第106回

106AM037|第106回 助産師国家試験 過去問

2つ選択

Aさん(38歳、初産婦)は3,000 gの児を正常分娩した。分娩所要時間は22時間で出血量は250 mL。会陰裂傷はⅠ度で縫合せず、産道損傷はない。産褥1日の外陰部診察で会陰部は発赤や腫脹はなく、軽度の疼痛があった。肛門部に母指頭大で浮腫状の腫瘤が認められ、出血はなく、触れると疼痛を訴える。Aさんへの助産師の対応で適切なのはどれか。2つ選べ。

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正解1・5

正答

1.内診をする。
5.腫瘤に処方された抗炎症作用の軟膏を塗布する。

この問題のポイント

産褥1日に肛門部にみられた、浮腫状で圧痛のある母指頭大の腫瘤への対応を問う問題です。所見は分娩時の努責で生じやすい痔核に合います。ただし、同じように肛門部の痛みや腫れとして現れ、外からは出血が見えないまま大量出血に進むことがある腟壁血腫を、内診で否定することが先決です。痔核と確認できれば、処方された軟膏の塗布と便通の調整による保存的ケアを行います。

解説

事例の情報を整理する

  • 38歳の初産婦(高年初産)で、3,000 gの児を経腟で正常分娩しました。
  • 分娩所要時間は22時間です。遷延分娩の定義(初産婦30時間以上、経産婦15時間以上)には当たりませんが、長時間の陣痛と努責で骨盤内や肛門周囲の静脈がうっ血しやすい経過です。
  • 出血量250 mLは正常範囲です(経腟分娩では500 mL以上が異常出血の目安です)。
  • 会陰裂傷はⅠ度(会陰の皮膚と腟粘膜の浅い損傷)で縫合しておらず、ほかの産道損傷もありません。
  • 産褥1日の会陰部は発赤・腫脹がなく、疼痛も軽度です。会陰の治癒経過は順調と判断できます。
  • 問題は肛門部の所見で、母指頭大・浮腫状・出血なし・触れると痛む腫瘤がみられます。

痔核と考えられる理由

妊娠中は、増大した子宮が骨盤内の静脈を圧迫して血液の戻りが悪くなります。さらにプロゲステロンの作用で腸管の動きが低下し、便秘になりやすくなります。この状態に分娩第2期の強い努責が加わると、肛門周囲の静脈叢の圧が急に高まり、痔核が新たにできたり悪化したりします。肛門縁に浮腫状の腫瘤があり、触れると痛むという所見は、外痔核や、脱出した内痔核に浮腫が加わった状態に典型的です。痔核は産褥早期によくみられるマイナートラブルの一つです。

先に腟壁血腫を否定する

外陰・腟壁血腫は、分娩時に腟壁や外陰の粘膜下・皮下の血管が損傷し、組織の中に血液がたまったものです。表面の粘膜や皮膚に裂傷がなくても起こるため、「産道損傷はない」という情報だけでは否定できません。初産、遷延分娩や急速分娩、巨大児、吸引・鉗子分娩、会陰切開などがリスク因子です。

症状は、会陰部や肛門部の強い痛み、肛門の圧迫感や便意です。分娩後数時間以内に現れることが多いものの、翌日以降に気づかれることもあります。外出血はほとんどないのに、血腫が大きくなると貧血やショックに至る「見えない出血」であることが最も注意すべき点です。腟の奥の腟壁にできた血腫は外からは見えにくく、肛門部の痛みや腫れとして訴えられるため、痔核と取り違えやすくなります。

そのため助産師は、肛門部の腫瘤を見た段階で痔核と決めつけず、内診で腟壁に暗紫色の膨隆や緊満した腫瘤、強い圧痛がないかを確かめます。血腫が疑われれば直ちに医師に報告し、バイタルサインや貧血症状、血腫の大きさの推移を観察します。大きいものや増大するものは、切開して血腫を除去する処置が必要になります。

