第106回

106AM031|第106回 助産師国家試験 過去問

在胎30週2日、緊急帝王切開で出生した男児。新生児蘇生時に気管挿管と胃管挿入を行い、人工呼吸を継続しつつNICUに入院した。入院時の胸部エックス線写真(別冊No. 2)を別に示す。また胃液のマイクロバブルテストの結果はvery weakであった。この疾患について正しいのはどれか。

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正解4

正答

4.母親の糖尿病罹患が発症のリスク因子である。

この問題のポイント

在胎30週の早産児が出生直後から人工呼吸を必要としています。胸部エックス線写真では両肺野にびまん性の細顆粒状陰影があり、胃液のマイクロバブルテストはvery weakです。ここから、肺サーファクタントの欠乏による新生児呼吸窮迫症候群(RDS)と判断します。そのうえで、病態(肺胞がつぶれてコンプライアンスが下がる)、危険因子、治療、予防を正しく結びつけられるかが問われています。正答の鍵は、母体の糖尿病が胎児の高インスリン血症を通じてサーファクタントの産生を妨げるという機序です。

解説

手がかりの整理と画像の読み取り

問題文のうち、診断の手がかりになる情報は次のとおりです。

  • 在胎30週2日:肺が成熟する前の早産です。肺サーファクタントは妊娠後期にかけて増え、おおむね妊娠34週ごろに十分な量になるとされます。そのため30週は発症リスクが高い時期です。
  • 男児、帝王切開での出生:どちらもRDSの危険因子です。
  • 蘇生時に気管挿管され、入院後も人工呼吸を継続:出生直後から、自分の呼吸だけでは換気を保てない重い呼吸障害があります。
  • 胃液のマイクロバブルテストがvery weak:サーファクタントが極めて少ないことを示します。

胸部エックス線写真(正面像)には、上から入る管が2本写っています。胸郭の上部で先端が終わっているのが気管チューブです。もう1本は食道に沿って下り、左上腹部の胃(黒く写る胃泡)へ入っていく胃管です。両側の肺野は全体が細かい粒状のすりガラス様陰影で白っぽくかすみ、心陰影の境界も不鮮明です。胃泡や腸管ガスの黒さと比べると、本来は空気で黒く写るはずの肺に空気が乏しいことがわかります。

RDSの典型的な所見は、このような両側びまん性の網状顆粒状陰影と、気管支透亮像です。気管支透亮像とは、白くなった肺野の中で、空気の入った気管支が黒い枝のように浮かび上がる像をいいます。重症度はBomsel(ボンセル)分類で評価します。重くなるほど心陰影や横隔膜の境界が見えにくくなり、最重症では肺野全体が真っ白(white lung)になります。

マイクロバブルテストは、出生直後の胃液(または羊水)を泡立てて一定時間置き、壊れずに残った小さな泡の数を顕微鏡で数える検査です。結果はstrong・medium・weak・very weakなどと判定します。胎児の肺から出たサーファクタントは羊水に混じり、胎児はその羊水を飲み込んでいます。そのため、出生直後の胃液で肺の成熟度を推定できます。サーファクタントが十分なら小さな泡が安定して残り、不足していると泡はすぐに消えます。生後早い段階でRDSを予測でき、人工肺サーファクタントを早めに投与するかどうかの判断材料になります。

出生直後に呼吸障害を起こす疾患はほかにもあります。新生児一過性多呼吸は、正期産に近い児(特に陣痛が始まる前の帝王切開)に多く、数日で自然に軽快します。胎便吸引症候群は、羊水混濁を伴う正期産〜過期産の児に多い疾患です。在胎週数、エックス線像、マイクロバブルテストの結果から、本問はRDSと判断できます。

RDSの病態

肺サーファクタントは、Ⅱ型肺胞上皮細胞がつくるリン脂質(主成分はジパルミトイルホスファチジルコリン)と蛋白質の複合体です。肺胞の表面張力を下げる働きがあります。ラプラスの法則(P=2T/r)によると、半径の小さい肺胞ほどつぶれようとする圧が大きくなります。サーファクタントは、肺胞が縮む呼気時ほど表面張力を強く下げることで、肺胞がつぶれるのを防いでいます。

サーファクタントが足りないと、呼気のたびに肺胞がつぶれ、肺は硬く膨らみにくくなります。これが肺コンプライアンスの低下です。機能的残気量が減り、低酸素血症・高二酸化炭素血症・アシドーシスが進みます。低酸素やアシドーシスはさらにサーファクタントの産生を妨げるため、悪循環に陥ります。肺胞に漏れ出た血漿蛋白が硝子膜をつくることから、硝子膜症とも呼ばれます。

症状は、生後すぐから数時間以内に現れる多呼吸、陥没呼吸、呻吟、鼻翼呼吸、チアノーゼです。呻吟は、呼気時に声門を狭めて肺の中に圧を残し、肺胞がつぶれるのを防ごうとする代償反応です。名前の似た急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、敗血症や肺炎などをきっかけに起こる炎症性の肺障害です。肺の未熟さによるサーファクタント欠乏が本態のRDSとは別の病態です。

危険因子、治療、予防

危険因子には、早産(週数が早いほど高頻度)、男児、母体の糖尿病、帝王切開(特に陣痛が始まる前)、新生児仮死による低酸素・アシドーシス、低体温などがあります。本問の児は、問題文だけで早産・男児・帝王切開の3つを持っています。

