第106回

106AM014|第106回 助産師国家試験 過去問

妊婦に対するアスピリンとヘパリンの併用療法が適応となる疾患はどれか。

解答・解説を見る

正解4

正答

4.抗リン脂質抗体症候群

この問題のポイント

低用量アスピリンとヘパリンの併用は、血小板の働きと凝固因子の働きを同時に抑え、胎盤に血栓ができるのを防ぐ治療です。血栓ができやすく、それが原因で流産や死産を繰り返す病態を選べば正答にたどり着けます。抗リン脂質抗体症候群が不育症の代表的な原因であることと、妊娠中の抗凝固薬にワルファリンではなくヘパリンを使う理由を理解しているかが問われています。

解説

併用療法が何を防ぐのか

  • 低用量アスピリン:シクロオキシゲナーゼを不可逆的に阻害し、血小板でのトロンボキサンA2の産生を抑えます。その結果、血小板が凝集しにくくなります(抗血小板作用)。用量は1日81〜100mg程度で、鎮痛・抗炎症に使う量よりずっと少量です。
  • ヘパリン:アンチトロンビンの作用を強め、トロンビンや活性化第X因子を阻害します(抗凝固作用)。

この併用は「血液が固まりやすい状態」に対する治療です。したがって、選択肢の中から血栓傾向が病態の中心にある疾患を探します。

抗リン脂質抗体症候群(APS)

リン脂質や、リン脂質に結合するたんぱく質(β2グリコプロテインⅠなど)に対する自己抗体が持続して存在し、動静脈の血栓症や妊娠合併症を起こす自己免疫疾患です。単独で発症する原発性と、全身性エリテマトーデス(SLE)などに合併する続発性があります。

国際的な分類基準(改訂サッポロ基準)では、次の臨床所見と検査所見の両方を満たすものをAPSとします。

  • 臨床所見:動脈・静脈・小血管の血栓症、または妊娠合併症です。妊娠合併症には、妊娠10週以降の原因不明の子宮内胎児死亡、重症妊娠高血圧腎症や胎盤機能不全による妊娠34週未満の早産、妊娠10週未満で原因不明の流産が3回以上連続することが含まれます。
  • 検査所見:ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインⅠ抗体のいずれかが、12週以上の間隔をあけて2回以上陽性であることです。

抗体は胎盤の血管に血栓をつくるほか、絨毛(トロホブラスト)の機能障害や補体の活性化にも関わり、胎盤の循環を損なうと考えられています。そのため、流産・死産、胎児発育不全、妊娠高血圧腎症、常位胎盤早期剥離などが起こりやすくなります。

妊娠中の管理と助産師の関わり

妊娠が成立した早い時期から、低用量アスピリンとヘパリン(主に未分画ヘパリンの皮下注射)を併用します。アスピリンは妊娠前から始めることもあります。この併用によって生児を得られる率が改善します。

ヘパリンは分子量が大きく胎盤を通過しないため、胎児に抗凝固作用や催奇形性が及びません。これに対し、経口抗凝固薬のワルファリンは胎盤を通過します。妊娠初期に使うと胎児の骨・軟骨の形成異常など(ワルファリン胎芽病)を起こすため、妊娠中は原則として使いません。

ヘパリンは1日2回の皮下注射を長期間続けるため、在宅での自己注射が行われます。助産師は次のような支援を行います。

  • 注射手技と注射部位の変更を指導します。
  • 出血傾向(歯肉出血、皮下出血、性器出血)の観察方法を伝えます。
  • 副作用であるヘパリン起因性血小板減少症(HIT)や、長期使用による骨量減少を踏まえ、血小板数の推移を確認します。

分娩が近づいたら、分娩時の出血や硬膜外麻酔への影響を考えて薬剤を中止・調整します。産後も血栓症のリスクは続くため、必要に応じて抗凝固療法を続けます。ヘパリンもワルファリンも授乳中に使用できます。

