第106回
106AM008|第106回 助産師国家試験 過去問
正常妊娠に伴う肺機能の変化で非妊時に比べ妊娠後期に減少するのはどれか。
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正解4
正答
4.機能的残気量
この問題のポイント
妊娠後期の呼吸機能の変化を、肺気量分画のどの部分が増え、どの部分が減るかで問う問題です。手がかりは「妊娠後期」と「減少する」の2語です。増大した子宮が横隔膜を押し上げると、安静呼気位より下の部分である予備呼気量と残気量が減ります。この2つの和である機能的残気量が減少すると判断できれば正答できます。
解説
肺気量分画の整理
まず、スパイロメトリーの分画を確認します。境目になるのは安静呼気位(安静時に息を吐き終えた位置)です。
- 最大吸気量=1回換気量+予備吸気量(安静呼気位から最大吸気位までの量)
- 機能的残気量=予備呼気量+残気量(安静呼気位で肺に残っている量)
- 肺活量=予備吸気量+1回換気量+予備呼気量
- 全肺気量=肺活量+残気量=最大吸気量+機能的残気量
妊娠後期に起こる構造の変化
妊娠が進むと、増大した子宮に押されて横隔膜が約4 cm挙上します。すると安静呼気位での肺気量が小さくなり、予備呼気量と残気量がどちらも減ります。その結果、機能的残気量は非妊時より約2割減少します。
一方で、胸郭は横径と前後径が広がり、肋骨下角も開きます。胸郭の靱帯や肋軟骨がホルモンの影響でゆるむことも関係しています。この代償があるため、全肺気量はほぼ保たれ、減っても軽度にとどまります。全肺気量がほぼ変わらずに機能的残気量だけが減るので、その差にあたる最大吸気量は増加します。肺活量は、予備呼気量の減少と吸気側の増加が相殺されるため、ほとんど変化しません。横隔膜の上下の動きそのものは妨げられないことも覚えておきましょう。
換気の亢進
妊娠中は、プロゲステロンが呼吸中枢の二酸化炭素に対する感受性を高めます。そのため1回換気量は妊娠初期から増え、後期には非妊時の3〜4割増し程度になります。呼吸数はほとんど変わらないので、分時換気量の増加はおもに1回換気量の増加によるものです。
換気が増えると、動脈血二酸化炭素分圧は30 mmHg前後まで低下します。腎臓が重炭酸イオンの排泄を増やしてこれを代償するため、pHはわずかにアルカリ側に保たれます(代償された呼吸性アルカローシス)。母体側の二酸化炭素分圧が低いと、胎児から母体へ二酸化炭素が移りやすくなるという利点があります。また、酸素消費量は約2割増加します。こうした換気の変化により、妊婦は病気がなくても息切れを感じやすくなります(生理的呼吸困難)。
臨床での意味
機能的残気量は、呼吸が止まったときの肺内の酸素の蓄えです。妊婦ではこの蓄えが少なく、しかも酸素消費量が多いため、無呼吸になると短時間でSpO2が低下します。この点は、帝王切開の全身麻酔導入、子癇発作、心肺蘇生のときに、事前の十分な酸素化と迅速な気道確保が重視される根拠になります。
仰臥位では子宮の重みで機能的残気量がさらに減り、仰臥位低血圧症候群も起こりやすくなります。そのため、呼吸が苦しいと訴える妊婦には、セミファウラー位や側臥位をとってもらうのが基本です。ただし、次のような場合は生理的な息切れとは考えず、肺塞栓症、周産期心筋症による心不全、肺水腫などを疑って報告します。
- 安静時にも呼吸困難がある
- SpO2が低下している
- 頻脈や胸痛を伴う
- 急に症状が出現した
選択肢の確認
1.肺活量:横隔膜の挙上によって予備呼気量は減りますが、胸郭の横径と前後径が広がって吸気側の容量(選択肢3)が増えるため、差し引きでほとんど変化しません。非妊時と比べて減少する項目には当たりません。「子宮に押されて肺が小さくなるので、この量も減るはず」と考えがちですが、胸郭の拡大による代償を見落とさないことが大切です。
2.1回換気量:プロゲステロンが呼吸中枢の二酸化炭素への感受性を高めるため、妊娠初期から増加します。後期には非妊時より3〜4割程度多くなるので、減少ではなく増加です。呼吸数はほぼ一定なので、分時換気量の増加もおもにこの量の増加によって生じます。「息苦しいから呼吸が浅くなる」と取り違えないようにしましょう。
3.最大吸気量:安静呼気位から最大吸気位までの量で、全肺気量から選択肢4を引いた値にあたります。全肺気量がほぼ保たれたまま選択肢4が減るため、この量は非妊時より増加します。減少するのは安静呼気位より下の部分であり、上の部分ではない、という位置関係で区別しましょう。
4.機能的残気量:正答。増大した子宮によって横隔膜が約4 cm押し上げられ、安静呼気位での肺気量が小さくなります。その構成要素である予備呼気量と残気量がどちらも減るため、この量は非妊時より約2割減少します。4つの選択肢のうち、妊娠後期に減少するのはこれだけです。臨床的には、無呼吸時の酸素の蓄えが少なく、低酸素血症に陥りやすいことを意味します。
覚えるポイント
- 分画の境目は安静呼気位です。上側が最大吸気量、下側が機能的残気量(予備呼気量+残気量)で、両者の和が全肺気量です。
- 妊娠後期に減るものは、機能的残気量(約2割)、予備呼気量、残気量です。全肺気量は、ほぼ不変かわずかな減少にとどまります。
- 増えるものは1回換気量(3〜4割程度)、分時換気量、最大吸気量、酸素消費量(約2割)です。変わらないものは肺活量、呼吸数、1秒率です。
- プロゲステロンの作用で換気が亢進し、PaCO2は30 mmHg前後に下がります。重炭酸イオンの低下で代償され、代償された呼吸性アルカローシスになります。
- 機能的残気量の低下と酸素消費量の増加が重なるため、妊婦は無呼吸で急速に低酸素になります。仰臥位ではさらに悪化するので、セミファウラー位や側臥位が基本です。
- 息切れは生理的なことが多いですが、安静時の呼吸困難、SpO2低下、頻脈、胸痛があれば、肺塞栓症や心不全を疑います。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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