第106回

106PM010|第106回 助産師国家試験 過去問

30歳の初産婦、既往歴なし。妊娠経過を以下に示す。【表】 妊娠週数|16週6日|26週6日|28週6日|30週6日 子宮底長(cm)|14|23|24|25 腹囲(cm)|78|83|84|85 体重(kg)|58.0|61.0|61.8|62.5 血圧(mmHg)|112/58|128/76|130/88|150/103 浮腫|(-)|(-)|(-)|(-) 尿蛋白|(-)|(±)|2 +|3 + 尿糖|(-)|(-)|(-)|(-) 推定胎児体重(g)||915|1,100|1,200 【表ここまで】 妊娠30週6日の状態で考えられるのはどれか。

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正解3

正答

3.妊娠高血圧腎症

この問題のポイント

妊婦健診の経過表から、妊娠高血圧症候群(HDP)の病型を見分ける問題です。判断の鍵は、高血圧が初めて現れたのが妊娠20週より前か後かと、高血圧に蛋白尿(または臓器障害・子宮胎盤機能不全)を伴うかの2点です。本例は20週前の16週6日には血圧・尿蛋白とも正常でした。30週6日に初めて高血圧の基準を満たし、尿蛋白も2回続けて陽性なので、妊娠高血圧腎症と判断できます。

解説

子宮底長・腹囲・体重・血圧・浮腫・尿蛋白・尿糖は、妊婦健診で毎回行う基本の検査計測です。まず既往歴がないことを確認し、そのうえで血圧と尿蛋白の変化を時間の順に追います。

  • 16週6日(妊娠20週より前):血圧112/58 mmHg、尿蛋白(-)です。妊娠前半に高血圧も蛋白尿もなく、妊娠前からの高血圧や腎疾患は考えにくい状態です。
  • 26週6日:血圧128/76 mmHg、尿蛋白(±)で、どちらも基準に届いていません。試験紙法の(±)は陽性に数えません。
  • 28週6日:血圧130/88 mmHgは収縮期140 mmHg未満・拡張期90 mmHg未満なので、まだ高血圧ではありません。一方で尿蛋白は2+となり、蛋白尿が高血圧より先に現れています。
  • 30週6日:血圧150/103 mmHgで、収縮期140 mmHg以上・拡張期90 mmHg以上の両方を満たし、ここで初めて高血圧になりました。尿蛋白は3+に増えています。

浮腫と尿糖はずっと(-)です。体重の増え方も2週で0.7〜0.8 kgで、急な増加はありません。見落としやすいのは胎児側の所見です。子宮底長は16週6日から26週6日までの10週間で9 cm伸びましたが、その後は23→24→25 cmと2週で1 cmずつしか伸びていません。推定胎児体重も915 g→1,100 g(2週で185 g増)→1,200 g(2週で100 g増)です。本来は体重の増え方が大きくなる妊娠後期に、逆に鈍っています。推定胎児体重には誤差があるので、子宮底長の推移と合わせて傾向として読みます。

妊娠高血圧症候群の定義と病型

出題当時に使われていたのは、日本産科婦人科学会の2018年の定義・分類です。妊娠中に高血圧(収縮期血圧140 mmHg以上、または拡張期血圧90 mmHg以上)を認めた場合を妊娠高血圧症候群とし、次の4つの病型に分けます。

  • 妊娠高血圧腎症:妊娠20週以降に初めて高血圧が現れ、蛋白尿を伴うものです。蛋白尿がなくても、次のいずれかがあればこの病型に含めます:肝機能障害、進行性の腎障害、脳卒中・神経障害(子癇、視野障害など)、血液凝固障害(血小板減少など)、子宮胎盤機能不全(胎児発育不全、臍帯動脈血流波形異常、死産)。
  • 妊娠高血圧:妊娠20週以降に初めて高血圧が現れ、上に挙げたものをどれも伴わないものです。
  • 加重型妊娠高血圧腎症:妊娠前または妊娠20週までに高血圧があり、20週以降に蛋白尿・臓器障害・子宮胎盤機能不全が加わったものです。20週までにあった高血圧と蛋白尿が20週以降に悪化した場合や、蛋白尿だけの腎疾患に20週以降に高血圧が加わった場合も含みます。
  • 高血圧合併妊娠:妊娠前または妊娠20週までに高血圧があり、加重型妊娠高血圧腎症は発症していないものです。

