第106回
106AM012|第106回 助産師国家試験 過去問
A病院では無痛分娩を希望する妊娠中期の妊婦を対象に母親学級を開催することになった。テーマは「無痛分娩の正しい理解と自分らしいお産に向けて」とした。講義、演習、質疑応答で構成し、演習内容の1つはバースプランの作成に決まっている。その他の演習内容で優先度が高いのはどれか。
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正解3
正答
3.いきみの呼吸
この問題のポイント
無痛分娩を希望する妊婦に特有の学習ニーズを見極め、母親学級の演習内容に優先順位をつける問題です。判断の手がかりは「無痛分娩を希望する」「妊娠中期」「正しい理解」「演習」という条件です。硬膜外麻酔では産痛が和らぐ一方で、分娩第2期の努責感が弱まり、有効にいきむことが難しくなります。そのため、妊娠中に体で覚えておくべき技術はいきみ方だと判断します。
解説
対象と目的から考える
集団健康教育では、対象者の特性と学習目標に合わせて内容を絞り込みます。この教室の対象は、無痛分娩を希望している妊娠中期の妊婦です。出産まで数か月あるため、練習を重ねる時間があります。テーマのうち「自分らしいお産」はバースプランの作成で扱います。残りの演習には、次の2つの条件を満たす内容を選ぶのが筋です。
- 無痛分娩だからこそ必要になる準備であること
- 講義で聞くだけでは身につかず、実際にやってみて習得する技術であること
硬膜外鎮痛が分娩にもたらす変化
わが国の無痛分娩の多くは硬膜外麻酔で行われます。硬膜外腔に留置したカテーテルから局所麻酔薬を持続的に投与し、多くはオピオイドも併用して、痛みを伝える神経を遮断します。
分娩時の痛みは、時期によって伝わる経路が異なります。
- 分娩第1期:子宮収縮と頸管開大による内臓痛で、Th10〜L1から伝わる
- 分娩第2期:産道・会陰の伸展による痛みで、陰部神経(S2〜S4)から伝わる
鎮痛が得られる一方で、次のような変化が起こり得ます。
- 児頭が骨盤底を圧迫して生じる「便意のような」努責感が弱まり、いつ・どこに力を入れればよいかがわかりにくくなる
- 分娩第2期が延長しやすく、吸引分娩・鉗子分娩が増える
- 下肢の運動神経が遮断されて、力が入りにくくなったり歩きにくくなったりする
- 尿意を感じにくくなり、膀胱充満や尿閉が起こりやすい
- 交感神経遮断による血圧低下、母体の発熱、掻痒感がみられることがある
なぜ「いきみの呼吸」が優先か
努責感が弱い状態では、助産師が分娩監視装置や触診で陣痛の開始を確認して伝え、産婦がそれに合わせて意識的に力を入れる必要があります。いきみの基本的な流れは次のとおりです。
- 陣痛発作に合わせて息を吸って止める
- あごを引き、へそを見るように背を丸めて、肛門の方向へ長く力を加える
- 陣痛間欠期には深呼吸で力を抜く
- 発露が近づいたら短促呼吸に切り替え、いきみを逃がす
この一連の動作は、分娩の場で初めて教わってもなかなかできません。自然な感覚に頼れない無痛分娩だからこそ、妊娠中から繰り返し練習しておく価値が大きいのです。練習しておけば、第2期の遷延や器械分娩のリスクを減らせます。また、産婦が自分の力で産んだと実感できることにもつながり、「自分らしいお産」というテーマにもかないます。
演習の優先度は、次の3点で比べると判断しやすくなります。いきみの呼吸は3点すべてを満たします。
- その対象者に特有の課題か
- 練習によって身につく技術か
- 分娩の安全につながるか
選択肢の確認
1.妊婦体操:妊婦体操は、姿勢の保持、腰背部痛の軽減、骨盤周囲の柔軟性や筋力の維持、気分転換などを目的とした妊娠期の健康づくりです。多くの母親学級で扱われますが、無痛分娩を選ぶかどうかに関係なく全妊婦に共通する内容で、「無痛分娩の正しい理解」というテーマには直結しません。また、切迫早産や前置胎盤など、運動を控えるべき妊婦もいます。一般の妊婦を対象とする教室なら候補になりますが、この教室では優先度が低くなります。
2.産痛緩和法:呼吸法、マッサージ、圧迫、温罨法、リラクセーション、体位の工夫などは、自然分娩をめざす妊婦には重要な演習です。しかし無痛分娩では、産痛の軽減は主に硬膜外麻酔が担うため、この対象者の中心的な学習課題にはなりません。ただし、麻酔を始める前の分娩初期や、片側だけ効くなど鎮痛が不十分なときには役立つため、講義で触れておく意義はあります。「まったく不要」でも「最優先」でもなく、優先度の比較で選択肢3に劣ると理解することが大切です。
3.いきみの呼吸:正答。硬膜外麻酔では努責感が弱まり、いきむタイミングや方向を自覚しにくくなるため、分娩第2期が遷延しやすくなります。助産師の合図に合わせて呼吸を止め、肛門方向へ力を入れる動作を妊娠中期から繰り返し練習しておくことが、無痛分娩に特有の課題への最も直接的な準備です。
4.ベッド上排泄:硬膜外麻酔中は、下肢の筋力低下や転倒の危険から歩行を制限されることがあり、ベッド上で過ごす時間が長くなります。ただし麻酔下では尿意そのものが弱まるため、助産師が膀胱の充満を観察し、必要に応じて導尿で排尿を管理するのが一般的です。妊婦が自分で差込便器を使えるよう練習しておく必要性は高くありません。「麻酔中は尿意を感じにくく、導尿することがある」と講義で説明すれば足ります。床上安静が予定される術前オリエンテーションでの排泄練習と取り違えないようにします。
覚えるポイント
- 硬膜外麻酔による無痛分娩の主な影響は、努責感の減弱、分娩第2期の延長、器械分娩の増加、下肢の運動神経遮断、尿意の減弱(尿閉)、血圧低下、発熱、掻痒感です。
- 分娩痛の伝達経路は、第1期がTh10〜L1(子宮収縮・頸管開大による内臓痛)、第2期が陰部神経S2〜S4(産道・会陰の伸展)です。
- いきみは子宮口全開大後に行います。陣痛発作に合わせて息を止め、あごを引いて肛門方向へ力を入れ、発露の頃は短促呼吸に切り替えます。全開大前の努責は頸管浮腫や頸管裂傷の原因になります。
- 集団教育の演習では「対象に特有の課題」「練習で身につく技術」「安全につながる内容」を優先し、知識で足りることは講義に回します。
- 無痛分娩でも産痛緩和法が不要になるわけではありません(麻酔開始前、鎮痛が不十分なとき)が、優先度は下がります。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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