痔核と確認した後のケア

  • 医師の処方に基づき、抗炎症作用のある軟膏を塗布して腫脹と疼痛を和らげます。薬剤の塗布は診療の補助として助産師が行えます。
  • 便を軟らかく保つために、水分と食物繊維をとり、早期離床を促します。必要に応じて医師の処方による緩下剤を用います。便意を我慢しないこと、排便時に長くいきまないことを指導します。
  • 温水洗浄便座やシャワーで局所を清潔に保ち、座るときに患部を圧迫しない姿勢を工夫します。痛みが強ければ鎮痛薬の使用を相談します。
  • 腫瘤の増大、強まる痛み、出血、硬く暗紫色に変化するといった変化があれば医師に報告します。

産褥の母親は会陰部や肛門部の痛みがあると排便を我慢しがちで、それが便秘と痔核の悪化を招く悪循環になります。痛みを和らげて排泄を支えることは、退院後の育児に向けた身体の回復にも直結します。

選択肢の確認

1.内診をする。:正答。肛門部の痛みや腫れは腟壁血腫の症状としても現れます。腟壁血腫は粘膜に裂傷がなくても生じ、外出血が少ないまま増大して貧血やショックに至ることがあります。痔核と判断してケアを始める前に、内診で腟壁の膨隆や圧痛がないことを確認する必要があり、産褥の内診は助産師が行える業務です。

2.速やかに腫瘤を整復する。:腫瘤が痔核か血腫かを確認しないまま押し込むことは危険であり、急いで行う処置ではありません。外痔核は肛門の外側にできたものなので、押し戻す対象になりません。浮腫が強く痛みもある状態で無理に還納すると、疼痛を増したり組織を傷つけたりします。脱出した内痔核で痛みが少なく容易に戻る場合には、愛護的に還納することもあります。しかしそれは性状を確認したうえでの判断であり、この場面で優先することではありません。

3.飲食を控えるよう説明する。:産褥期は分娩による消耗からの回復と母乳分泌のために、十分なエネルギーと水分が必要な時期です。飲食を減らすと便の量が減って硬くなり、便秘から排便時の努責が強まって痔核を悪化させます。手術前など絶食が必要な状況とは異なり、痔核のケアではむしろ水分と食物繊維を十分にとるよう勧めます。

4.腹圧をかけないよう伝える。:腹圧は排便・排尿だけでなく、起き上がりや咳、授乳の姿勢でもかかるため、まったくかけないことは現実的ではありません。この指導は排便や排尿の我慢につながりやすく、便秘は痔核を悪化させます。また、膀胱が充満すると子宮収縮が妨げられ、子宮復古にも悪影響が出ます。正しい指導は、便を軟らかく保って排便時に長くいきまないようにすることであり、腹圧を禁じることではありません。

5.腫瘤に処方された抗炎症作用の軟膏を塗布する。:正答。産褥期の痔核の治療は保存的療法が基本で、ステロイドなどの抗炎症成分を含む軟膏で局所の腫脹と疼痛を軽減します。医師の処方に基づく薬剤の塗布は、診療の補助として助産師が実施できます。塗布の際には清潔操作を守り、腫瘤の大きさ・色・硬さ・出血の有無もあわせて観察します。

覚えるポイント

  • 産褥早期の肛門部痛・腫瘤・肛門圧迫感(便意)では、痔核だけでなく外陰・腟壁血腫を疑い、内診で腟壁を確認します。
  • 腟壁血腫は粘膜に裂傷がなくても起こる「見えない出血」です。リスク因子は初産、遷延分娩・急速分娩、巨大児、吸引・鉗子分娩、会陰切開などです。
  • 産褥の痔核は、妊娠中の静脈うっ血と便秘に分娩時の努責が加わって生じます。処方軟膏、便通の調整、清潔保持、疼痛緩和による保存的ケアが基本で、無理な整復はしません。
  • 便秘予防は、水分と食物繊維の摂取、早期離床、便意を我慢しないことです。飲食制限や排泄を我慢させる指導は逆効果です。
  • 会陰裂傷の分類は、Ⅰ度が皮膚・腟粘膜、Ⅱ度が会陰筋層、Ⅲ度が肛門括約筋、Ⅳ度が肛門・直腸粘膜までです。
  • 遷延分娩は初産婦30時間以上・経産婦15時間以上、経腟分娩の異常出血は500 mL以上が目安です。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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