妊娠高血圧腎症と妊娠高血圧では、分娩後12週までに血圧が正常に戻ることも定義の一部です。蛋白尿は、24時間蓄尿で300 mg/日以上、または随時尿の蛋白/クレアチニン比(P/C比)0.3 mg/mg・Cr以上で診断します。どちらも行えない場合は、試験紙法で2回以上続けて1+以上なら蛋白尿としてよいとされています。2005年に「妊娠中毒症」から今の名称に変わったとき、浮腫は診断基準から外れました。2018年の改訂では、子癇が病型から外れてHELLP症候群などと同じ「関連疾患」になり、高血圧合併妊娠が新たに病型に加わりました。

本例の判断と重症度

判断は2段階で行います。1段階目は、20週までに高血圧(または蛋白尿を示す腎疾患)があったかどうかです。本例は16週6日の所見と既往歴からどちらもないので、「20週以降に新しく出た高血圧」の群に絞られます。2段階目は、蛋白尿などを伴うかどうかです。尿蛋白は28週6日に2+、30週6日に3+と2回続けて陽性なので、妊娠高血圧腎症と判断します。

28週6日は蛋白尿だけの段階で、まだ妊娠高血圧症候群ではありませんでした。20週以降に蛋白尿だけが出て、分娩後12週までに消える状態は「妊娠蛋白尿」と呼び、病型には含めません。ただし妊娠高血圧腎症に進むことがあるため、この時点で蛋白尿を定量検査で確かめ、血圧も注意して観察する必要があります。蛋白尿が先に出て高血圧が後から加わった場合でも、両方がそろえば妊娠高血圧腎症です。

発症は34週未満なので早発型にあたり、早発型は重症になりやすく胎児発育不全を伴いやすいとされます。重症度は次の2つで判定し、蛋白尿の量では決めません。

  • 血圧が収縮期160 mmHg以上、または拡張期110 mmHg以上か
  • 妊娠高血圧腎症では、母体の臓器障害や子宮胎盤機能不全を伴うか

本例の150/103 mmHgは、血圧だけでは重症の範囲に入りません。ただ、超音波で胎児の発育・羊水量・臍帯動脈血流を調べ、胎児発育不全が確かめられれば重症として扱います。

臨床・助産実践での意味

妊娠高血圧腎症のもとには、らせん動脈の再構築(リモデリング)がうまくいかないことによる胎盤の虚血があります。胎盤から血管内皮を傷つける因子(sFlt-1など)が母体の血液中に増え、全身の血管内皮障害が高血圧・蛋白尿・多臓器障害を起こします。胎盤への血流が減ると胎児発育不全の原因にもなり、本例で子宮底長と推定胎児体重が伸び悩んでいることとも合います。初産婦であることもリスク因子の1つです。

診断がついたら、通常は入院して母体と胎児の両方を管理します。観察する項目は次のとおりです。

  • 母体の基本:血圧・尿量・体重
  • 子癇やHELLP症候群の前ぶれ:頭痛、眼華閃発などの視覚異常、心窩部痛
  • 常位胎盤早期剥離のサイン:腹痛・性器出血・子宮が硬くなること
  • 胎児:胎児心拍数モニタリング、胎動

重症の範囲の高血圧には降圧薬を使います。ただしACE阻害薬とARBは胎児に影響するため、妊娠中は使いません。子癇の予防と治療には硫酸マグネシウムを使います。それでも根本的な治療は妊娠を終わらせることで、母児の状態を見て分娩の時期を決めます。分娩後も子癇は起こりうるので血圧の観察を続け、産後12週までに正常に戻るかを確認します。妊娠高血圧症候群を経験した女性は、将来の高血圧・心血管疾患や、次の妊娠での再発のリスクが高くなります。そのため長期的な健康管理につなげることも大切です。

