ける問題です。Moro反射の左右非対称は鎖骨骨折とErb麻痺のどちらにもみられます。両者を見分ける決め手は、安静時の肢位が正常であることと、着衣で上肢を動かしたときに突然激しく泣く(痛みのサイン)ことです。把握反射はErb麻痺でも保たれるため両者の鑑別点にはなりませんが、左右差がないことから、下位型(Klumpke麻痺)や全型の腕神経叢麻痺は否定でき、啼泣時の口角が対称で頭頸部に異常がないことから、顔面神経麻痺と帽状腱膜下出血も除外できます。
解説
問題文の手がかりを整理する
- 出生体重4,150 g:4,000 g以上の巨大児です。巨大児は肩甲難産の代表的な危険因子で、母体の糖尿病や肥満も危険因子になります。
- 肩甲の娩出に時間がかかりMcRoberts法を実施:肩甲難産があったことを示します。McRoberts法は、産婦の両大腿を強く屈曲させて腹部へ引き寄せる手技です。腰椎の前弯が減って腰仙角がまっすぐに近づき、恥骨結合が母体の頭側へ回転します。そのため、恥骨結合の後ろに引っかかった前在肩甲が外れやすくなります。恥骨上部の圧迫と併用されることが多い方法です。
- 肩甲難産で児に起こりやすい損傷は、鎖骨骨折、腕神経叢麻痺(Erb麻痺など)、上腕骨骨折です。娩出の遅れによる低酸素性の障害にも注意が必要です。
- 児の所見:安静時の頭頸部・四肢・肢位は正常で、把握反射に左右差はありません。Moro反射は左右非対称でした。着衣時に突然激しく泣きましたが、啼泣時の口角は対称でした。
Moro反射の非対称から鎖骨骨折とErb麻痺を見分ける
Moro反射は原始反射の一つです。頭部を急に後方へ落とすなどの刺激に対し、両上肢を伸展・外転して手を開き、続いて抱きつくように屈曲・内転します。左右非対称ということは、片側の上肢が十分に動いていないことを意味します。分娩外傷の場面では、その理由は大きく2つに分かれます。
- 神経が損傷されて動かせない:腕神経叢麻痺です。
- 痛みのために動かさない:骨折による仮性麻痺です。
Erb麻痺は、C5・C6(ときにC7)が障害される上位型の腕神経叢麻痺です。肩の外転・外旋、肘の屈曲、前腕の回外ができなくなります。そのため安静時から、肩で内転・内旋し、肘を伸展、前腕を回内、手関節を屈曲させた特有の肢位(ウェイターズチップ肢位)をとります。一方、手指は動くので把握反射は保たれます。この点は鎖骨骨折と同じなので、把握反射は両者を区別する材料になりません。また、Erb麻痺の主体は運動麻痺であり、動かしたときの強い痛みは特徴ではありません。
下位型のKlumpke麻痺(C8・T1)では、手関節・手指の屈筋や手内筋が麻痺するため、把握反射が消失します。T1の交感神経線維が障害されると、縮瞳や眼瞼下垂などのHorner症候群を伴うことがあります。C5〜T1がすべて障害される全型では、上肢全体が弛緩して動かず、把握反射も消失します。
鎖骨骨折は、分娩時の骨折で最も多いものです。神経は保たれているため、安静時の肢位は正常で、把握反射も出ます。一方、骨折部が動くと痛むため、患側上肢の自発運動が減り、Moro反射が非対称になります。着衣、抱き上げ、反射の誘発など、上肢が動いた瞬間に激しく泣くのが典型です。触診では、骨折部の圧痛、腫脹、握雪感(轢音)、鎖骨の段差を確認します。症状が軽いと見逃され、あとで仮骨による硬いしこりに触れて気づかれることもあります。
本例をこの知識に当てはめます。
- 安静時の肢位に異常がないので、ウェイターズチップ肢位をとるErb麻痺らしくありません。
- 把握反射に左右差がないことから、下位型や全型の腕神経叢麻痺は否定できます。
- 着衣時の突然の激しい啼泣は、疼痛を示します。
したがって、鎖骨骨折が最も考えられます。ただし、鎖骨骨折と腕神経叢麻痺は合併することもあるため、両方を意識して観察を続けます。
臨床での生かし方
