第105回
105AM039|第105回 助産師国家試験 過去問
世界保健機関〈WHO〉と国際連合児童基金〈UNICEF〉によって、適切な人工乳が準備できる状況下では母乳を与えないことが推奨されているのはどれか。2つ選べ。
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正解1・2
正答
1.化学療法中の乳癌
2.HIV感染
この問題のポイント
WHOとUNICEFが示した「母乳代用品の使用が医学的に認められる理由」の内容を問う問題です。WHOとUNICEFは母乳育児を原則としています。この選択肢の中で母乳を避ける理由に当たるのは、母乳を介したHIV感染の危険と、細胞傷害性の化学療法薬による児への有害作用の2つです。母乳を避ける医学的理由全体がこの2つだけという意味ではなく、母体の重症疾患や児の代謝疾患なども個別に評価します。B型肝炎・C型肝炎・結核は「授乳を続けられる」側に分類されており、ここを区別できるかが問われています。
解説
問題文の手がかり
WHOとUNICEFは、母乳育児を乳児栄養の基本として推進しています。そのうえで、人工乳の使用が医学的に正当化される状況を、2009年の文書(Acceptable medical reasons for use of breast-milk substitutes)に整理しています。この文書は「人工乳を使ってよい理由は限られている」ことを示すもので、赤ちゃんにやさしい病院運動(BFHI)の考え方と結びついています。
問題文の「適切な人工乳が準備できる状況下では」は、この文書がHIVについて付けている条件に対応します。代替栄養が次の5つを満たす場合に、母乳を避けるとされています。
- 受け入れ可能(acceptable)
- 実行可能(feasible)
- 負担可能(affordable)
- 継続可能(sustainable)
- 安全(safe)
頭文字をとってAFASSと呼びます。
文書による分類(母親側)
- 永続的に母乳を避ける可能性がある:HIV(AFASSを満たす場合)
- 一時的に母乳を避ける可能性がある:敗血症など児の世話ができない重症疾患、乳房に病変のある単純ヘルペス1型(病変が治るまで直接接触を避ける)、鎮静作用のある向精神薬・抗てんかん薬・オピオイド(より安全な代替があれば避ける)、放射性ヨウ素131、ポビドンヨードなどの過剰な使用、細胞傷害性の化学療法(治療中は授乳を中止)
- 懸念はあっても授乳を続けられる:乳房膿瘍、乳腺炎、B型肝炎、C型肝炎、結核など
児側の状態も整理されています。
- 古典型ガラクトース血症、メープルシロップ尿症:特殊ミルクが必要で、母乳は与えません。
- フェニルケトン尿症:血中フェニルアラニン値を監視しながら、特殊ミルクと母乳を併用できます。
正答に至る判断
母乳を避ける理由は、2つの型に分けると理解しやすくなります。
- 母乳そのものが感染経路となり、代替栄養でその経路を断てる場合:HIVが該当します。
- 母親が使う薬剤が母乳へ移行し、児に害を及ぼす場合:細胞傷害性の抗悪性腫瘍薬が代表です。
HIVは永続的、化学療法は治療期間中という違いはあります。しかし、どちらも母乳を与えないことが推奨されている点で共通します。
一方、B型肝炎・C型肝炎・結核では、母乳を中止しても予防効果が乏しく、母乳の利点のほうが上回ると判断されています。主な感染経路が分娩時の血液曝露や空気感染であること、児への予防接種などで感染を防げることが理由です。
なお、HIVの授乳方針は環境によって変わります。安全な水や人工乳の確保が難しい地域では、人工栄養による下痢症や栄養不良のほうが、児の生命にとって危険が大きくなります。そのため、その後のWHO指針では、母親が抗HIV療法を続けながら母乳育児を行う方針も、各国の判断で選べるとされています。問題文に「適切な人工乳が準備できる状況下では」という条件が付いているのはこのためです。日本では、次の4つが母子感染予防の柱とされています。
- 妊娠中の抗HIV療法
- 分娩時の対策(選択的帝王切開など)
