第106回
106AM030|第106回 助産師国家試験 過去問
日齢2の新生児。授乳後に排気とともに非胆汁性の嘔吐がみられた。バイタルサインは、体温37.4 ℃、呼吸数50/分、心拍数150/分。オムツ交換をするとタール便を排泄しており、Apt〈アプト〉試験を行うとすぐに暗褐色に変化した。この所見から考えられる状態はどれか。
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正解2
正答
2.仮性メレナ
この問題のポイント
日齢2の新生児のタール便が、児自身の消化管出血によるものか、飲み込んだ母体血によるものかを見分ける問題です。判断の鍵は、Apt試験で「すぐに暗褐色に変化した」ことを、アルカリで変性する成人型ヘモグロビン(HbA)、つまり母体血と読み取れるかどうかです。あわせて、バイタルサインが正常範囲で全身状態が良好であること、嘔吐が非胆汁性であることも手がかりになります。
解説
問題文の手がかりを整理する
- 日齢2・授乳後の排気とともに非胆汁性嘔吐:新生児の胃は縦型で、噴門部の括約機能も未熟なため、溢乳や嘔吐を起こしやすい時期です。生後1〜2日には、分娩時に飲み込んだ羊水・粘液・血液が胃を刺激して吐く「初期嘔吐」もみられます。嘔吐が胆汁性でないことから、Vater乳頭より肛門側の消化管閉塞は考えにくくなります。
- バイタルサイン:体温37.4℃、呼吸数50/分、心拍数150/分は、いずれも新生児の正常範囲(体温36.5〜37.5℃前後、呼吸数40〜60/分、心拍数120〜160/分)に収まっています。出血による頻脈やショック、感染や腸管壊死を思わせる全身状態の悪化はありません。
- タール便:上部消化管に入った血液のヘモグロビンは、胃酸で黒色の塩酸ヘマチンに変わります。そのため、タール便は「上部消化管からの出血」か「飲み込んだ血液」を示します。
- Apt試験ですぐに暗褐色に変化:この一点で、血液が誰のものかが判定できます。
Apt〈アプト〉試験の原理
Apt試験は、吐物や便に含まれる血液が児由来か母体由来かを区別する検査です。検体を水で溶血させて遠心し、ピンク色の上清に水酸化ナトリウム溶液を加えて、1〜2分後の色の変化をみます。
- 出生直後の児の赤血球のヘモグロビンは、大部分が胎児ヘモグロビン(HbF:α2γ2)です。HbFはアルカリで変性しにくいため、ピンク色のままです。これは児自身の血液であることを示します。
- 成人のHbA(α2β2)はアルカリで速やかに変性し、黄褐色〜暗褐色に変わります。これは母体の血液であることを示します。
本例では「すぐに暗褐色に変化」したため、便中の血液は母体血と判定できます。
仮性メレナと真性メレナ
仮性メレナは、児が母体血を飲み込み、それが吐物やタール便として出てくる状態です。原因は、分娩時に産道で飲み込んだ母体血と、母親の乳頭亀裂から母乳と一緒に飲み込んだ血液の2つが代表的です。児自身は出血していないので、貧血や循環の変化はなく、治療は不要です。
看護としては、まず母親の乳頭に亀裂や出血がないかを観察します。亀裂があれば、吸着(ラッチ・オン)や抱き方を見直して乳頭の損傷を防ぐ支援を行います。「赤ちゃんが出血しているのでは」と不安を抱く母親には、原因と経過を説明することも大切です。
これに対して真性メレナは、児自身の消化管出血です。代表が新生児ビタミンK欠乏性出血症で、古典型は生後数日(日齢2〜7ごろ)に吐血・下血で発症します。発症時期だけでは仮性メレナと区別できません。だからこそApt試験による由来の判定が決め手になります。
臨床での考え方
新生児の吐血・下血をみたら、次の順で確認します。
- 全身状態:バイタルサイン、皮膚色、活気、腹部膨満
- 血液の由来:Apt試験
- 児の血液であった場合:凝固検査(PT、APTT、ヘパプラスチンテスト、PIVKA-II)やビタミンK投与の有無
- 腹部所見の悪化や胆汁性嘔吐がある場合:外科的疾患や壊死性腸炎を考え、腹部X線などで評価
