第106回

106AM009|第106回 助産師国家試験 過去問

単純拡散によって胎盤を通過するのはどれか。

解答・解説を見る

正解2

正答

2.酸素

この問題のポイント

胎盤で物質がどのような様式で運ばれるか(単純拡散、促進拡散、能動輸送、受容体を介した輸送)を問う問題です。判断の鍵は「単純拡散」の定義です。単純拡散は、輸送体もエネルギーも使わず、濃度(分圧)の高い側から低い側へ物質が移動する様式を指します。分子が小さく脂溶性の高い物質が該当し、その代表がガスであると分かれば正答できます。

解説

胎盤関門の構造
母体血は絨毛間腔に流れ込み、胎児血は絨毛の中の毛細血管を流れます。両者は直接混ざりません。間には、合胞体栄養膜(シンシチオトロホブラスト)、細胞性栄養膜、絨毛間質、胎児毛細血管内皮があり、これらが胎盤関門を形づくっています。妊娠が進むと細胞性栄養膜が減って関門は薄くなり、交換面積も増えるため、物質交換の効率が高まります。

胎盤での輸送様式(4つを区別する)

  • 単純拡散:輸送体もエネルギーも使わず、濃度勾配に従って膜を通り抜けます。低分子で脂溶性の物質が通りやすく、酸素、二酸化炭素、水、尿素のほか、多くの薬物、アルコール、吸入麻酔薬などが該当します。
  • 促進拡散:勾配に従う点は単純拡散と同じですが、輸送体(担体)が必要です。代表はグルコースで、輸送体の数に上限があるため、輸送量に頭打ち(飽和)が生じます。
  • 能動輸送:輸送体とエネルギーを使い、濃度勾配に逆らってでも胎児側へ運びます。アミノ酸、カルシウム、鉄、水溶性ビタミンなどが該当し、胎児の血中濃度が母体より高く保たれます。
  • 受容体を介した輸送(飲作用、トランスサイトーシス):大きな分子を受容体で捕らえ、小胞として細胞を通り抜けさせます。代表はIgGです。

酸素の移行を支えるしくみ
単純拡散による移動量は、分圧差と交換面積が大きいほど、また膜が薄いほど多くなります。胎児は母体より低い酸素分圧の環境にいます。それでも十分な酸素を得られるのは、次の仕組みがあるためです。

  • 胎児ヘモグロビン(HbF)は酸素親和性が高く、酸素解離曲線が左方移動しています。
  • 胎児のヘモグロビン濃度が高くなっています。
  • 二重のボーア効果がはたらきます。母体側は胎児から二酸化炭素を受け取って酸素を放しやすくなり、胎児側は二酸化炭素を手放して酸素を取り込みやすくなります。

ガス交換は胎盤への血流量にも強く左右されます。臨床では、次のような状況で胎児への酸素供給が減ります。

  • 仰臥位低血圧症候群
  • 過強陣痛
  • 母体の低酸素血症

胎児機能不全が疑われるときに左側臥位や母体への酸素投与を行うのは、この理屈に基づいています。

薬物の胎盤通過
薬物の多くは単純拡散で通過します。低分子、脂溶性、非イオン型、蛋白非結合型の薬物ほど移行しやすくなります。一方、インスリンやヘパリンのような大分子はほとんど通過しないため、妊娠中の血糖管理や抗凝固療法に用いられます。ワルファリンは胎盤を通過し、催奇形性があるため妊娠中は避けます。

IgGの移行と臨床
IgGの移行は妊娠後期に増え、新生児に受動免疫をもたらします。早産児はこの移行が不十分なため、感染に弱くなります。母体由来のIgGは生後数か月で減少し、生理的に低い時期を迎えます。

母体の抗体が有害に働く場合もあります。

  • Rh(D)不適合妊娠では、抗D抗体(IgG)が胎児へ移行して溶血を起こします。
  • バセドウ病の母体では、TRAbが移行して新生児甲状腺機能亢進症を起こすことがあります。

IgMは胎盤を通過しません。そのため、臍帯血でIgMが高値であれば、胎児自身がつくった抗体と考えられ、子宮内感染を疑う手がかりになります。

選択肢の確認

1.IgG:絨毛の合胞体栄養膜細胞にある新生児Fc受容体(FcRn)に結合し、小胞として細胞内に取り込まれます。その後、細胞を通り抜けて胎児側に放出されるという、受容体を介した輸送(トランスサイトーシス、飲作用)で運ばれます。分子量約15万の大きなタンパク質で、濃度差だけで膜を通り抜けることはできないため、単純拡散には当たりません。同じ免疫グロブリンでも、五量体のIgMや分泌型のIgAは胎盤を通過しない点と区別して覚えます。

2.酸素:正答。母体血(絨毛間腔)と胎児血の分圧差に従い、輸送体もエネルギーも使わずに胎盤関門を通過する、単純拡散の代表的な物質です。低分子のガスで膜を容易に透過するため、移行量は分圧差、交換面積、胎盤血流量によって決まります。胎児から母体へ向かうCO2も同じ機序で移動します。

3.アミノ酸:胎児の成長に欠かせない物質で、胎児血中の濃度は母体血より高く保たれています。濃度勾配に逆らって胎児側へ送る必要があるため、合胞体栄養膜の輸送体がエネルギーを使う能動輸送で取り込みます(ナトリウムの濃度勾配を利用する二次性能動輸送を含みます)。輸送体とエネルギーを必要とする点で単純拡散とは異なり、該当しません。カルシウム、鉄、水溶性ビタミンも、能動的に運ばれる物質として一緒に問われます。

4.グルコース:胎児の主要なエネルギー源で、合胞体栄養膜のブドウ糖輸送体(主にGLUT1)を介して母体側から胎児側へ運ばれます。濃度勾配に従い、エネルギーも使いませんが、輸送体を必要とする促進拡散であり、単純拡散ではありません。「勾配に従う=単純拡散」と早合点しやすい選択肢です。母体が高血糖だと胎児への移行も増え、胎児の高インスリン血症や巨大児の原因になります。

覚えるポイント

  • 単純拡散:輸送体なし・エネルギーなし・勾配に従う。酸素、二酸化炭素、水、尿素、多くの薬物、アルコールなどの低分子・脂溶性物質が該当します。
  • 促進拡散:輸送体あり・エネルギーなし・勾配に従う。代表はグルコース(GLUT1)です。
  • 能動輸送:輸送体あり・エネルギーあり・勾配に逆らう。アミノ酸、カルシウム、鉄、水溶性ビタミンが該当し、胎児側の濃度が高く保たれます。
  • IgGは受容体(FcRn)を介した輸送で通過し、妊娠後期に増えます。IgMとIgAは通過しないため、臍帯血IgMの高値は子宮内感染を示唆します。
  • 胎児の酸素化は、HbFの高い酸素親和性(解離曲線の左方移動)、二重のボーア効果、胎盤血流量に支えられています。
  • 大分子のインスリンとヘパリンはほぼ通過しません。ワルファリンは通過し、催奇形性があるため妊娠中は避けます。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する(medixmatch2025@gmail.com)までお知らせください。確認して修正します。

解いた記録を残して、苦手な問題をもう一度。

学習アプリなら、この問題の解答記録・メモ・暗記カード化を使えます。