- 児への抗HIV薬の予防投与
- 人工栄養
実践での意味
肝炎や結核をもつ母親に対して、助産師は安易に断乳を勧めず、適切な予防措置のもとで母乳育児を支えます。反対に、HIVや化学療法のために人工栄養を選ぶ母親には、次のような支援が大切になります。
- 乳房緊満への対応(冷罨法、医師の指示による乳汁分泌抑制薬の使用など)
- 母乳を与えられないことへの罪悪感に寄り添う心理的支援
選択肢の確認
1.化学療法中の乳癌:正答。細胞傷害性の抗悪性腫瘍薬は母乳中へ移行し、乳児に骨髄抑制などの重い有害作用を起こすおそれがあります。そのため、WHOとUNICEFの文書では、治療期間中は授乳を中止する必要があるとされています。母乳を避ける理由は疾患そのものではなく、使用する薬剤です。治療終了後に授乳を再開できるかは、薬剤が体内から消失するまでの経過を踏まえて判断します。永続的な回避とされる選択肢2とは、「一時的」である点が異なります。
2.HIV感染:正答。HIVは母乳を介して児に感染します。そのため、代替栄養がAFASSの条件を満たす場合には、母乳を避けることが推奨されています。問題文の「適切な人工乳が準備できる状況下では」は、まさにこの条件を指しています。安全な人工乳と清潔な水を確保できる日本では、人工栄養が標準的な対応です。一方、衛生環境が整わない地域では、抗HIV療法を受けながら母乳育児を行う方針がとられることがあります。
3.B型肝炎:WHOとUNICEFの文書では「授乳を続けられる状況」に分類されており、母乳を避ける対象ではありません。HBVの母子感染は、主に分娩時の血液曝露によって起こります。児に出生後早期にHBグロブリンとHBワクチンを投与すれば、母乳栄養によって感染の危険が高まることはないとされています。「予防接種を行ったうえで母乳を続ける」と理解しておきます。
4.C型肝炎:HCVの母子感染の多くは分娩周辺期に起こり、母体のウイルス量が関係すると考えられています。母乳を介した感染は明らかでなく、WHOとUNICEFの文書でも「授乳を続けられる状況」に分類されています。選択肢3と同じく、肝炎ウイルスへの感染だけを理由に母乳を中止することはありません。ただし、乳頭に亀裂や出血がある間は、その対応に注意します。
5.結核:主な感染経路は飛沫核による空気感染で、母乳を介して感染するわけではありません。そのため、WHOとUNICEFの文書では「授乳を続けられる状況」に分類されています。母親が排菌している間は、児への空気感染を防ぐために直接の接触を制限し、搾乳した母乳を与える対応がとられます。母親が服用する標準的な治療薬の多くは授乳と両立でき、児には必要に応じて予防内服が検討されます。「母子分離が必要になる場合がある」ことと「母乳が禁忌である」こととを混同しないようにします。
覚えるポイント
- WHO・UNICEFの2009年文書で、本問に該当する母親側の条件はHIV(AFASSを満たす場合に回避)と細胞傷害性の化学療法(治療中に中止)です。このほか、児の世話ができないほどの母体の重症疾患や乳房の活動性ヘルペス病変、特定の薬剤などでも一時的な回避・接触制限を検討します。
- B型肝炎・C型肝炎・結核・乳腺炎・乳房膿瘍は、授乳を続けるのが基本です。
- B型肝炎の母親から生まれた児には、日本では出生直後(12時間以内が望ましい)にHBグロブリンとHBワクチンを投与し、生後1か月・6か月にワクチンを追加します。そのうえで母乳を続けられます。
- 結核は空気感染です。排菌中は直接の接触を制限し、搾母乳を与えます。
- 児側では、古典型ガラクトース血症とメープルシロップ尿症は特殊ミルク、フェニルケトン尿症は監視下で母乳の一部併用が可能です。
- HTLV-1はWHOとUNICEFの文書には含まれませんが、母乳が主な感染経路となるため、日本では完全人工栄養が原則として勧められています。判断の軸は「母乳を介して感染するか」「薬剤が母乳へ移行して害を及ぼすか」「代替栄養を安全に確保できるか」の3つです。
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