第105回
105PM029|第105回 助産師国家試験 過去問
排卵誘発薬の使用による卵巣過剰刺激症候群のリスク因子となるのはどれか。2つ選べ。
解答・解説を見る
正解1・5
正答
1.若年
5.多囊胞性卵巣症候群の合併
この問題のポイント
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)は、排卵誘発によって多数の卵胞が同時に発育し、その後のhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の作用で血管透過性が高まって起こる、治療が原因の合併症です。リスク因子は卵巣が刺激に過剰に反応しやすい条件です。卵胞の予備が多い若年と、小卵胞が多数存在する多囊胞性卵巣症候群(PCOS)がその代表です。肥満はむしろ刺激への反応を鈍らせる方向に働くこと、流産の既往や薬剤アレルギーは卵巣の反応性そのものと関係しないことを見抜けるかが鍵になります。
解説
手がかりは、問題文の「排卵誘発薬の使用による」という限定です。OHSSは、薬剤に対する卵巣の反応が強すぎることで起こります。そのため、「卵巣が薬剤に強く反応しやすい条件はどれか」という視点で選択肢を見れば、答えにたどり着けます。
病態の流れ
OHSSは次の順序で起こります。
- 排卵誘発薬を使うと、複数の卵胞が同時に発育します。主な原因はゴナドトロピン製剤で、クロミフェンなどの経口薬でも起こりますが頻度は低めです。
- 排卵を起こすためにhCGを投与するか、妊娠が成立して絨毛からhCGが分泌されると、黄体化した多数の卵胞から血管内皮増殖因子(VEGF)などが過剰に放出されます。
- これにより毛細血管の透過性が高まり、血管内の水分や蛋白が腹腔や胸腔へ漏れ出します。
その結果、次の症状や合併症が生じます。
- 卵巣の腫大:腹痛、腹部膨満、茎捻転や破裂の危険
- 腹水・胸水:急な体重増加、腹囲の増大、呼吸困難
- 循環血漿量の減少と血液濃縮:ヘマトクリットの上昇、尿量の減少、腎機能障害
- 凝固能の亢進:血栓塞栓症(重症例で生命を脅かします)
hCGが引き金になるため、トリガーのhCG投与後に起こる早発型と、妊娠成立に伴う晩発型があります。妊娠、とくに多胎妊娠では内因性hCGが増え続けるため、重症化・遷延しやすくなります。
リスク因子の考え方
リスク因子に共通するのは「卵巣予備能が高く、刺激に対して卵胞が一斉に育ちやすい」ことです。
- 若年
- PCOS
- 抗ミュラー管ホルモン(AMH)が高い、または胞状卵胞数が多い
- OHSSの既往
誘発周期の最中であれば、発育卵胞数が多いことや、血中エストラジオールの急上昇・高値が危険のサインになります。やせ(低体重)を挙げる資料もありますが、若年やPCOSほど根拠は一貫していません。反対に、BMIが高いと卵巣の反応は鈍くなる傾向があり、肥満はリスク因子に含まれません。
予防と看護への生かし方
高リスクの女性には、次のような予防策がとられます。
- ゴナドトロピンを低用量から少しずつ増やす(低用量漸増法)
- 卵胞を最終成熟させるトリガーに、hCGの代わりにGnRHアゴニストを用いる
- 新鮮胚移植を見送って全胚を凍結し、妊娠によるhCGの上昇を避ける
- 反応が過剰な周期は、hCGを投与せずに中止する
看護では、体重、腹囲、尿量、腹部膨満感、腹痛、悪心、息苦しさを本人が毎日確認できるよう指導し、悪化したら早めに受診するよう伝えます。腫大した卵巣の茎捻転や破裂を防ぐため、激しい運動や性交は控えてもらいます。脱水は血液濃縮と血栓を助長するので、極端な水分制限は避けるよう説明します。不妊治療後の妊娠初期の女性を妊婦健診や相談で担当する助産師にとっても、OHSSの経過中である可能性を念頭に置くことは重要です。
選択肢の確認
1.若年:正答。年齢が若いほど卵巣に残っている卵胞が多く、超音波で数える胞状卵胞数やAMHも高い傾向にあり、卵巣予備能が高い状態です。そのため同じ量の薬剤でも多数の卵胞が一斉に発育しやすく、OHSSを起こしやすくなります。反対に高年の女性では卵巣の反応が乏しくなり、採卵数が少ない「低反応」がむしろ課題になります。