選択肢の確認

1.妊娠高血圧:20週以降に初めて高血圧が出た点は本例と同じですが、この病型は蛋白尿も臓器障害・子宮胎盤機能不全も伴わないものに限られます。本例は尿蛋白が28週6日に2+、30週6日に3+と2回続けて陽性なので当てはまりません。30週6日まで尿蛋白が陰性で、臓器障害や子宮胎盤機能不全もなければ、この病型になります。高血圧だけの段階から、あとで蛋白尿が加わって選択肢3に移ることもあるため、この病型と診断したあとも尿蛋白の確認を続けます。

2.高血圧合併妊娠:この病型は、妊娠前または妊娠20週までに高血圧があることが前提です。本例は既往歴がなく、20週前の16週6日の血圧は112/58 mmHgで正常でした。高血圧が初めて出たのは30週6日なので当てはまりません。仮に妊娠前から高血圧があったとしても、20週以降に蛋白尿が加われば選択肢4に分類されます。なお、妊娠中期は末梢血管抵抗が下がって血圧が生理的に低くなり、軽い慢性高血圧が見えなくなることがあります。そのため妊娠前や妊娠初期の血圧を確かめることが大切です。

3.妊娠高血圧腎症:正答。妊娠20週以降に初めて高血圧が現れ、蛋白尿を伴う病型です。本例は16週6日には血圧・尿蛋白とも正常でした。30週6日に150/103 mmHgと初めて高血圧の基準を満たし、尿蛋白は28週6日に2+、30週6日に3+と続けて陽性です。浮腫がないことは、この判断を否定する理由になりません。

4.加重型妊娠高血圧腎症:この病型は、妊娠前または20週までに高血圧や蛋白尿を示す腎疾患という土台があり、20週以降にそこへ蛋白尿や臓器障害などが加わるか、症状が悪化した場合をいいます。「加重」は重症という意味ではなく、もともとの病気に重なるという意味です。尿蛋白3+や血圧の上がり方の程度で選ぶものではありません。本例は16週6日に高血圧も蛋白尿もなく、既往歴もないので、土台がなく当てはまりません。たとえば16週6日の時点ですでに収縮期140 mmHg以上または拡張期90 mmHg以上で、その後に尿蛋白が陽性になっていれば、この病型と判断されます。

覚えるポイント

  • 妊娠中の高血圧は収縮期140 mmHg以上または拡張期90 mmHg以上です。重症の範囲は収縮期160 mmHg以上または拡張期110 mmHg以上です。
  • 病型は2つの軸で整理します。1つは「高血圧が妊娠前・20週までにあったか、20週以降に初めて出たか」、もう1つは「蛋白尿などが加わっているか」です。組み合わせると次の4つになります:20週以降の高血圧のみ=妊娠高血圧、20週以降の高血圧+蛋白尿(または臓器障害・子宮胎盤機能不全)=妊娠高血圧腎症、もともとの高血圧のみ=高血圧合併妊娠、もともとの高血圧(または腎疾患)+20週以降の上乗せ・悪化=加重型妊娠高血圧腎症。
  • 蛋白尿は24時間蓄尿で300 mg/日以上、またはP/C比0.3以上です。試験紙法では2回以上続けて1+以上なら蛋白尿としてよく、(±)は陽性に数えません。
  • 浮腫は診断基準に入っていません。子癇とHELLP症候群は病型ではなく関連疾患です。34週未満の発症は早発型で、重症度は蛋白尿の量では決めません。
  • 根本的な治療は妊娠を終わらせることです。子癇の前ぶれ(頭痛・視覚異常・心窩部痛)と胎児の発育・健康状態をあわせて観察し、産後12週までに血圧が正常に戻るまで見届けます。

掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。

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