第106回
106AM038|第106回 助産師国家試験 過去問
Aさん(37歳、1回経産婦)は妊娠高血圧腎症の診断を受け、妊娠29週6日に帝王切開で896 gの女児を出産した。Aさんが将来発症する危険性が高い疾患はどれか。2つ選べ。
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正解4・5
正答
4.心血管疾患
5.慢性腎臓病
この問題のポイント
妊娠高血圧腎症は分娩で症状が治まっても、その後の女性の健康に長く影響します。この問題はそのことを理解しているかを問うています。手がかりは「妊娠高血圧腎症」という診断と、妊娠29週台で帝王切開になったという早発型・重症を示す経過です。病態の中心が全身の血管内皮障害であり、とくに腎臓の糸球体が障害されることを押さえていれば、血管と腎臓に関わる2つを選べます。
解説
問題文から読み取ること
- 妊娠高血圧腎症:妊娠20週以降に初めて高血圧(収縮期140 mmHg以上または拡張期90 mmHg以上)が出現した病態です。蛋白尿を伴うもののほか、蛋白尿がなくても肝・腎機能障害、神経障害、血液凝固障害、子宮胎盤機能不全(胎児発育不全など)を伴う場合も含まれます。
- 妊娠29週6日で帝王切開:34週未満に発症する早発型にあたります。母体か胎児の状態から、妊娠の継続は難しいと判断されたと考えられます。重症の経過であったことがうかがえます。
- 出生体重896 g:在胎週数のわりに小さい可能性があり、胎盤機能の低下が背景にあったことを示唆します。
- 37歳:高年であることも、妊娠高血圧腎症の危険因子の一つです。
なぜ血管と腎臓なのか
妊娠初期に子宮のらせん動脈が十分に作り替えられないと、胎盤が虚血状態になります。すると胎盤から血管新生を妨げる因子(sFlt-1など)が多く放出され、血管新生を促す因子(PlGF)は低下します。その結果、母体の全身で血管内皮が障害されます。これが高血圧や臓器障害の本態です。腎臓では糸球体の内皮細胞が腫大する糸球体内皮症が起こり、これが蛋白尿の原因になります。
分娩で胎盤が娩出されると症状は改善します。しかし次の2つの理由から、将来の病気の危険は残ると考えられています。
- 血管や腎臓に障害の影響が残ること
- 肥満、インスリン抵抗性、もともとの血管機能の弱さといった共通の素因があること
妊娠は心血管系への「負荷試験」ともいわれ、潜在していた弱さが妊娠中に表面化したととらえられます。
分娩後も続く危険
妊娠高血圧腎症の既往がある女性では、次の疾患の発症が既往のない女性より多いことが、多くの疫学研究で示されています。
- 慢性高血圧、虚血性心疾患、脳卒中、心不全
- 慢性腎臓病、末期腎不全
- 2型糖尿病、脂質異常症
危険は、早発型、重症、早産での分娩、胎児発育不全を伴った例ほど高くなります。Aさんはこれらの多くに当てはまります。
実践での生かし方
まず、分娩後12週までに血圧と尿所見が正常に戻るかを確認します。戻らない場合は、もともとの高血圧や腎疾患が隠れていた可能性を考えます。正常化した後も、Aさんには次のことを伝えます。
- 今回の経過は将来の病気の危険を示すサインであること
- 家庭血圧の測定と定期的な健診(血圧、尿蛋白、腎機能、血糖、脂質)を続けること
- 減塩、体重管理、禁煙、運動を続けること
次の妊娠では再発の危険が高いため、妊娠前からの健康管理と早期からの妊婦健診が大切です。助産師は、産後健康診査や市町村の保健事業へつなぐ役割を担います。また母子健康手帳の記録を今後の受診先と共有できるよう助言します。
選択肢の確認
1.肝硬変:妊娠高血圧腎症では、HELLP症候群(溶血、肝酵素上昇、血小板減少)や肝被膜下血腫のように肝臓が障害されることがあります。ただしこれは妊娠中から分娩直後に起こる急性の障害で、分娩後には改善するのが原則です。長年にわたる肝細胞障害と線維化の結果として起こるこの病態の主な原因は、B型・C型肝炎ウイルスの持続感染、アルコール、代謝機能障害に関連する脂肪性肝疾患などです。妊娠高血圧腎症の既往は将来の危険因子として扱われていないため、選びません。「妊娠中の肝機能異常」と「将来の慢性肝疾患」を混同しないようにします。
2.卵巣癌:卵巣の上皮性悪性腫瘍の危険因子は、未経産、不妊、子宮内膜症、BRCA1/2遺伝子の病的バリアント(HBOC)などです。排卵の回数が多いほど危険が高いと考えられています。逆に、妊娠・出産、授乳、経口避妊薬は排卵を減らすため、危険を下げる方向に働きます。Aさんは経産婦で、妊娠高血圧腎症の既往も危険因子には含まれません。したがって該当しません。
3.甲状腺疾患:産後に起こる甲状腺の病気の代表は産後甲状腺炎です。抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体陽性などの自己免疫を背景に、分娩後数か月以内に一過性の甲状腺中毒症や、それに続く甲状腺機能低下症を起こします。これは妊娠高血圧腎症の長期予後とは別の文脈で問われる内容です。妊娠高血圧腎症の既往者に長期の追跡が勧められているのは血圧・心臓・脳血管と腎臓です。「産後の体調変化=甲状腺」という連想で選ばないよう注意します。
4.心血管疾患:正答。全身の血管内皮障害が病態の中心で、慢性高血圧、虚血性心疾患、脳卒中、心不全の発症が既往のない女性より多いことが示されています。早発型・重症で早産に至ったAさんは、とくに危険の高い群にあたります。産後も血圧を中心とした継続的な管理が必要です。
5.慢性腎臓病:正答。妊娠中の糸球体内皮症に加え、高血圧が続くことや共通の素因によって、将来CKDや末期腎不全に至る危険が高まります。CKDは、蛋白尿などの腎障害の所見、またはGFR 60 mL/分/1.73 m²未満のいずれかが3か月以上続く状態と定義されます。産後に尿蛋白や腎機能の確認を続ける根拠になります。
覚えるポイント
- 妊娠高血圧腎症は「分娩で終わる病気」ではありません。将来の慢性高血圧・虚血性心疾患・脳卒中・心不全、慢性腎臓病・末期腎不全、2型糖尿病などの危険因子です。
- 病態の流れは、らせん動脈のリモデリング不全 → 胎盤虚血 → sFlt-1増加・PlGF低下 → 全身の血管内皮障害です。腎臓では糸球体内皮症から蛋白尿が生じます。
- 早発型(34週未満で発症)、重症、早産での分娩、胎児発育不全を伴う例ほど、将来の危険は高くなります。
- 妊娠中の合併症は将来の病気の予告と考えます。妊娠糖尿病は2型糖尿病、妊娠高血圧症候群は心血管疾患・腎疾患につながります。
- 産後は12週までに血圧が正常化するかを確認し、その後も家庭血圧と健診を生涯続けます。次回妊娠は再発リスクが高いため、早期から管理します。
- HELLP症候群による肝障害は一過性で、産後甲状腺炎は自己免疫が背景です。どちらも妊娠高血圧腎症の長期予後とは区別して覚えます。
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