本例は全身状態が良好で、かつ母体血と判定されたため、仮性メレナと考えるのが最も妥当です。
選択肢の確認
1.壊死性腸炎:早産児・低出生体重児に好発する重篤な疾患で、腸管の未熟性や虚血、経腸栄養の開始、細菌の関与が重なって腸管壁が壊死します。腹部膨満、胃内残留の増加や胆汁性嘔吐、血便に加え、無呼吸・徐脈・体温不安定などの全身症状を伴い、腹部X線で腸管壁内ガスがみられるのが特徴です。本例は非胆汁性嘔吐で、バイタルサインも正常範囲です。さらに、腸管からの出血は児自身の血液なので、Apt試験ではピンク色が保たれるはずで、暗褐色への変化とは合いません。「腹部膨満+血便+全身状態の悪化」の組み合わせで想起する疾患です。
2.仮性メレナ:正答。Apt試験でアルカリを加えるとすぐに暗褐色に変化したことから、便中の血液はアルカリに弱いHbAを含む母体血と判断できます。分娩時の産道の血液や、乳頭亀裂からの血液を飲み込み、それが胃酸で黒色化してタール便として排泄された状態です。児自身は出血していないため、体温・呼吸数・心拍数がいずれも正常範囲という全身状態の良さとも一致し、治療は不要です。
3.小腸閉鎖症:腸管の先天的な閉塞のため、生後早期から胆汁性嘔吐と腹部膨満がみられ、胎便の排泄がない、あるいは少量の灰白色の粘液便しか出ないのが典型です。胎内では羊水の通過が妨げられるため、羊水過多を伴うこともあります。本例の嘔吐は非胆汁性で、血液を含むタール便が出ていることからも当てはまりません。腸閉鎖はApt試験で判定する病態ではなく、腹部X線での拡張腸管と鏡面像(ニボー)などで診断します。
4.乳糖不耐症:乳糖分解酵素(ラクターゼ)の欠乏や活性低下により乳糖が吸収されず、大腸で発酵して、酸臭のある水様性下痢、腹部膨満、ガスの増加、体重増加不良などを起こします。先天性はまれで、実際には感染性胃腸炎の後に一時的に起こる二次性のものが多い病態です。便に血液が混じってタール便になる病態ではないため、Apt試験の結果とも結びつきません。
5.新生児ビタミンK欠乏性出血症:児自身の消化管から出血する病態で、いわゆる真性メレナにあたります。便中の血液は児のHbFが主体なので、Apt試験ではアルカリを加えてもピンク色が保たれ、本例の暗褐色への変化とは逆の結果になります。ビタミンK依存性凝固因子(第Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ因子)の不足によって起こり、PT・APTTの延長、ヘパプラスチンテストの低値、PIVKA-IIの上昇がみられ、治療はビタミンKの静注です。発症時期は古典型で日齢2〜7ごろと本例の日齢に重なるため、時期ではなくApt試験の結果で除外する点が重要です。
覚えるポイント
- Apt試験:アルカリを加えてピンク色が残れば HbF=児の血液(真性メレナ)、黄褐色〜暗褐色に変われば HbA=母体血(仮性メレナ)。
- 仮性メレナは、分娩時の母体血や乳頭亀裂からの血液を飲み込んだもので、全身状態は良好で治療不要です。看護では母親の乳頭の観察、授乳支援、不安への説明を行います。
- 新生児のビタミンK欠乏の要因:胎盤からの移行が少ない、母乳中の含有量が少ない、腸内細菌叢が未確立、肝機能が未熟。
- 新生児ビタミンK欠乏性出血症:凝固因子Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹの不足、PT延長、ヘパプラスチンテスト低値、PIVKA-II上昇。予防はビタミンK2シロップの内服、治療はビタミンK静注です。
- 胆汁性嘔吐は、Vater乳頭より肛門側の閉塞(腸閉鎖、腸回転異常症に伴う中腸軸捻転など)を疑う緊急サインです。非胆汁性か胆汁性かは必ず確認します。
- 新生児のバイタルサインの目安:体温36.5〜37.5℃前後、呼吸数40〜60/分、心拍数120〜160/分。異常の有無を最初に確認し、全身状態から緊急度を判断します。
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