第105回
105AM040|第105回 助産師国家試験 過去問
Aさん(32歳、初産婦)は妊娠40週6日、自然陣痛発来後に入院した。分娩は順調に進行し児頭が娩出されたが、第4回旋の後に助産師が前在肩甲の娩出を試みたところ娩出が困難な状況となった。このときの助産師の対応で正しいのはどれか。2つ選べ。
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正解2・5
正答
2.恥骨直上の腹壁を圧迫する。
5.Aさんの両側股関節を強く屈曲する。
この問題のポイント
児頭が娩出された後に前在肩甲が出てこない状況から肩甲難産と判断し、最初に行う手技を選ぶ問題です。恥骨結合の裏に骨として引っかかった前在肩甲は、引いたり押し出したりしても外れません。骨盤の向きを変えるマックロバーツ法と、肩を斜径へずらす恥骨上部圧迫法で外します。あわせて、牽引や努責を強めると損傷が増えること、児頭の押し戻しは最終手段であることも問われています。
解説
問題文から読み取ること
- 児頭が娩出され、第4回旋(外回旋)も終わっている:外回旋は、肩甲が骨盤内で回旋して出口部の前後径にそろうのに伴って、児頭が回る動きです。正常ではこの時点で肩甲が骨盤出口まで下降しています。そのため、児頭を軽く下方へ誘導すれば、前在肩甲が恥骨弓の下をくぐって娩出されます。
- その前在肩甲の娩出が「困難」:通常の軽い牽引で肩が出ない状態で、肩甲難産を示します。娩出された児頭が会陰側へ引き戻されるように見える所見(タートルサイン)を伴うこともあります。
- 妊娠40週6日、自然陣痛で順調に進行した初産婦:巨大児や糖尿病などの明らかな危険因子は示されていません。肩甲難産は危険因子のない分娩でも突然起こり、予測が難しい緊急事態です。
肩甲難産で何が起きているか
肩甲難産では、児頭娩出後に前在肩甲が母体の恥骨結合に引っかかり、肩が娩出されなくなります。まれに後在肩甲が仙骨岬角に引っかかることもあります。
この嵌入は、骨盤の面ごとに長い径が異なることから理解できます。
- 骨盤入口部は横長で、横径>斜径>前後径(産科真結合線)の順となり、前後径が最も短くなります。
- 峡部と出口部は縦長で、前後径のほうが横径より長くなります。
正常な分娩では、肩甲は入口部に横径ないし斜径の向きで進入します。その後、下降しながら回旋し、出口部で前後径にそろいます。これが、娩出された児頭の外回旋として現れます。
肩甲難産では、肩甲が入口部の最も狭い前後径のまま下降しようとします。そのため、前在肩甲が恥骨結合の後面(上縁)に嵌入します。骨どうしが引っかかっているので、上から押す力や下から引く力を加えても解除されません。解除するには、骨盤の向きを変える、肩甲を斜径へ回旋させる、肩幅を小さくする、といった操作が必要です。
児頭が出た後は、臍帯が児の体幹と産道の間で圧迫されやすく、児は急速に低酸素に陥ります。児の合併症には次のものがあります。
- 腕神経叢麻痺(エルブ麻痺など)
- 鎖骨骨折・上腕骨骨折
- 低酸素性虚血性脳症、死亡
母体には、弛緩出血などの分娩後異常出血や、重度の会陰・腟壁裂傷が起こりやすくなります。
初期対応の組み立て
- 医師・他のスタッフ・新生児蘇生の担当者を呼び、児頭娩出の時刻を確認・記録します。
- 「してはいけないこと」を守ります。強い牽引をしない、努責させない、子宮底を押さない(クリステレル胎児圧出法は禁忌)の3つです。
- 最初に行うのはマックロバーツ法と恥骨上部圧迫法です。腟内に手を入れずにすぐ始められ、侵襲が少なく、併用すると解除される可能性が高まります。
- 無効な場合は、次の手技へ進みます。腟内に手を入れて肩を回旋させる手技(ルービン法、ウッズのスクリュー法など)、後在上肢の娩出、四つん這い(ギャスキン法)などです。順序は指針によって多少異なります。会陰切開は、骨の嵌入そのものを解除する手技ではありません。腟内操作のスペースを確保する目的で検討します。
- それでも娩出できないときの最終手段は、児頭を押し戻して帝王切開とするザバネリ法や、鎖骨切断などです。
マックロバーツ法は、産婦の両大腿を腹部へ強く引き寄せ、股関節を過屈曲させる方法です。腰椎と仙骨のなす角(腰仙角)がまっすぐになり、恥骨結合が頭側へ回転します。骨盤の向きが変わることで、嵌入していた前在肩甲が恥骨結合の下へ滑り出しやすくなります。両脚をそれぞれ介助者が支えると確実に行えます。
恥骨上部圧迫法は、恥骨結合のすぐ上の腹壁に手を当てて行います。児の背中がある側から、前在肩甲の後面を児の胸側へ向けて斜め下方に押します。肩を内転させて肩幅を小さくし、斜径へ回旋させることで、恥骨結合の下をくぐらせます。押し方には、持続的に押す方法と、心臓マッサージのように断続的に押す方法があります。押す位置が子宮底ではなく恥骨直上であることが決定的に重要です。
