第106回
106AM016|第106回 助産師国家試験 過去問
Aさん(38歳、初産婦)は妊娠40週3日、1時に陣痛発来し3時に入院した。入院8時間後、陣痛間欠4 ~5分、陣痛発作50秒、子宮口5 cm開大、展退度80%、Station ±0。朝食は食べられなかった。Aさんは、全身に力が入っている様子で「昨日も眠れていないし、これ以上長引くのは耐えられない」と訴えた。このときの助産師の対応で適切なのはどれか。
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正解1
正答
1.陣痛間欠時にリラックスを促す。
この問題のポイント
分娩は正常範囲で進んでいますが、産婦は睡眠不足と絶食で消耗し、全身に力が入って「耐えられない」と訴えています。この産婦への関わりを問う問題です。判断の手がかりは2つあります。1つは、陣痛の頻度と持続時間が微弱陣痛の基準に当たらず、分娩が遷延していないことです。もう1つは、「全身に力が入っている」「眠れていない」「朝食を食べられなかった」という疲労と緊張のサインです。医学的な介入ではなく、緊張が痛みを強め、進行も妨げる悪循環を断つケアが今必要だと判断します。
解説
分娩経過のアセスメント
まず、分娩が正常に進んでいるかを問題文の情報だけで確認します。
- 時間経過:1時に陣痛発来、3時に入院し、その8時間後なので現在は11時ごろです。分娩開始(陣痛周期が10分以内、または1時間に6回以上になった時点)から約10時間が経っています。
- 陣痛:間欠4〜5分、発作50秒なので、陣痛周期はおよそ5〜6分です。日本産科婦人科学会の基準では、子宮口4〜6 cmの時期に陣痛周期が6分30秒以上であれば微弱陣痛とします。発作持続時間は子宮口4〜8 cmの時期に40秒以内で微弱陣痛です。Aさんはどちらにも該当しません。
- 内診所見:子宮口5 cm開大、展退度80%です。Station ±0は、児頭の最下点が坐骨棘間線の高さにある状態です。分娩第1期のうち、子宮口の開大が加速していく活動期に入った時期といえます。
- 所要時間:初産婦の分娩所要時間は12〜15時間前後が目安です。遷延分娩は初産婦で30時間以上を指します。約10時間の経過は遷延にあたりません。
胎児心拍や母体のバイタルサインに異常の記載はありません。したがって、分娩の進行そのものは順調で、医学的介入が必要な状況ではないと判断します。
課題は産婦の疲労と緊張
一方で、Aさんには次のような問題があります。
- 前夜から眠れていない
- 朝食が摂れず、エネルギーと水分が不足しやすい
- 全身に力が入っている
- 「これ以上長引くのは耐えられない」と訴え、自己コントロール感が低下している
Dick-Readは、恐怖・不安が筋肉の緊張を生み、緊張が痛みを強め、痛みがさらに恐怖を強めるという悪循環を示しました(恐怖―緊張―痛み症候群)。緊張やストレスでカテコールアミンが増えると、子宮や胎盤の血流が減り、子宮収縮も抑えられます。その結果、陣痛が弱まり、分娩が長引く方向に働きます。そこに疲労と栄養不足が重なると、続発性微弱陣痛や分娩遷延の要因になります。
助産ケアの方向性
陣痛発作中は呼吸法でやり過ごし、間欠時には肩・顎・手足の力を抜いて体を休めます。これで酸素とエネルギーの消耗を抑え、次の陣痛に備えることができます。具体的には次のような支援を組み合わせます。
- 間欠ごとに「肩の力を抜きましょう」と声をかけ、ゆっくりした呼吸を一緒に行う
- 腰部や仙骨部のマッサージ・圧迫、温罨法、足浴
- 側臥位や前傾姿勢など楽な体位、照明や室温などの環境調整
- ゼリーや飲料など摂りやすいもので水分とエネルギーを補給する
- 2〜3時間ごとに排尿を促す(膀胱の充満は児頭の下降を妨げます)
- そばに付き添い、訴えに共感する
- 「子宮口が半分まで開いて、赤ちゃんも下りてきています」と進行を肯定的に伝える
「耐えられない」という訴えに、情報で説得しようとするのは適切ではありません。まず今の苦痛を和らげる手段を具体的に提供することが、産婦が主体性を取り戻す支えになります。なお、こうしたケアをしても陣痛が弱まる、進行が止まる、母体の疲労が著しいといった場合は、医師に報告して対応を相談します。
選択肢の確認
1.陣痛間欠時にリラックスを促す。:正答。間欠時に全身の力を抜くことで、エネルギーの消耗と痛みの増強を抑えられます。恐怖―緊張―痛みの悪循環を断つことで子宮血流や子宮収縮も保たれやすくなり、疲労と緊張が強いAさんに今最も必要な関わりです。
2.高年初産では時間がかかることを伝える。:高年初産婦(35歳以上の初産婦)は、軟産道の伸展性が低いことなどから分娩が長引きやすいとされます。ただし、これは助産師が観察を強めるために持っておく知識です。長引くことを恐れている産婦に一般論として伝えると、不安と緊張を強めます。しかもAさんは実際には順調に進行しており、個別のアセスメントにも合いません。
3.陣痛促進薬を使用する適応であると話す。:陣痛促進薬(子宮収縮薬)は、微弱陣痛で分娩が進まない場合などに医師が適応を判断する薬剤です。使用時には十分な説明と同意、分娩監視装置による連続的な監視が必要です。Aさんの陣痛は微弱陣痛の基準に当たらず、分娩も遷延していないため適応はありません。また、保健師助産師看護師法第37条により、助産師は医師の指示なく医薬品の授与や指示をすることはできません。「適応である」と話すことは、事実と異なるうえに医師の判断を先取りする対応です。
4.初産婦の分娩所要時間には達していないことを説明する。:陣痛発来から約10時間で、初産婦の目安である12〜15時間前後に達していないこと自体は事実です。しかし「まだ何時間も続く」と受け取られ、疲労している産婦の絶望感を強めます。睡眠不足や緊張という訴えの背景への対処にもなっていません。進行を伝えるなら、残り時間ではなく「ここまで順調に進んでいる」という肯定的な内容にします。
覚えるポイント
- 微弱陣痛の基準(子宮口4〜6 cm)は、陣痛周期6分30秒以上、または発作持続40秒以内(4〜8 cm)です。同じ時期の平均は周期約3分、発作約70秒です。
- 分娩開始は、陣痛周期10分以内または1時間に6回以上になった時点です。分娩所要時間の目安は初産婦12〜15時間前後、経産婦5〜8時間前後です。遷延分娩は初産婦30時間以上、経産婦15時間以上です。
- 恐怖―緊張―痛み症候群(Dick-Read)では、緊張が痛みを強め、カテコールアミンの作用で子宮収縮と子宮血流を妨げます。疲労や栄養不足が重なると、続発性微弱陣痛や分娩遷延につながります。
- 分娩第1期のケアの基本は、間欠時の脱力、呼吸法、マッサージ・温罨法、水分とエネルギーの補給、排尿誘導、付き添いと肯定的な声かけです。
- 子宮収縮薬の使用は医師が判断します。助産師は医師の指示なく医薬品の授与や指示をすることはできません(保健師助産師看護師法第37条)。
- 高年初産婦は35歳以上の初産婦です。リスクの知識は観察の強化に使い、産婦を不安にさせる説明には使いません。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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