第105回
105PM012|第105回 助産師国家試験 過去問
Aさん(19歳、初産婦)は妊娠22週のときに初めて産婦人科病院を受診した。妊娠初期にパートナー(17歳、高校生)から支援できないと告げられ、その後連絡をとっていない。実父とは死別しており、実母とは良好な関係が築けず疎遠だという。Aさんは妊婦健康診査の予約日に来院しないこともあり、助産師は関係機関と連携し支援していた。妊娠38週に正常分娩し、母子ともに経過は良好で、産褥4日に助産師から退院指導を行うことになった。このときの助産師の対応として適切なのはどれか。
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正解3
正答
3.市町村の保健師に退院指導への同席を依頼する。
この問題のポイント
身近な支援者がいない若年産婦の退院支援で、誰とどうつながるかを問う問題です。手がかりは次の3点です。
- 年齢と支援者:19歳である、パートナーが支援を断って連絡が途絶えている、実母と疎遠である。
- 受診行動:初診が妊娠22週と遅く、健診の予約日に来院しないことがある。
- 支援の経過:妊娠中から関係機関と連携していた。
ここからAさんを特定妊婦として地域の継続支援が必要な人と捉えられるかが鍵です。そのうえで、支援が途切れやすい退院という節目に、地域の公的な支援者へ直接引き継ぐ対応を選びます。
解説
事例の整理
- 年齢・出産歴:19歳の初産婦で、若年での初めての出産です。
- 妊娠中の経過:初診は妊娠22週と遅く、妊婦健康診査の予約日に来院しないこともありました。受診行動や自己管理が安定していないことがうかがえます。
- 支援者:パートナー(17歳、高校生)は妊娠初期に支援できないと告げ、その後連絡をとっていません。実父は死別し、実母とは疎遠です。家族の中に頼れる支援者がいません。
- 支援の経過:助産師は妊娠中から関係機関と連携していました。
- 分娩・産褥:妊娠38週に正常分娩し、母子とも経過は良好です。産褥4日に退院指導を行います。
身体面は順調ですが、社会的なリスクが大きい事例です。退院すると、Aさんは支援者のいない環境で昼夜を問わない育児を始めることになります。産後数週間から数か月は、疲労、育児不安、産後の抑うつ、孤立が重なりやすい時期です。支援が途切れると、養育の困難や子ども虐待につながるおそれがあります。
特定妊婦と地域の支援体制
特定妊婦は児童福祉法で「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」と定義されています。典型例は次のような妊婦です。
- 若年妊娠
- 妊娠届出の遅れ、妊婦健康診査の未受診
- 経済的困窮
- パートナーや家族の支援がない
- 望まない妊娠
- 精神疾患がある
Aさんはこのうち複数に当てはまります。
特定妊婦は、要保護児童や要支援児童とともに、要保護児童対策地域協議会の支援対象です。支援の中心は市町村で、母子保健担当の保健師が主に関わります。退院後に市町村が使える主な事業は次のとおりです。
- 新生児訪問指導(母子保健法)
- 乳児家庭全戸訪問事業(生後4か月までの乳児のいるすべての家庭が対象)
- 養育支援訪問事業(養育支援が特に必要な家庭が対象)
- 産後ケア事業
- 経済的支援の制度への案内
また2016年の児童福祉法改正で、病院・診療所などが支援を要する妊婦や児童を把握した場合、市町村へ情報提供するよう努めることが定められました。この情報提供は守秘義務の規定に妨げられないとされています。医療機関から地域へ情報をつなぐことは、制度上も求められている役割です。
退院指導に保健師が同席する意味
情報を書面で送るだけでは、Aさんにとって保健師は「知らない人」のままです。受診が途切れがちだった経過を考えると、退院後の家庭訪問を断る、連絡に応じないといった形で支援が途切れる可能性があります。
入院中の退院指導に保健師が同席すると、次の効果が期待できます。
- Aさんが保健師と顔を合わせ、「退院後に相談できる人」として認識できます。
- 生活環境、育児物品、経済状況、Aさんの不安を病院と地域が同時に把握できます。
- 訪問の時期や連絡方法を、その場でAさんと一緒に決められます。