児の娩出後は、必要に応じて直ちに新生児蘇生を行います。あわせて、上肢の動き、肢位、モロー反射の左右差を観察し、腕神経叢麻痺や鎖骨骨折の有無を確認します。母体については、子宮収縮、出血量、裂傷を注意深く観察します。
助産師の業務範囲との関係
保健師助産師看護師法第38条は、助産師が産婦や胎児などに異常を認めたときの対応を定めています。医師の診療を求めさせることを要し、自ら処置をしてはならない、というものです。ただし、臨時応急の手当はこの限りではありません。肩甲難産は異常なので、直ちに医師へ連絡します。そのうえで、分秒を争う場面でのマックロバーツ法や恥骨上部圧迫法は、医師の到着を待つ間に助産師が行う臨時応急の初期対応にあたります。
選択肢の確認
1.児頭を腟内に押し戻す。:児頭を屈曲させながら腟内へ押し戻し、緊急帝王切開で娩出する方法をザバネリ法と呼びます。マックロバーツ法、恥骨上部圧迫法、腟内での回旋手技、後在上肢の娩出などがすべて無効だった場合にだけ検討される最終手段です。手術・麻酔の準備と、医師による実施が前提になります。肩の娩出が困難と分かった直後に助産師が行う対応ではないため、この場面では不適切です。
2.恥骨直上の腹壁を圧迫する。:正答。恥骨上部圧迫法です。恥骨結合のすぐ上に手を当て、児の背中がある側から、前在肩甲の後面を児の胸側へ向けて斜め下方に押します。肩幅を狭めながら斜径へ回旋させ、恥骨結合の下から外します。マックロバーツ法と同時に行う第一選択の手技です。圧迫部位を子宮底と取り違えると、禁忌の子宮底圧迫になってしまいます。部位の違いをはっきり区別して覚えます。
3.児頭の下方への牽引を強める。:前在肩甲は恥骨結合に骨として引っかかっているため、児頭を強く引いても嵌入は解除されません。かえって児の頸部が強く側屈し、腕神経叢が引き伸ばされて麻痺を起こす危険が高まります。正常分娩で前在肩甲を出すときの軽い下方への誘導と、肩甲難産で牽引を「強める」ことは別物です。肩甲難産と判断したら、牽引は児の脊柱の軸に沿った軽いものにとどめ、強い牽引や横方向への牽引は行いません。
4.努責を強めるようAさんに言う。:努責で児を押し下げると、恥骨結合に引っかかった前在肩甲がさらに強く嵌入し、解除が難しくなります。子宮底圧迫が禁忌とされるのと同じ理由です。手技を行っている間は努責を控えるよう説明し、呼吸を整えて協力してもらいます。努責を促すのは、肩甲の嵌入がない通常の分娩第2期で、娩出力を補いたい場合の対応です。
5.Aさんの両側股関節を強く屈曲する。:正答。マックロバーツ法です。両大腿を腹部へ強く引き寄せると、腰仙角がまっすぐになり、恥骨結合が頭側へ回転します。その結果、前在肩甲が恥骨結合の下へ外れやすくなります。産婦への侵襲が少なくすぐに実施できるため、恥骨上部圧迫法と組み合わせて最初に行います。
覚えるポイント
- 骨盤入口部は横長(横径>斜径>前後径)で、峡部と出口部は縦長です。肩甲は入口部を横径ないし斜径の向きで通り、出口部で前後径にそろいます(これが児頭の外回旋)。入口部の前後径のまま下降すると、前在肩甲が恥骨結合の後面に嵌入して肩甲難産になります。
- 肩甲難産は、児頭娩出後に通常の軽い牽引で肩が娩出されない状態で、タートルサインがみられることがあります。危険因子は巨大児(4,000g以上)、母体の糖尿病・肥満、分娩第2期遷延、吸引・鉗子分娩、肩甲難産の既往などです。ただし、危険因子がなくても起こります。
- 第一選択はマックロバーツ法(両股関節の強い屈曲)+恥骨上部圧迫法(恥骨直上から児の胸側へ斜め下方)で、同時に応援要請と時刻の記録を行います。強い牽引・横方向への牽引、努責の促し、子宮底圧迫(クリステレル胎児圧出法)は行いません。
- 無効時は、腟内での回旋手技(ルービン法、ウッズ法)、後在上肢の娩出、四つん這い(ギャスキン法)へ進みます。児頭を押し戻して帝王切開とするザバネリ法は最終手段です。
- 児の合併症では、腕神経叢麻痺の2型を区別します。エルブ麻痺(C5〜C6)では上肢が内転・内旋し、患側のモロー反射は消失しますが、把握反射は保たれます。クルンプケ麻痺(C8〜T1)では手指が麻痺し、把握反射が消失します。鎖骨骨折でもモロー反射に左右差が出ます。
- 保健師助産師看護師法第38条により、異常時は医師の診療を求めさせるのが原則です。ただし臨時応急の手当は、助産師が行うことができます。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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