第106回
106PM009|第106回 助産師国家試験 過去問
Aさん(38歳、女性)は3年前から不妊治療を受けている。「医師から新たな治療方法を勧められました。不妊治療をこのまま続けるか迷っています」と話す。助産師はAさんへの意思決定支援を行うことにした。意思決定の共有モデル〈shared model〉に沿った助産師の対応はどれか。
解答・解説を見る
正解3
正答
3.「治療継続のリスクや利点について一緒に考えましょう」
この問題のポイント
医療における意思決定の3つのモデル(パターナリズムモデル、インフォームド・モデル、シェアード・モデル)を、具体的な声かけから見分けられるかを問う問題です。手がかりは「共有」という言葉です。シェアード・モデルでは、専門職と本人の双方が情報を出し合い、話し合いに加わり、一緒に結論を目指します。「誰が決めるのか」「情報がどちら向きに流れるのか」に注目すると、選択肢を判別できます。
解説
問題文の手がかり
Aさんは38歳で、3年間不妊治療を続けてきました。医師から新たな治療を勧められ、「このまま続けるか迷っている」と話しています。迷いは新しい治療を受けるかどうかにとどまらず、治療そのものを続けるかどうかにまで及んでいます。
不妊治療を続けるかどうかには、次のような要素が関わります。
- 年齢とともに変わる妊娠の見込み
- 身体的・経済的な負担
- 仕事や夫婦関係への影響
- 治療を終えた後の人生設計
このように医学的な正解が1つに決まらず、本人の価値観によって最善が変わる選択でこそ、共有型の意思決定支援が求められます。
意思決定の3つのモデル
医療者と患者の意思決定のあり方は、一般に次の3つに整理されます。
- パターナリズム(父権主義)モデル:医療者が最善と判断した方針を決め、患者はそれに従います。情報は医療者から患者への一方向で、決定するのは医療者です。
- インフォームド・モデル:医療者は選択肢や利点・リスクなどの情報を提供し、決定は患者が単独で行います。医療者は決定の話し合いには加わりません。
- シェアード・モデル:医療者は医学的な情報(選択肢、利点、リスク、見通し)を示し、患者は自分の価値観、希望、不安、生活上の事情を語ります。双方向に情報を交換し、両者が話し合いに参加して、合意できる方針を一緒に見いだします。
シェアード・モデルの要点は3つです。
- 情報の流れが双方向であること
- 医療者と本人の両方が決定の過程に参加すること
- 合意を目指すこと
専門職が「決めてあげる」のでも、情報だけ渡して「あとはご自分で」と委ねるのでもない点が、ほかの2つとの違いです。
インフォームド・コンセントとの違いも押さえておきます。インフォームド・コンセントは、十分な説明を受けて本人が理解し、同意(または拒否)する手続きに重点があります。一方、シェアード・デシジョン・メイキング(SDM)は、どの選択肢を選ぶかを本人と医療者が一緒に考えていく過程そのものを重視します。
助産師の役割と正答に至る判断
Aさんの迷いは「意思決定の葛藤」と捉えられます。助産師が行う支援は次のとおりです。
- 医師の説明をAさんがどう理解しているかを確かめる
- 治療を続ける、新しい治療に進む、治療をやめる、といった選択肢ごとの利点・リスク・負担を一緒に整理する
- Aさんが何を大切にしたいのかを言葉にできるよう支える
- 必要に応じて医師に確認し、情報を補う
また、不妊治療は夫婦で取り組むものなので、パートナーにも話し合いに加わってもらうことには意義があります。
関連知識として、2022年4月から不妊治療が公的医療保険の適用になりました(出題時点で施行済み)。対象は、人工授精などの一般不妊治療と、体外受精・顕微授精などの生殖補助医療です。生殖補助医療には次の要件があります。
- 治療開始時の女性の年齢が43歳未満であること
- 胚移植の回数上限は、初めての治療開始時点の女性の年齢で決まり、40歳未満は1子ごとに通算6回まで、40歳以上43歳未満も1子ごとに通算3回まで