2.肥満:BMIが高い状態は、卵巣を刺激に過剰反応させる条件ではありません。むしろ卵巣の反応は鈍くなり、ゴナドトロピンの必要量が増え、刺激期間が長くなり、採取できる卵子も少なくなる傾向があります。PCOSでも、BMIが高いとクロミフェンが効きにくい(クロミフェン抵抗性)ことが知られています。過剰反応とは逆向きの影響なので、OHSSのリスク因子には挙げられていません。BMIの高さは排卵障害や、妊娠糖尿病・妊娠高血圧症候群のリスク因子として重要なので、それと取り違えないようにします。PCOSにはBMIの高い例も含まれますが、OHSSの危険をもたらすのは体重ではなく、多数の小卵胞というPCOS自体の特徴です。
3.流産の既往:流産を経験しているかどうかは、不育症の評価や次回妊娠の管理で重要になる、妊娠経過に関する情報です。流産の原因として最も多いのは胎児(胎芽)の染色体異常です。流産を繰り返す場合には、夫婦の染色体構造異常、子宮形態異常、抗リン脂質抗体症候群などが調べられます。いずれも卵巣が排卵誘発薬にどう反応するかとは関係しないため、OHSSのリスク因子にはなりません。OHSSのリスク評価で確認すべき「既往」は、OHSSそのものの既往です。
4.薬剤アレルギーの既往:アレルギーは免疫を介した過敏反応であり、その既往は薬剤投与時のアナフィラキシーなどに備えるために確認する情報です。OHSSは免疫学的な過敏反応ではなく、卵胞を育てるという薬剤本来の作用が卵巣で強く出すぎた結果です。そのためアレルギー歴はOHSSの発症の予測には役立たず、リスク因子にはなりません。ただし、排卵誘発薬を含むあらゆる薬剤の投与前にアレルギー歴を確認すること自体は、安全管理の基本です。
5.多囊胞性卵巣症候群の合併:正答。PCOSでは、小さな卵胞が卵巣の辺縁に多数連なって並び(超音波でのネックレスサイン)、AMHも高値になりやすい状態です。排卵障害の治療として排卵誘発を受ける機会が多い一方で、刺激に対して多数の卵胞が同時に反応しやすく、単一の卵胞だけを育てることが難しいのが特徴です。OHSSの最も重要なリスク因子の一つであり、経口薬から開始する、ゴナドトロピンは低用量漸増法で用いる、といった配慮がとられます。出題当時に用いられていた日本産科婦人科学会の診断基準(2007年)は、①月経異常、②多囊胞卵巣、③血中男性ホルモン高値またはLH基礎値高値かつFSH基礎値正常、の3項目をすべて満たすものです。
覚えるポイント
- OHSSのリスク因子は「卵巣がよく反応する条件」です。若年、PCOS、AMH高値・胞状卵胞数が多いこと、OHSSの既往が該当します。
- 誘発中の危険サインは、発育卵胞数の多さと血中エストラジオールの急上昇・高値です。hCG投与の見送りや周期中止の判断材料になります。
- 増悪因子はhCGです。トリガーのhCGと妊娠成立による内因性hCGが関わり、多胎妊娠では重症化しやすくなります。
- 病態の本質は血管透過性の亢進です。腹水・胸水、血液濃縮(ヘマトクリット上昇)、乏尿、血栓症、卵巣腫大による茎捻転に注意します。
- 観察と指導の要点は、体重・腹囲・尿量・腹部膨満・呼吸困難の毎日の確認です。あわせて脱水を避け、激しい運動と性交を控えるよう伝えます。
- 肥満は卵巣の過剰反応を招く条件ではありません。むしろ刺激への反応が鈍くなり、ゴナドトロピンの必要量が増える傾向があるため、OHSSのリスク因子ではありません(排卵障害や妊娠合併症のリスク因子として区別します)。流産の既往と薬剤アレルギー歴は、卵巣の反応性そのものと関係しません。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する(medixmatch2025@gmail.com)までお知らせください。確認して修正します。
解いた記録を残して、苦手な問題をもう一度。
学習アプリなら、この問題の解答記録・メモ・暗記カード化を使えます。