母体が糖尿病だと、ブドウ糖は胎盤を通過するため胎児も高血糖になります。一方、母体のインスリンは胎盤を通過しないので、胎児の膵臓が自らインスリンを過剰に分泌します。この胎児の高インスリン血症が、コルチゾールによる肺成熟の促進作用に拮抗し、Ⅱ型肺胞上皮細胞でのサーファクタント合成を抑えます。その結果、同じ在胎週数でも肺の成熟が遅れます。糖尿病母体児には、巨大児、新生児低血糖、多血症、高ビリルビン血症、低カルシウム血症、肥大型心筋症なども起こりやすくなります。妊娠中の血糖管理と、出生後の呼吸・血糖の観察が欠かせません。

治療の中心は、次の3つです。

  • 人工肺サーファクタントの気管内投与
  • 持続気道陽圧(CPAP)や、呼気終末陽圧(PEEP)をかけた人工換気による呼吸管理
  • 適切な酸素投与

あわせて保温、輸液、感染予防も行います。サーファクタントを投与すると肺コンプライアンスが急速に改善します。換気の設定を速やかに下げないと、肺の過膨張や気胸を招きます。回復期には動脈管開存症、長期的には慢性肺疾患や、酸素投与に関連する未熟児網膜症にも注意します。

予防の柱は、母体への出生前の副腎皮質ステロイド投与です。対象は、妊娠34週未満で1週間以内に早産になると予想される場合です。ベタメタゾン12mgを24時間ごとに2回、母体に筋肉内注射すると、胎児の肺成熟とサーファクタントの産生が促されます。RDSだけでなく、脳室内出血や新生児死亡も減ります。助産師は、切迫早産の妊婦でステロイドが投与されたかどうかと、その時期を把握し、出生時に新生児科と共有することが大切です。

選択肢の確認

1.男児より女児に多い。:RDSは女児より男児に多く発症するため、この記述は男女が逆です。男児ではアンドロゲンの影響で肺の成熟(サーファクタントの産生)が遅れるとされます。男児であることは、早産や母体の糖尿病と並ぶ代表的な危険因子で、本問の児が男児であることも診断を支える情報の一つです。新生児で女児に多い疾患には発育性股関節形成不全などがあり、性差を取り違えないよう注意します。

2.気管洗浄が治療に有効である。:RDSの本態はサーファクタントの不足なので、治療はサーファクタントを気管内に補うことと、CPAPや人工換気による呼吸管理であり、気管洗浄は治療として行いません。気道や肺を洗うと、わずかに残っているサーファクタントまで洗い流し、かえって悪化させかねません。希釈したサーファクタントで気道や肺を洗う治療が検討されるのは、胎便が気道に入り込んだ重症の胎便吸引症候群です。この疾患と取り違えないようにします。

3.肺のコンプライアンスが上昇する。:サーファクタントが不足すると表面張力が高いまま肺胞がつぶれ、肺は硬く膨らみにくくなるので、コンプライアンスは上がるのではなく下がります。同じ圧をかけても入る空気が少ないため呼吸の仕事量が増え、陥没呼吸や多呼吸が起こります。コンプライアンスが上がるのは、肺気腫のように肺の弾性が失われる病態です。RDSでは、人工肺サーファクタントの投与で病態が改善したときに上昇がみられます。

4.母親の糖尿病罹患が発症のリスク因子である。:正答。母体の高血糖によって胎児は高血糖・高インスリン血症になります。インスリンはコルチゾールの肺成熟作用に拮抗してサーファクタントの合成を抑えるため、同じ在胎週数でも肺の成熟が遅れます。糖尿病合併妊娠や妊娠糖尿病の母体から生まれた児では、RDSと新生児低血糖を念頭に置いて、呼吸状態と血糖を観察します。

5.出生前の母体への抗菌薬投与が発症予防に有効である。:RDSの予防に有効なのは、出生前に母体へ副腎皮質ステロイドを投与して胎児の肺成熟を促すことです。抗菌薬には肺の成熟を促す作用がなく、RDSの予防にはなりません。母体への抗菌薬投与が予防に役立つのは、GBS保菌妊婦への分娩時投与による新生児の早発型GBS感染症の予防や、早産期の前期破水での絨毛膜羊膜炎・新生児感染症の予防です。なお、早発型GBS感染症による肺炎はエックス線でRDSに似た像を示すことがあるため、鑑別に注意します。

覚えるポイント

  • RDSは、Ⅱ型肺胞上皮細胞がつくる肺サーファクタントが足りずに肺胞がつぶれる疾患で、肺コンプライアンスは低下します。生後早期からの多呼吸・陥没呼吸・呻吟・チアノーゼが特徴です。
  • 危険因子は、早産、男児、母体の糖尿病(胎児の高インスリン血症がサーファクタント合成を抑える)、帝王切開、新生児仮死です。糖尿病母体児では、新生児低血糖・巨大児・多血症・高ビリルビン血症・低カルシウム血症にも注意します。
  • 診断の手がかりは、胸部エックス線の両側びまん性の網状顆粒状陰影と気管支透亮像(重症ではwhite lung)、そして胃液・羊水のマイクロバブルテストの弱い結果です。
  • 治療は人工肺サーファクタントの気管内投与と呼吸管理です。予防は、妊娠34週未満で早産が予想される母体への副腎皮質ステロイド投与で、抗菌薬では予防できません。
  • エックス線での鑑別:新生児一過性多呼吸は肺門部の線状陰影や葉間胸水、胎便吸引症候群は粗い斑状陰影と過膨張が特徴で、気胸を合併しやすくなります。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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