38歳のAさんにとって、年齢は治療の選択に関わる現実的な要素であり、こうした情報も話し合いの材料になります。
3つのモデルに当てはめると、選択肢1はパターナリズムモデル、選択肢2はインフォームド・モデル、選択肢3はシェアード・モデルに対応します。選択肢4は、助産師が決定の過程に加わらず、相談の相手を他者に移す対応です。したがって、利点とリスクを示しながら「一緒に考える」選択肢3が正答です。
選択肢の確認
1.「医師から説明があった治療を受けることをお勧めします」:医療者が最善と考える方針を示し、それに従うよう促すパターナリズムモデルの対応です。Aさんが迷っている理由や価値観を確かめないまま結論を示しており、情報の流れも医療者から本人への一方向です。救急の場面や、本人が医療者に判断を委ねたいと望む場合にはこの形がとられることもあります。しかし、不妊治療の継続のように価値観によって最善が変わる選択には適しません。また、医師の勧めを繰り返すだけでは助産師としての支援になりません。
2.「治療方法の説明冊子があるので持ち帰ってご覧ください」:情報を提供し、決定を本人に委ねるインフォームド・モデルの対応です。冊子で情報を補うこと自体は有用で、ディシジョンエイド(意思決定支援ツール)もシェアード・モデルの中で活用されます。しかし、持ち帰って一人で読んでもらうだけでは、Aさんの価値観や不安を聞き取る対話がありません。迷っている本人を一人で決定に向かわせることになります。冊子を使うなら、一緒に内容を確認し、疑問や気持ちを話し合う場を設けることが必要です。
3.「治療継続のリスクや利点について一緒に考えましょう」:正答。治療を続けた場合の利点とリスクという医学的な情報を助産師が示す姿勢と、「一緒に考えましょう」とAさんの考えや価値観を引き出して話し合いに加わる姿勢の両方が表れています。双方向の情報交換と、専門職と本人がともに決定の過程に参加するというシェアード・モデルの要件を満たす対応です。
4.「ご家族に相談してはいかがですか」:助産師自身は話し合いに加わらず、相談の相手を家族に移してしまう対応です。不妊治療は夫婦で考える課題であり、パートナーや家族が意思決定に関わることは大切です。ただしそれは、助産師がAさんと対話したうえで、Aさんの希望に沿って家族も交えて話し合う形で行うものです。迷いを打ち明けたAさんにこの言葉だけを返すと、支援を断られたと受け取られかねません。
覚えるポイント
- 意思決定の3モデル:パターナリズムは医療者が決める、インフォームドは情報を渡して本人が一人で決める、シェアードは双方向の情報交換で一緒に決める。
- シェアード・モデルの要件:医療者と本人の双方が参加し、医療者は医学的情報を、本人は価値観や生活の事情を提供し、合意を目指す。
- 声かけで見分ける:「お勧めします」は父権的、「持ち帰ってご覧ください」は委任、「一緒に考えましょう」は共有。
- 説明冊子やディシジョンエイドは、共有の過程の中で一緒に使う道具です。渡すだけでは共有になりません。
- インフォームド・コンセントは説明と同意の手続き、シェアード・デシジョン・メイキングは選択を一緒に考える過程です。
- 不妊治療の保険適用(2022年4月〜):生殖補助医療は治療開始時の女性の年齢が43歳未満。胚移植の回数上限は初めての治療開始時点の年齢で判定し、40歳未満は1子ごとに通算6回、40歳以上43歳未満も1子ごとに通算3回まで。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
問題文・正答・解説に誤りを見つけたら、この問題の誤りを報告する(medixmatch2025@gmail.com)までお知らせください。確認して修正します。
解いた記録を残して、苦手な問題をもう一度。
学習アプリなら、この問題の解答記録・メモ・暗記カード化を使えます。