第106回
106AM055|第106回 助産師国家試験 過去問
次の文を読み55の問いに答えよ。Aさん(40歳、1回経産婦)は妊娠35週4日、2時間ほど持続する下腹部痛が治まらないため、救急外来を受診した。来院時、Aさんは子宮全体に痛みを訴えており苦悶様の表情で、子宮は硬い。血性の帯下がみられている。Aさんの意識は清明で、バイタルサインは、体温37.3 ℃、呼吸数16/分、脈拍72/分、整、血圧158/96 mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉95%(room air)である。胎児心拍数陣痛図(別冊No. 4)を別に示す。診断のために最初に行われる検査はどれか。

解答・解説を見る
正解3
正答
3.超音波検査
この問題のポイント
妊娠後期に続く下腹部痛から、どの病態を疑い、最初にどの検査で確かめるかを問う問題です。手がかりは、間欠期のない腹痛、子宮全体の痛みと硬さ(板状硬)、少量の性器出血、高血圧、子宮収縮のたびに繰り返す一過性徐脈です。これらから常位胎盤早期剝離(早剝)が最も疑われます。胎盤の位置と剝離の所見、胎児の状態をベッドサイドですぐに確認できる超音波検査が、診断のために最初に行う検査です。
解説
問題文から読み取る手がかり
- 痛みの性質:下腹部痛が2時間治まらず、子宮全体が痛み、子宮は硬いままです。陣痛や切迫早産の子宮収縮なら、痛みは間欠的で、収縮の合間に子宮は軟らかくなります。合間なく硬いのは、子宮筋が持続して緊張している状態(板状硬)です。前置胎盤の出血はふつう痛みを伴わず、子宮も軟らかいので、この点でも区別できます。
- 出血:血性の帯下という少量の外出血です。早剝では血液が胎盤と子宮壁の間にたまります(内出血)。そのため外出血が少なくても重症のことがあり、外出血量で重症度を判断してはいけません。
- 背景:血圧158/96 mmHgは高血圧(収縮期140 mmHg以上または拡張期90 mmHg以上)に当たります。痛みで上がっている可能性もありますが、妊娠高血圧症候群が背景にあるかもしれません。妊娠高血圧症候群は早剝の代表的な危険因子で、40歳の高年妊娠も危険因子の一つとされます。
- 全身状態:意識は清明です。ショック指数(脈拍÷収縮期血圧)は72÷158で約0.46で、今のところ循環は保たれています。ただし高血圧があると、出血による血圧低下が表に出にくいので、急変に備えます。体温37.3℃は軽い上昇にとどまり、母体頻脈も明らかな胎児頻脈もありません。そのため絨毛膜羊膜炎などの感染を強く示す所見ではありません。呼吸数16/分、SpO2 95%で、呼吸の異常を示す情報もありません。
- 胎児心拍数陣痛図(紙送り速度3 cm/分):子宮収縮はおおむね2〜3分おきです。胎児心拍数の基線はおよそ150〜160 bpmで、正常範囲(110〜160 bpm)の上限寄りです。収縮のたびに一過性徐脈が現れ、その多くは最下点が収縮の頂点より遅れ、回復も収縮の終わりより遅れています。遅発一過性徐脈を疑わせる形で、明らかな一過性頻脈はありません。胎盤でのガス交換がうまくいかず、胎児が低酸素状態になりつつあることを示唆します。なお、外測の陣痛計では、収縮していないときの子宮の緊張(基礎緊張)の強さは評価できません。だからこそ「子宮が硬い」という触診所見が重要な情報になります。
常位胎盤早期剝離の病態
正常な位置(子宮体部)に付着した胎盤が、胎児が生まれる前に子宮壁から剝がれる病態です。基底脱落膜からの出血で胎盤後血腫ができ、剝離が広がっていきます。胎児はガス交換の面積が減って低酸素になり、胎児機能不全から胎児死亡に至ることがあります。母体では、剝離部から組織因子(組織トロンボプラスチン)が血中に入り、凝固因子と血小板が消費されます。その結果、播種性血管内凝固症候群(DIC)を起こしやすくなります。血液が子宮筋層に染み込んだ子宮胎盤溢血(クーベレール子宮)では、分娩後に子宮がよく収縮せず、弛緩出血の原因にもなります。
超音波検査が最初になる理由
胎児心拍数陣痛図で胎児の状態の悪化が疑われる今、次に必要なのは、子宮の中で何が起きているかを直接確かめることです。超音波検査は救急外来のベッドサイドですぐに行えます。体を傷つけず被曝もなく、次の情報を一度に得られます。
- 胎盤の付着部位:前置胎盤を否定します。妊娠中期以降の性器出血では、内診で大出血を起こすおそれがあるので、前置胎盤が否定されるまで内診は行いません。