一緒に問われやすい知識

  • ループスアンチコアグラントは、試験管内ではリン脂質に依存する凝固反応を妨げるため、APTTが延長します。一方、体内ではむしろ血栓をつくります。この逆説がよく出題されます。
  • 抗カルジオリピン抗体があると、脂質抗原を用いる梅毒血清反応(STS法)が偽陽性になることがあります(生物学的偽陽性)。
  • 流産の分類は次のとおりです。流産を2回繰り返すものを反復流産、3回以上連続するものを習慣流産といいます。妊娠はするものの流産・死産を2回以上繰り返して生児が得られない状態を不育症といい、APSは不育症の検査で必ず確認するリスク因子です。
  • SLEを合併する妊娠では、抗SS-A抗体が胎盤を通過して起こる新生児ループス(先天性完全房室ブロックなど)にも注意します。これはAPSとは別の病態です。

選択肢の確認

1.糖尿病:妊娠中の治療の中心は、食事療法で目標の血糖に達しない場合のインスリン療法です。インスリンは胎盤をほとんど通過しないため胎児への影響が少なく、経口血糖降下薬は原則として用いません。妊娠初期の高血糖は先天奇形や流産に、妊娠中期以降の高血糖は巨大児、羊水過多、新生児低血糖などにつながります。このため治療の目的は血糖の正常化であり、血栓予防の併用療法は適応になりません。なお、妊娠高血圧腎症のハイリスク妊婦に低用量アスピリンを単独で予防的に用いる考え方はありますが、ヘパリンとの併用とは区別します。

2.関節リウマチ:妊娠中は症状が軽快することが多く、産後に再燃しやすいのが特徴です。治療は抗リウマチ薬や副腎皮質ステロイドが中心です。メトトレキサートは催奇形性があるため、妊娠を希望した時点で中止します。妊娠中は、胎盤で不活化されやすく胎児への移行が少ないプレドニゾロンなどを用います。消炎目的の非ステロイド性抗炎症薬は、妊娠後期に胎児の動脈管を収縮させるおそれがあるため避けます。抗炎症量のアスピリンと抗血小板目的の低用量アスピリンは、目的も用量も異なることを区別しておきましょう。

3.甲状腺機能亢進症:妊娠中の原因として多いのはバセドウ病で、治療は抗甲状腺薬です。チアマゾール(MMI)は、妊娠初期(器官形成期)の服用で頭皮欠損や臍帯ヘルニアなどの奇形との関連が報告されているため、この時期はプロピルチオウラシル(PTU)を選びます。TSH受容体抗体(TRAb)は胎盤を通過し、胎児・新生児バセドウ病(胎児頻脈、甲状腺腫など)を起こすことがあるため、胎児と新生児の観察が重要です。また、妊娠初期にはhCGの甲状腺刺激作用で一過性に甲状腺ホルモンが高くなることがあり(つわりの強い例に多い)、鑑別が必要です。抗凝固療法は治療に含まれません。

4.抗リン脂質抗体症候群:正答。自己抗体によって血栓ができやすくなり、胎盤の循環障害から流産・死産、胎児発育不全、妊娠高血圧腎症などを起こします。低用量アスピリンで血小板凝集を、ヘパリンで凝固因子の働きを抑えて胎盤の血栓形成を防ぐため、両者を併用します。ヘパリンは胎盤を通過しないため、妊娠中にも使える抗凝固薬です。

覚えるポイント

  • 抗リン脂質抗体症候群の妊娠管理は、低用量アスピリン(抗血小板)とヘパリン(抗凝固)の併用です。不育症の代表的な原因です。
  • 妊娠中の抗凝固薬はヘパリン(胎盤を通過しない)です。ワルファリンは胎盤を通過し催奇形性があるため、妊娠中は原則として使いません。拮抗薬はヘパリンがプロタミン、ワルファリンがビタミンKです。
  • 抗リン脂質抗体はループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインⅠ抗体の3つです。12週以上あけて2回以上陽性で判定します。APTT延長、梅毒血清反応の生物学的偽陽性、血小板減少と結びつけて覚えます。
  • 流産の分類:反復流産は2回、習慣流産は3回以上連続、不育症は流産・死産を2回以上繰り返して生児が得られない状態です。
  • 他の合併症妊娠の治療:糖尿病はインスリン、関節リウマチはメトトレキサートを中止してプレドニゾロンなど、バセドウ病は妊娠初期にPTUを使います。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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