鎖骨骨折は予後が良好で、多くは特別な整復をしなくても自然に治癒します。助産師が行うケアの中心は、患側上肢の安静と疼痛の軽減です。
- 衣服の袖を体幹側に留めるなどして、患肢の動きを抑えます。
- 着衣は患側から、脱衣は健側から行います。
- 抱き上げるときは脇の下に手を入れず、授乳や抱っこのときに患側を圧迫しないようにします。
これらの扱い方を家族にも具体的に伝え、不安を和らげることが大切です。
選択肢の確認
1.鎖骨骨折:正答。肩甲難産はこの骨折の代表的な原因です。神経は保たれているので、安静時の肢位は正常で、把握反射にも左右差が出ません。しかし骨折部が動くと痛むため、患側上肢をあまり動かさず、Moro反射が非対称になります。着衣で上肢が動いた瞬間の激しい啼泣は疼痛を示すと考えられ、本例の所見すべてと一致します。確認には、鎖骨部の圧痛・腫脹・握雪感の触診やX線撮影が行われます。
2.顔面神経麻痺:鉗子分娩や産道内の圧迫で顔面神経が障害されると、啼泣時に口角が健側へ引かれて顔がゆがみます。患側の閉眼不全や鼻唇溝の消失もみられます。安静時には目立ちにくく、泣いたときにはっきりするのが特徴です。問題文の「啼泣時の口角は左右対称」は、この鑑別のための情報です。本例では口角が対称なので当てはまりません。上肢のMoro反射の非対称も、顔面神経の障害では説明できません。
3.帽状腱膜下出血:帽状腱膜と頭蓋骨膜の間に起こる出血で、吸引分娩が主な危険因子です。骨縫合を越えて頭部全体に広がる波動性の腫脹を示し、出血量が多いと貧血や出血性ショックに至ります。そのため、頭囲の増大やバイタルサインを厳重に観察する必要があります。本例は頭頸部の視診に異常がなく、吸引分娩の記載もありません。上肢の反射の左右差も説明できないので当てはまりません。
4.Erb〈エルブ〉麻痺:肩甲難産で頸部が過度に側屈・牽引されて起こる上位型の腕神経叢麻痺(C5・C6)です。Moro反射が非対称になる点と、手指が動くので把握反射が保たれる点は本例と一致するため、最も紛らわしい選択肢です。把握反射の所見では選択肢1と区別できないので、決め手は安静時の肢位と痛みの有無です。この麻痺では安静時から、上肢の内転・内旋、肘の伸展、前腕の回内という特有の肢位がみられますが、本例は安静時の肢位に異常がありません。着衣時の激しい啼泣という疼痛所見も運動麻痺だけでは説明しにくいため、選択肢1のほうが考えやすいです。
覚えるポイント
- 肩甲難産(巨大児、母体糖尿病など)で起こりやすい児の損傷は、鎖骨骨折、腕神経叢麻痺、上腕骨骨折です。McRoberts法は肩甲難産に対する代表的な手技です。
- Moro反射の左右非対称は、鎖骨骨折とErb麻痺に共通します。「安静時の肢位は正常で、動かすと激しく泣く」なら鎖骨骨折、「内転・内旋、肘伸展、前腕回内の特有肢位」ならErb麻痺です。
- 把握反射は、Erb麻痺(C5・C6)では保たれ、Klumpke麻痺(C8・T1)や全型の腕神経叢麻痺では消失します。そのため、鎖骨骨折とErb麻痺の区別には使えず、下位型・全型を見分ける手がかりになります。Klumpke麻痺ではHorner症候群を伴うことがあります。
- 顔面神経麻痺は泣いたときに明らかになり、口角が健側へ引かれ、患側は閉眼不全になります。
- 新生児の頭部の腫脹は3つを区別します。産瘤は皮下の浮腫で、縫合を越え、数日で消失します。頭血腫は骨膜下の出血で、縫合を越えず、吸収に数週〜数か月かかり、黄疸を強めることがあります。帽状腱膜下出血は縫合を越えて広がり、出血量が多いとショックの危険があります。
- 鎖骨骨折のケアは患肢の安静が基本です。着衣は患側から・脱衣は健側から行い、脇の下を持って抱き上げないよう家族にも伝えます。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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