同席はAさんの了解を得て行い、「監視」ではなく「応援する人が増える」ことが伝わるよう説明します。
支援者を選ぶ考え方
退院支援では、まず家族などのインフォーマルな支援者がいるかを確認します。Aさんのようにそれが機能しない場合は、守秘義務を負い継続的に関われる公的な支援者を軸に体制を組みます。育児サロンなどの地域資源は、その体制の中で、本人の希望に合わせて紹介していくものです。
なお出題当時、妊娠期から子育て期の相談の拠点は子育て世代包括支援センター(法律上は母子健康包括支援センター)でした。現在は2022年の児童福祉法等の改正により、2024年4月から子ども家庭総合支援拠点と一体化したこども家庭センターの設置が市町村の努力義務になっています。どちらの体制でも、市町村の保健師が中心となって支援する点は変わりません。
選択肢の確認
1.実母に支援を依頼するようAさんに促す。:実母とは良好な関係が築けず疎遠だと、Aさん自身が話しています。その状況で助産師が依頼を促すと、Aさんに心理的な負担をかけます。断られた場合には、孤立感を深めるおそれもあります。実母がどの程度支援できるかも分からず、退院後の生活を実母に託す根拠がありません。Aさんが自ら関係の修復を望んでいる場合に、その意思を支えることは意味があります。ただしそれは本人の意向を確かめてから行うもので、退院時に助産師から一方的に働きかける対応ではありません。
2.支援を依頼するためパートナーに連絡する。:パートナーは妊娠初期に支援できないと明言し、その後Aさんとも連絡をとっていません。本人の同意なく医療者が第三者に出産の事実を伝えることは、守秘義務とプライバシーの点で問題があります。なお助産師の守秘義務は刑法の秘密漏示罪で規定されています。また相手は17歳の高校生で、継続的な育児支援の担い手とは考えにくい状況です。子の認知や養育費など父親との関係の整理は、Aさんが望む場合に、地域の相談窓口などと連携して本人主体で進めるものです。
3.市町村の保健師に退院指導への同席を依頼する。:正答。退院前にAさんと地域の保健師が顔を合わせることで、支援が途切れやすい退院直後に地域の支援へ移りやすくなります。病院と地域が情報と今後の計画を共有できるため、新生児訪問や養育支援訪問などに円滑につなげられます。妊娠中からの関係機関との連携を、退院後の継続支援へ引き継ぐ対応です。
4.育児サロンを主催している住民に退院時の迎えを依頼する。:育児サロンは、地域で親子が集まり交流できる場です。退院後の孤立を防ぐ資源として、Aさんに紹介する価値はあります。しかし主催する住民は、守秘義務を負う公的な支援者ではありません。病院がAさんの出産や退院日を住民に伝えて送迎を頼むことは、個人情報の扱いとして不適切です。送迎の依頼は住民の役割を超えるうえ、トラブル時の責任の所在もあいまいです。こうした地域資源は、保健師を通じて、あるいはAさんに情報を提供し、本人が選んで利用できる形でつなぐのが適切です。
覚えるポイント
- 特定妊婦は児童福祉法に定められた「出産前から支援が特に必要な妊婦」です。若年、妊娠届出の遅れ・健診の未受診、支援者の不在、経済的困窮、望まない妊娠などが典型例です。
- 要保護児童対策地域協議会の支援対象は、要保護児童・要支援児童・特定妊婦の3つです。
- 退院後に市町村が行う主な支援は、新生児訪問指導(母子保健法)、乳児家庭全戸訪問事業(生後4か月まで)、養育支援訪問事業、産後ケア事業です。
- 身近な支援者がいない産婦では、退院前に公的な支援者(市町村の保健師)と本人を直接つなぎます。本人の同意と意思の尊重を前提とし、疎遠な家族や第三者へ医療者が勝手に連絡しないようにします。
- 守秘義務の根拠は職種で異なります。助産師は刑法の秘密漏示罪、保健師・看護師・准看護師は保健師助産師看護師法です。支援を要する妊婦・児童についての医療機関から市町村への情報提供は、守秘義務の規定に妨げられません。
- 出題当時の相談拠点は子育て世代包括支援センターでした。現在は2024年4月からのこども家庭センターが、母子保健と児童福祉を一体的に担います。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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