- 剝離の所見:胎盤と子宮壁の間の血腫(胎盤後血腫)や、胎盤の異常な厚みを探します。
- 胎児の状態:心拍の有無、胎位、推定体重、羊水量を確認し、いつ・どの方法で分娩するかの判断に使います。
ただし、超音波で血腫をとらえられないことも多く、所見がなくても早剝は否定できません。診断は、症状と触診所見、胎児心拍数陣痛図、超音波所見を合わせて行います。確定診断は分娩後の胎盤で行い、母体面に凝血塊がついていたり圧痕(へこみ)があったりすることで確かめます。
血液検査(血算、凝固・線溶系、血液型と交差適合試験など)も、静脈路を確保するときに一緒に速やかに行う必須の検査です。ただし目的は貧血やDICの評価と輸血の準備で、剝離そのものをとらえる検査ではありません。実際には、超音波と並行して採血し、医師への報告、胎児心拍数の連続監視、輸血と緊急帝王切開の準備を同時に進めます。妊娠35週は児の生存が十分期待できる時期です。早剝と診断されて胎児が生きていれば、原則として速やかに児を娩出させます(多くは帝王切開)。助産師は、子宮底の高さに印をつけて上昇(内出血の増加)がないかを確かめます。あわせて、子宮の硬さと圧痛、外出血の量と性状、バイタルサイン、注射部位の血が止まりにくいなどの出血傾向を観察し続けます。
選択肢の確認
1.尿検査:蛋白尿の有無は、高血圧が妊娠高血圧腎症によるものかを判断する材料の一つで、妊娠高血圧症候群の評価には役立ちます。しかし胎盤の位置や剝離の有無、胎児の状態は分からず、続いている腹痛の原因を突き止める検査ではありません。採尿を待つ間に母児の状態が悪くなるおそれもあり、診断のために最初に行うものではありません。膀胱炎や尿路結石など、泌尿器の病気による腹痛を疑う場面なら有用です。
2.血液検査:血算(ヘモグロビン、血小板)、凝固・線溶系(フィブリノゲン、FDP・Dダイマーなど)、血液型と交差適合試験は、早剝を疑ったらすぐに提出すべき検査です。ただし目的は出血の程度やDICの評価と輸血の準備で、剝離を直接とらえるものではなく、結果が出るまで時間もかかります。「早剝ならDICが心配だから採血」という連想で選びやすい選択肢です。しかし診断のために最初に行うのは選択肢3で、採血はそれと並行して行うものです。
3.超音波検査:正答。ベッドサイドですぐに、体を傷つけずに行えます。前置胎盤の否定(内診してよいかの判断)、胎盤後血腫や胎盤の厚みなど剝離の所見の確認、胎児心拍の有無・胎位・推定体重の確認が一度にできます。感度は高くないため、所見がなくても早剝は否定できません。それでも繰り返し行って経過を追うことができ、最初の一歩として得られる情報が最も多く、分娩方針の決定にも直接つながります。
4.胸部エックス線検査:肺水腫、肺炎、心拡大など胸部の病変を調べる撮影で、子宮や胎盤の状態は分かりません。Aさんは呼吸数16/分、SpO2 95%で、呼吸の異常を示す情報がなく、この時点で撮影する理由はとぼしいです。重症の妊娠高血圧腎症で肺水腫を疑うときや、呼吸困難・SpO2の低下があるときには検討されます。しかし腹痛の原因を診断するために最初に選ぶ検査ではありません。
覚えるポイント
- 早剝を疑う所見:間欠期のない持続する腹痛、子宮の板状硬と圧痛、暗赤色で少量のこともある性器出血、胎児心拍の異常(遅発一過性徐脈、基線細変動の減少、遷延一過性徐脈、徐脈など)
- 早剝の危険因子:妊娠高血圧症候群、早剝の既往、腹部外傷、喫煙、絨毛膜羊膜炎・前期破水など
- 妊娠中期以降の出血や腹痛では、まず超音波で胎盤の位置を確認し、前置胎盤が否定されるまで内診しない
- 前置胎盤は痛みのない鮮紅色の出血で、子宮は軟らかい。早剝は痛みを伴い子宮が硬く、外出血量と重症度が一致しない
- 超音波では胎盤後血腫と胎盤の厚みを探すが、感度は高くない。確定診断は分娩後の胎盤母体面の凝血塊付着と圧痕
- 血液検査は診断よりも、重症度とDICの評価、輸血準備のため(フィブリノゲン低下、FDP・Dダイマー上昇、血小板減少に注意)。ショック指数は、産科では1で出血量約1.5 Lが目安
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する(medixmatch2025@gmail.com)までお知らせください。確認して修正します。
解いた記録を残して、苦手な問題をもう一度。
学習アプリなら、この問題の解答記録・メモ・暗記カード化を使えます。